世界は佐野洋子を忘れない
中毒性のあるエッセイの妙手絵本作家で谷川俊太郎の元妻、と聞くと、穏やかな、にこにこ笑ってほんわかした絵を描く老婦人のようなイメージが浮かぶが、佐野洋子はそのイメージからはかけ離れた人である。彼女が五十代のときにあちこちの雑誌に書いていたエッセイをまとめたのがこの「覚えていない」という本であるが、読むととにかく痛快な人柄が伝わってくる。口が悪く、人が触れてほしくない本当のことをズバズバ言ってのける。身近にこんな人がいたら、何を言われるかドキドキして身構えてしまうかも、と思いつつ、その飾らなさ、正直さに引き込まれ、読み進めてしまった。作家の江國香織は、「佐野洋子 あっちのヨーコ こっちの洋子」の中で「佐野さんの書くエッセイには中毒性がある」と書いているが、これには深くうなづいた。私自身、佐野洋子のエッセイを初めて手に取ってから、そのおもしろさにやめられなくなり、彼女が世に残したエッセイや著...この感想を読む
4.04.0
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