「上等!」と 啖呵切りつつ 短歌詠む 作家加奈子の 行く末如何に - ダイオウイカは知らないでしょうの感想

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ダイオウイカは知らないでしょう

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「上等!」と 啖呵切りつつ 短歌詠む 作家加奈子の 行く末如何に

3.53.5
文章力
4.0
ストーリー
1.0
キャラクター
3.0
設定
3.0
演出
3.5

目次

ちょっと緊張→悪のり→結構きれいに纏まる。さすがに二人は文筆家

西加奈子が好きでこの本を手に取った。多彩で自由な発想の西加奈子が短歌の制約を超えて、たぶん笑わせてくれるだろうと思ってはいたが、笑いは予想以上だった。それもクスクス程度ではない。中盤は爆笑ネタの連発だ。

「せきしろ?誰やねんそれ?」と関西出身でもないのに西加奈子の軽快な関西弁を拝借しつつ、まあ相方はどうでもいいや、と思いつつ読み進んでいくとこの人もまた面白いと知ったことも収穫だった。

この本の面白さ、序盤、中盤、後半である程度分けられると思うので区切りつつ分析してみる

序盤 ― 試運転(暴走狙い)の西加奈子、字数無視の自由なせきしろ

短歌は初めて、というせきしろに対して、西加奈子は「小学校のころから予習ちゃん」と自称するだけあって五・七・五・七・七のルールはわかっているし、別の企画で上手くできず悔しい思いをした、というのがそもそもこの企画のスタートでもあるので小説家っぽくまとめて来るのか、と考えたがそうでもない。どう自分のものにするか、あるいはどう期性を枠をはずすか、という試運転をやっているように思う。せきしろはいろいろな情景を切り取ろうとしているのはわかるが字数無視の自由なスタイル。本人的には上手く数えられないだけで無視しているわけではないらしいが。

とは言え、二人ともまだまだ固い。何しろ最初の2回は指導役が立派(知らんけど)な歌人だ。明らかに熟練の師とやんちゃっで未熟な生徒二人という構図で回は進んでいく。

せっかく短歌の本に触れたので章ごとに自分でも短歌を詠んでみようと思う

「上等!」と 啖呵切りつつ 短歌詠む 作家加奈子の 行く末如何に 

中盤 ― 先生不在で自由を謳歌しだす二人

3回目の山崎ナオコーラは西加奈子の友人らしく、彼女はこの辺りからかなりペースをつかみ、柔らかくなっていく。またせきしろは明らかに指導者的人物がいなくなって筆が軽くなったように見える。もともと二人とも自由人なのだろう。お目付け役みたいな人物がいないほど筆も冴えるようだ。私自身も短歌は全く知らないが、せきしろの「桜」を詠んだ歌は情景を浮かべて美しいと思った。かと思えば「占い」では明らかにネタに走って笑いを取っている。4回目のいとうせいこうの回くらいになるとまだ試運転感は抜けないものの、さすがに二人とも作家と思えるような展開を見せる。お題が三つ、四つあれば、笑える歌、奇をてらった歌、美しい歌、切ない歌など方向を散らしつつも要所を突いてくるくらいのスキルを習得しているのが見えるのだ。そもそも雑誌ananに連載した企画である。高年齢者中心の短歌専門誌に載せるようなものばかりでは素人の自分らが呼ばれた意味もあるまい、と開き直ったこともあるかもしれない。それはそれで作家魂の発露であろう。

そうして回をこなすうちに二人のスキルも上がり、ゲストも同じ目線を共有できるお笑い芸人や若い俳優、ミュージシャンとなってくると自然とその魂がスパークしていくのが見える。

笑える、と思った歌を以下にピックアップしてみた。

せきしろの「放課後」「Tシャツ」「もみじ」「折句」「おしゃれ」「冬休み」「マスク」

西加奈子の「アイドル」「休み」「うなぎ」「本」「受験」「変なひと」

この点ではせきしろの方が多い。読後のイメージでは西加奈子の方が多いかと思っていたが、読み返してみると彼女はトークが面白いのだ、と気づく。

とは言え、彼女の「受験」の歌は面白すぎる。電車移動中にこの部分を読んでいたのだが、「ババダマホってなんやねん」と爆笑しそうになってしまった。車中で腹を抱えて笑うわけにもいかず、本で顔を隠しながら襲い掛かる笑いをこらえた事を記憶している。

次にさすが作家、とか、「はっ」とさせられるような情景が見える歌も拾ってみる。

せきしろの「お弁当」「ボタン」「逃げる」

西加奈子の「海」「もみじ」「逃げる」「手袋」「始まり」「忘れたいこと」

こちらはやはり西加奈子に軍配か。そもそも私自身が彼女の文章を好んで読んでいるので色眼鏡もあるかもしれない。また文中でも話題になっていたが、女流作家が官能的あるいは性的な表現を詠むとどうしても記憶に残ってしまう、という効果もあるかと思う。

ここでまた自作短歌

あのひとの 笑いを誘う歌々を 電車の中で こらえつつ読む

※「あのひと」とひらがなで表現したのは自分なりの西加奈子への思慕を表したつもりだ。

後半 ― さすが二人は文筆家

結果一年半も連載が続いたそうで、終わるころにはやはりふたりともさすが、と思わせるようなスキルになっている。あるいは私が二人のやりとりや文体に慣れたのか、はたまた雰囲気に騙されているだけで、単に句としてまとめるスキルが上がっただけなのかもしれない。穂村弘が「やればやるほどへたになる」というのもわかる気がする。

しかしやはり執筆で飯を食っている二人、「もしも」「悲しみ」「痒い」「日本」などでは二人そろって上手いなぁ、と思えるような歌を詠んでいる。

更に巻末の短歌クロスエッセイがまた面白い。短歌はそこそこに習得したとはいえやはり自分のフィールドでこそ人は最も輝く、という見本のようにも思える。何といっても私が好きな西加奈子は歌人ではなく小説家なのだ。改めて彼女の文章の軽快さに喜びを覚える自分の幸せをかみしめる。

目指す師の 歌見て思う この道を 歩む人生 決意固める

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