見捨てず受け止め続ける、受け止め合うことの大切さを描く - ショート・タームの感想

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見捨てず受け止め続ける、受け止め合うことの大切さを描く

4.24.2
映像
4.0
脚本
4.0
キャスト
4.2
音楽
4.0
演出
4.4

目次

フレッシュで瑞々しい作り、設定とテーマの妙

2013年アメリカ映画。監督のディスティン・ダニエル・クレットンが大学の映画学科の卒業制作をするにあたって、実体験を元に作った同名の短編映画を練り直したものになっています。そういう作品の成り立ちもあって、良い意味でインディーズ感というか瑞々しい感覚が良く出た作品になっていると思います。

ハリウッドの型にはまった映画たちというのは、これくらいのボリュームで導入があって、ここでフックになる事件が起きて・・・という風に枠組みが見えすぎるきらいがあって、時々うんざりしてしまいます。ジャンルがどうあれ、時制がどうあれ、型にはまったものは型にはまった「パッケージ感」とでもいうべき空気を醸し出していると感じます。

そういう意味では、「ショート・ターム」は、インディ―ズ的とはいえ普通に見苦しくない撮影でスマートな編集をされていながらも、フレッシュなドライブ感や熱っぽさのようなものが画面から溢れていて好感が持てるし、それだけで一見の価値があると思います。

とは言えこの映画、変な話ですが、予告編映像がものすごく感動的で。やはり設定とテーマの妙ゆえなのでしょう。実際に作品を見ると、「ふうん・・・ふうん?」とちょっぴり引っかかる演出も、なきしにもあらずだったので、全然期待はずれではなかったにせよ、予告編がやっぱり感動的すぎて、今でも見直すと予告編だけで泣いちゃうという。

オチに至るまで内容を全部明かしてしまっていたり、内容とかけ離れた誤解を誘うような予告編映像は、もちろんだめだめですけれど、時々予告編が本編を上回るほどの仕上がりになっているものに出くわすと、なんかちょっとモヤモヤしますです。

魅力的なブリー・ラーソン

しかし、気がつかなくってちょっとびっくりしたのがこの映画の主演女優。今年(2016年)のアカデミー賞主演女優賞を受賞した、ブリー・ラーソンなんですよね。受賞作 「ルーム」をまだ見ていないので気付かなかったところもあるんですが、アカデミー賞授賞式はテレビで見ていたのに、全然結びつかなくって。ブリー・ラーソン、エラ削った・・・?いやいやまさか。失礼なことを口走りました。でも、私の中では彼女は「四角い顔の女優さん」として認識されていたので、「ルーム」のビジュアルに結びつかなかったのでしょう。役作りのために痩せたんだと思います。オスカー像を手に微笑む彼女は初々しく輝くように美しく、さしずめさなぎが蝶になったかのような印象です。ともあれ、「ルーム」は楽しみにしていた映画。来週にも見に行こう、ほくほく、と思っています。

私が初めてブリー・ラーソンを認識したのは、ジョセフ=ゴードン・レヴィットが監督、脚本、主演を務めた「ドン・ジョン」で、主人公の妹役を演じていた時です。あくまで可愛げが無くって、気怠くふてぶてしくって、でもなんともファニーで、印象に残っていました。

その次がこの「ショート・ターム」。デビュー以来のけして短くない期間、地味でもうひとつ華に欠けていた彼女の女優としてのキャリアを考えると、この作品の成功が今の彼女の成功の基盤となっている ことは間違いないと思います。

「フランシス・ハ」のグレタ・ガーウィグしかり、あるいは「CAKE」のジェニファー・アニストンしかり、役に恵まれなかったり、タイプキャストに 飽き足らない女優が、時には制作側にも回って、このような小規模のバジェットの作品に積極的に関わることでキャリアの幅を広げていくというのは、必要に迫られてということもあるのでしょうが、ひとつの流れでもありそうです。個人的にはチャレンジングで個性的な映画が見られるのは大歓迎です。

けして見捨てないこと、受け止め続けることの偉大さ

作品は、トラブルや障害を抱える少年少女の為の短期滞在施設(=ショート・ターム)を舞台に、今のアメリカの若者が抱える苦悩、同時に彼らを死にものぐるいでケアし見守るブリー演じるグレイスらスタッフもまた自らの傷と戦いながら、だからこその痛みを共有しながらの奮闘が描かれています。複線としてグレイスの同僚で心優しい恋人でもあるメイソンとの関係と、グレイスの妊娠についても描かれています。

冒頭、たわいのない雑談、そして出し抜けに施設を逃げ出す子供をスタッフが皆で追いかけるシーンから作品は始まります。ここは「体を張って」子どもたちと関わる所。きれいごとじゃない場所なんだということ。この作品は、予算の関係もあったのでしょう、たくさん素人が登用されており、クレイグリストで役者を集めたりもしたそうなのですが、実にナチュラルです。監督の高い演出力を感じます。

中でも、ある入居者の子供が太鼓を叩きながら独特の節回しで歌う、とても印象深いシーンを演じた、詩人でラッパーでもあるキース・スタンフィールドは、主演のふたりに次ぐ素晴らしい存在感でした。彼自身も貧しく壊れた家庭で育ち、この監督に見出されるまでは職を転々としていたそう。この作品への参加をきっかけに、数々の映画に出演するようになり、今後が楽しみな若者です。

作品の肝となるのは、「受け止める力」なのだと思います。子どもたちは、時に不可解なばかりに荒れて荒れて、グレイスたちの手を焼きます。「さあどうだ、ここまでやれば、ここまで裏切れば、音を上げて逃げてくんだろう、どうせ」と大人を試している。

それに対して、別に偉くも高潔でもなく、あくまでどーんと構えているグレイスやメイソンたちがいて、「何があってもつかんだ手を離さないよ」というメッセージを、言うんでなく存在で示しているということが素晴らしいんだと思うんです。

そして子供らを受け止める側にいるグレイスもまた、人間が怖く傷ついており、恋人メイソンに対して荒れはしないけれど、逃げて逃げて逃げようとする。誰しも、どんな自分であっても、見捨てず受け止めてもらいたいという切実な願いを持っているのです。

ラストシーン、冒頭と同じようにまたまたサミーが脱走します。「あーあーまた」と、でも懸命にまた取るもとりあえずスタッフたちはサミーを追う。そうするとサミーは自らUターンしてきて、捕まるのです。逃げて、追いかけられて、がしっとつかまえてもらうことが嬉しい。それは愛情と信頼の行為であり、この映画を締めくくるにふさわしいシーンです。

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