叶わぬ思いを願うことの意味
突然吹いた風に導き出されるかのように進むストーリー
半年間飼い主が目を覚ますのを待っていたという話を遺体発見現場で聞いた男の側で突然強い”風”が吹く。すると、車の下からレシートが数枚飛ばされて現れた。風が吹かなければ決して誰にも気付かれず捨てられていた。どちらかの遺体の霊が、何かを訴えかけているように感じた。車の中に身元を明かすものが一切なかったのに、なぜその風はレシートを飛ばし何かに気付いて欲しいかのように訴えたのか。男が過去に、クロという飼い犬を亡くしていたことをまるでその風は知っているようだった。突然現れたレシートが気になりだし男は、まるで誰かに吸い寄せられるかのように旅に出る。導かれるかのようにストーリーは進んでいき、霊か何かが案内しているような演出が、私の興味を注いだ。遺体発見場所から男が見つけた小さなマスコット人形だけが全てのことを知っているのだろう。車の1番前にぶら下げていたその人形を何故か男は手にとり自分の車に付けた。それが、男が旅にでるきっかけになり、旅に出る気持ちにさせたのだと思う。きっとそこの人形に霊が取り憑いていて、自分たちが過ごしてきた出来事を伝えているように感じた。
ねぶた祭りのシーンでも男は、いるはずのない犬と男性の姿を見る。その霊は男性の妻と娘に会わすために現れたのだろう。霊は男に何か伝えたい事があるに違いないと確信した。
孤独死か増えている現代社会に向けて作品が伝えたかったこと。
男性は北海道まで車で行き、歓迎されたことに喜びを感じていた。旅の途中で、彼は人との関係が薄れてきていることに悲しんでいただろう。お金を盗まれ、友人に電話をしても誰も彼を助けようとはしなかったのだ。このシーンは、現代社会に訴えかけているかのように感じた。昔とは変わって人間関係が薄れてきている世の中に、悲しみを感じていたことだろう。こんな社会だから、男性のように孤独死する人が増えてきているのだろう。彼も遺体が発見されるまで半年も経過していた。このような事が現実にも起こっているのだ。孤独死は悲しい。誰にも分からず知られずに、苦しみ息を引き取る。年寄りが増えてきた現代社会に、この作品はこれからの未来の姿を表しているようだった。今のままではいけないと教えられているようだった。ハッピーは、男性の側にいつもいて離れることを嫌がり続けた。ハッピーがどれだけ男性を好きだったかが伝わる。男性が動けなくなってからもハッピーは食べ物を探して彼の元に届けるが、”絶対に彼を孤独には出来ない”と言っているように思えた。犬嫌いの彼がハッピーを飼うことを了解して、1番可愛がってくれていたのをハッピーは分かっていたのだ。そんな彼を一生守ると決意していたのだろう。
強風の正体
男性は亡くなる直前、身分がわかるものを全て燃やしたつもりだった。しかしその時もあの”強風”が吹いていたのだ。あの風は、彼のレシートを飛ばして隠すかのように車の下に飛ばした。その演出に、不思議と涙が溢れた。死にたくないという男性の思いが、強く伝わるシーンだった。少しでもこの孤独を誰かに見届けて欲しい、助けて欲しいと心の奥で叫んでいたのだ。
既に亡くなっている男性を守ると決めたハッピーは、彼の側を決して離れなかった。出かけては、また戻っていった。ハッピーも彼と同じ孤独死というわけだ。涙が止まらなかった。孤独死がどれほど悲しいことかが分かった気がした。ハッピーに教えられた気がした。あの強風はハッピーと男性の孤独死に対する思いが吹かせたのだと思った。
ことわざをタイトルにしたことで私たちが予想する結末
男性と1匹の犬は旅の途中で沢山の人に愛を与えた。お互いが愛し合い、それが永遠に続くことを願うことは誰でも経験することだ。それが例え難しかったとしても私たちは願い続ける。それこそが、「星守る犬」の本当の意味だと感じた。タイトルの深い意味を知ることができた。欲張りすぎることを伝えたかったわけではない。叶わない夢だとしても強く願ってもいいのだという事が強く伝わり私は涙した。何か思い残している事が自分にはあるのかもしれない。我慢して生きるより、願い続けていい、後悔しないためにも、必死に生きる事が自分の、人生を生き抜いた証となるのだ。亡くなった男性とハッピーは、最後まで必死に生き抜いた。この先自分に”死”という辛い現実が待っていると分かっていたが、諦めずに生き抜いた。お互い少しでも一緒にいたいという願いを込めていたと思う。犬であるハッピーは、亡くなった事も分からず眠っているのだろうと思い、自分の命が無くなるまで必死に生きて目を開けて欲しいと願っていた。決して叶うはずのない願いである。タイトルからも感じ取れるように、ハッピーは、叶わぬ願いを抱きながら亡くなっていったのだろう。切ないストーリーだったが、何故か心が少し温かくなったのは、男性とハッピーの思いやる深い愛情が見ている側に伝わってくるからだと思う。
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