よくぞ！千堂戦までを見事に、そして忠実にアニメ化してくれた！！ - はじめの一歩の感想

ボクシングとの出会い

正直、胸くそ悪く感じる方もいるかもしれませんね。物語の冒頭はいじめられっ子だった一歩が自分自身を変えたくて、強いってどんな気持ちだろう、と思ってボクシングを始めていきます。いじめの場面は良く思わない方や気分を害してしまう方がいるように思ってしまいます。

しかしプロボクシングでいえば、WBC元フライ級世界チャンピオン内藤大介さんも同じような過去をもっていたようですね。またボクシングアニメという括りでいえば、「あしたのジョー」という作品がありますが、主人公の矢吹丈の場合は最初から喧嘩が強かったですからね。矢吹丈とは全く正反対で、「はじめの一歩」主人公の一歩を「あしたのジョー」で例えるなら青山くんタイプかな、と思います。もっとも一歩の才能や身体能力は高くて、ボクシング向きだったといえるでしょうね。アニメの中では、一歩は才能という部分では乏しく、不器用で愚直に描かれていますが(笑

しかし鷹村に出会ったことは、一歩にとってかけがえのない出会いでしたね。一歩にとってのボクシングは、この作品のテーマでもある「強いってどんな気持ちですか？」「強いってなんだろう？」だと思うのです。そして、その強さの象徴が鷹村なんですよね。なので彼を弱く描くわけにはいかないし、それは一歩自身のリスペクトや、ボクシングを始める原点にもなる重要な要素だと思います。

物語の中での分岐点

人それぞれ、受け方や印象が違うと思うんです。私は物語の中で、最も大きな分岐点といえるのは日本チャンピオン伊達との出会いだと受け取っています。起承転結でいえば、「転」にあたる部分でアニメ構成をとても上手にされたという印象をもっています。まだ原作は連載が続いていますし、原作に比べてまだまだ４分の１にも満たない部分でアニメは一度終わってしまうのですが、よくぞそこを最後に設定してくれたと感心します。それによって伊達との出会いがアニメの展開の中で大きな意味をもってくるし際立つんですよね。これは素直に原作コミックが好きな私からすると最高にアニメ化だと思います。

私は伊達との出会いは、この作品のテーマでもある「強さとは何だろう」ということに対して、作者が伝えたかったことを大きく前進させたように捉えています。伊達との出会いで「強さとは何だろう」を伝えきってはいないんですよね、あくまで一例を示したに過ぎないように受け取れます。だから前進させたという表現に留めておきたいと思います。伊達にとって、一歩との出会いは通過点であり、その先の頂上を見据えています。しかし一歩はボクシングがただ好きで良い試合をすること、やりきることが目的になっていました。パンチの重みという表現がありましたが、単純なパンチ力ではなく、そのパンチに懸ける想いの強さ、「負けたくない」という気持ちの強さを表すのに分かりやすかったです。その差が勝敗となって表れ、一歩はプロボクシングの戦績で初めて負けてしまうことになります。ここから一歩は大きく成長して強くなっていくのは、胸を熱くさせてくれて共感させてくれるように感じます。

強いってなんだろう

最後の千堂戦では、一歩との想いの強さが激しくぶつかりましたね。一度、一歩に負けている千堂が日本チャンピオンというかたちで一歩が挑んでいく試合はとてもドラマチックに感じました。これは作者の上手であり、見事なストーリー展開を魅せてくれたな、と胸を熱くさせてくれます。普通に物語の冒頭部分を観れば、宮田と試合することになるのかな、と安易に想像してしまいますものね。

千堂戦では、まさに「強いってなんだろう」っていう作品そのもののテーマが強く打ち出された試合になっていますよね。なのでお互いの想いの強さを表現する試合前のトレーニングする場面や、お互いの強い想いをもつまでのプロセスを丁寧に描いているように思います。私は伊達戦が終わってから、千堂VSヴォルク戦や千堂VS茂田戦、青木と木村のエピソードまでも、全てが千堂戦への布石だったように考えています。

千堂と一歩の意地のぶつかり合いは共感や熱い思い、様々な感情が重なり合って、私は何回観ても涙が止まらなくなってしまうんです。試合序盤で、一歩は千堂の気迫に圧倒されビビッってしまう場面では、いじめられっ子だった自分自身、弱くてそんな自分自身を変えたかったボクシングを始めた頃の自分からの成長を描いてくれました。勇気という武器で立ち向かうこと、そして真面目に積み重ねてきた経験が自分自身の中で自信へと変わることも伝えてくれています。そして千堂への恐怖を乗り越え、対等、いやそれ以上に戦うことができるのは、いじめられっ子だった一歩の大きな前進であり、成長だと思います。

千堂の負けられない、負けたくない勝つことへの執着の描写も共感させられるんですよね。ご両親が亡くなられ、幼いころから気張って気丈に育ってきたことやセコンド井岡さんとの出会い・約束の描写は千堂の負けられない、勝たねばならない理由を見事に決定づけています。

しかし作者は、強いってなんだろう、ということに決定的なものを打ち出さず試合を締め括りますよね。きっと言いきらないことで観た者がそれぞれ強さについて考えてほしいという気持ちの表れのように感じます。アニメには続編がありますし、原作はまだまだ続いていますけど、一歩が自分なりの答えを見付けられることを願いたいです。