前半は良し、後半は尻つぼみ感が満載 - 六番目の小夜子の感想

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六番目の小夜子

2.902.90
文章力
3.65
ストーリー
2.25
キャラクター
2.75
設定
3.50
演出
2.25
感想数
2
読んだ人
4

前半は良し、後半は尻つぼみ感が満載

2.82.8
文章力
3.8
ストーリー
2.0
キャラクター
2.5
設定
3.0
演出
2.0

目次

信念のない不完全な物語

奥田陸氏が、初めて書き下ろした第3回ファンタジーノベル大賞で最終選考に残った作品です。読み始めは、おやっと思わせる文章の書き方や、ゲームの説明となる導入部から始まり、何か面白い事が起きる予感を感じさせてくれる作品です。しかし、最後まで読み終わると、これほどまでに、不完全で未消化となっている物語は、久しぶりでした。このような事を感じさせるのは、ある程度の作者の力量があって、作品にのめり込ませてくれるから思う事かも知れませんが、だったら何のために、この物語を描いたのか?と逆に問いたい気分になります。未消化の部分として上げられるのは、一つだけではない事も、不完全さをさらに増長させています。一番は、サヨコの目的と原因はなんだったのか?物語の重要なポイントが、答えていません。読者に疑問を投げかけるという手法もありますが、この作品には筋が通っていないため、投げかけるには無理があります。

サヨコは亡霊だったのか?サヨコの正体を、転校生、送ってきた書類に惹かれてサヨコ役になったと書いてありますが、正直支離滅裂でわかりません。また、担任の黒川が何かに関わっていると、盛りあがったくせに中途半端に締められています。さらに、サヨコと秋の関係も、しっくりこないまま、火事となり勝手にもりあがります。作者は、思いついたことだけを、前後の出来事を踏まえないで、ただろれつしているようにしか見えません。よって、筆力は感じさせますが、不快と感じる作品だと思います。

あとがきで解説って?

あとがきの解説が異常に長いです。これって、この物語に対するいい訳ではないでしょうか?そんなに長い解説を書かなければいけないほどの小説なんて、ありえません。読んでいる人間だって、バカではないのですから、ちょっと言い訳じみていると思いました。読んでいる読者をもっと意識して、解説しないでもよい小説を書いてもらいたいものです。

作者に描き切るだけの覚悟がない

とはいうものの、奥田陸氏の文章力にはとても力を感じますし、その世界に引き込まれていくのも確かです。スムーズに読みすすめられるので、どんどんと作品の世界にはまります。でも、この「六番目の小夜子」は、奥田陸氏が、最初に出版したデビュー作品というだけに、彼が作品に対して描き切るだけの覚悟がないように思えます。例えば、幽霊や亡霊のホラーと見せかけて、人が仕組んだ仕業かも?とまるで推理小説の様などんでん返しを思わせる書き方をしたのに、それもスルーをしてしまう。さらに、伝説的なファンタジーや青春の恋愛や学園物かと思うと、そうではない。小説というのは、よく分野によって分かれています。ホラーや推理、社会的なもの、学園物、SFなどです。「六番目の小夜子」はどの分野にも所属しない分野になってしまっているのではないでしょうか?その原因の一つに、作者の作品を描き切るだけの覚悟ができていないように、見受けられました。ホラーにしようと思っても、怖くてやめた、ミステリーにしようとしても面白くないと思われるのでやめた、だからといって恋愛話を中心としたくはない。そんな気持ちが感じられます。結局、どの視点からも責められる事無く、通ってしまう作品なのかも知れませんね。

文化祭でラストにはできなかったのか?

しかし、「六番目の小夜子」の途中までは面白かったのです。特に、文化祭で皆で掛け合い言葉を綴る部分は、今までにない緊張感と恐怖感があり、とても面白いと感じます。もしも、この場面をクライマックスにして終わるのなら、グッとよくなったでしょう。ちょっと残念なところですね。逃げないでこの場面をより深いものにすれば、もっと面白くて後読感の良い「六番目の小夜子」となったように思えます。例えば、鈴木光司氏の書いた「リング」のような感じの作品に仕上がると思うのです。

登場人物達の人格がぶれる

ストーリー的に残念な所がある「六番目の小夜子」ですが、さらに登場人物の人格がいまいちだと思います。特に、女性の人物像は、物語が進むと同時に、性格がぶれるような気がするのです。沙世子は、亡霊か何かが乗り移っているかも知れないので、仕方ないかも知れませんが、読んでいて沙世子という人物の組み立てに追いつけなくなってきます。ただ、美しさを主張し、時に亡霊が乗り移ったような趣を見せ、最後の火事の場面では必死に秋を助けようとする。こういう表現方法もありなのかも知れませんが、幽霊に乗り移られている時ならば、その路線で人物もきっちりと描いた方が、読んでいる人達に伝わるのではないでしょうか?他の人物達も、それぞれの心の葛藤を描きながら、行動とのブレが生じているように思えてなりません。

女性の台詞に違和感

著書の奥田陸氏は、男性の作家であるために、女性の台詞が上手ではないと感じました。変に女らしい言葉を使っています。たとえば、最後に「わ」をつけて女らしくしていましたが、なんとなく違和感を感じます。以上、かなりの辛口コメントになってしまいましたが、恩田陸氏のデビュー作品ということで、荒削りな作品なのかも知れませんね。

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