高橋留美子を伝説にした一作
『うる星やつら』『めぞん一刻』に続く、高橋留美子の表題作
人間の才能とは、どれほどの可能性を秘めているのであろうか。たった一作の大ヒットならば、偶然だとも訴える人間もいるだろう。二作目のヒットならば、誰しもその実力を認めざるを得ない。だが三作目もヒットしたらーー大げさでもなんでもなく、その作者を天才といっても決して過言ではないのだろうか。
高橋留美子は、『うる星やつら』『めぞん一刻』に続き、今回取り上げる『らんま1/2』まで長期連載、大ヒット、アニメ化まで成し遂げた。デビュー以来、続けざまに連載作品三作をヒットさせた、漫画界前人未到の怪物である。
コメディを重視した『うる星やつら』と恋愛を重視した『めぞん一刻』、二つの作品は、似ているが方向性がやや違う。『らんま1/2(以下、らんま)』は、そのどちらもバランスよく配分した作品であり、高橋留美子の才能を決定づける一作となったのである。
物語は、道場を営む天道家の三姉妹のもとに、姉妹いずれかの許嫁候補の早乙女らんまが来るという話になっている。これだけでも漫画として成立しそうなのに、らんまは水を被ると女になる特異体質の持ち主なのだから大変だ。らんまと天道家三女のあかねは許嫁になるが、続々とらんまを好きになる女性たち、あかねを好きになる男たちが次々と現れ、ドタバタラブコメディへと発展していく。
中華風コメディがぴたりとはまった 『らんま』の世界観
『らんま』は『うる星やつら』、『めぞん一刻』の血を継いだ高橋留美子一流のラブコメディだと紹介したが、実は筆者は『らんま』においてもっとも面白いポイントは別のところにあると思っている。
『らんま』においてもっとも面白いポイントーーそれは、作中登場する中国風の怪しげな連中、怪しげな道具が登場する回である。
らんまが水を被ると女になる体質になってしまった原因・呪泉卿はその最たるものだ。女の他にも、子豚・アヒル・猫・牛の頭に雪男の体、鶴の翼に尻尾が鰻という大きな怪物と、様々なレパートリーがあるのが面白い。らんまの最終的な目的は普通の男に戻ることであり、そのため呪泉卿のある中国へ行こうと画策するが、いつも叶いそうで叶わない(バイトをしてお金を貯めていけとか野暮なことを言ってはいけない)。
また、呪泉卿関連の他にも、シャンプーが持ってくる怪しげな道具で一騒動起こったり(冷やし中華・天上天下唯我独尊麺の回や、傀儡芝など)、ムースやピンク・リンクなど、中国関連のキャラクターたちの登場する話はどれもバラエティーに富んでいて飽きない。
更に、らんまとらんまの父・早乙女玄馬、あかねの父天道早雲が妖怪退治に行く話もハズレがなく面白いエピソードだ。
らんまは本質的には武闘家であり、至るところ、あらゆる人と勝負をする。格闘・拳法勝負は高橋留美子の新境地となっているが、バラエティーに富んでいて実に読み応えがある展開の数々だ。先を読ませない斜め上を行くストーリーは、下手なギャグ漫画よりよほど面白い。
だが、やはり鉄板といえる面白さを誇っているのは高橋留美子のオハコである「日常の延長的な勝負」である。右京とのお好み焼きバトル、九能小太刀との新体操勝負、天道家を差し押さえにかかるキングとのババ抜き勝負と、タイトルを聞いただけで面白くなるエピソードだらけだ。
あらゆるエピソードがじゅうぶん面白く読めるが、筆者の一番のお気に入りは大食い怪物、ピコレット・シャルダンとの「お上品な」ディナー早食い勝負だ。
ピコレット・シャルダンの花嫁にならないよう、早食いの技をなんとか習得するらんまだが、ギリギリで叶わず、最後の最後に普通にディナーを食べて勝利、というなんとも見ごたえのあるエピソード。さすがは高橋留美子である。
バトルものの長編、ギャグものの短編と、構成も天才的
エピソード一つ一つのオリジナリティー・完成度が高い『らんま』であるが、長期連載を支えてきたのはそれらのエピソードの配分が非常に良かったことにある。
『らんま』はエピソードごとに話数が異なり、らんまの格闘(勝負)パートになればおのずとエピソード完結までの時間がかかる。しかし、先に説明した妖怪退治話や他のキャラクターが巻き起こす騒動の場合、一話で完結することがほとんどだ。
『らんま』はこの、格闘エピソードと単発のエピソードのバランスが非常に良い。格闘エピソードで読者が話を追うのに疲れてきた頃、ほどよく緩い単発のコメディエピソードが挿入され、作品自体を読み飽きない工夫がされている。
これは作者である高橋留美子が意図したところか、それとも編集が狙ったところかはわからないが、『らんま』という人気作品を支える、大事な柱の一つになっていたことは疑いようもない。『週刊少年サンデー』で連載を追っていた人はもちろん、コミックスで『らんま』を読んでいた読者も、「コミックス一冊買えば、格闘パートとコメディパート、それぞれ一話ずつ楽しめる」という得な構成になっている。
漫画ではありがちなメディアミックスであるアニメ化だけでなく、ゲーム、ドラマと数々の展開を見せたのも、人気作ならではであろう。以降、高橋留美子は『犬夜叉』、『境界のRINNE』といずれもヒットを飛ばすが、筆者は『らんま』が一番だと思っている。
読者諸兄にとって、一番好きはるーみっく作品はなんであろうか。
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