どうしようもないせつなさ
死刑囚が収容される刑務所が舞台
グリーンマイルとは、死刑囚が人生最後に歩む、処刑台へと続く緑色の廊下のことである。主人公のポールは、死刑囚を収容する刑務所の看守である。ある日この刑務所には、身長2mはあるであろう、黒人の大男が収容されてくる。コーフィーというこの男は、双子の女児の強姦殺人という凶悪犯罪を起こしたとされていた。そしてこの刑務所では同時期に、知事の妻の甥であるパーシーという傲慢な男が新しい看守としてやってきていた。パーシーは、大男のコーフィーにも臆せず傲慢な態度で接していた。ここまでのシーンだけで、観客はコーフィーよりパーシーを嫌なやつだという印象を持つだろう。コーフィーはパーシーの挑発にも乗らず、その体格をもってしてパーシーなど一瞬で吹き飛ばせそうなものだが、コーフィーは凶悪犯罪を起こしたとは思えないほど穏やかで、死刑囚となった自分の人生にも、どこか諦めたような落ち着いた様子であった。パーシーはその後も刑務所内で問題を起こし、他の看守からも嫌われていく。知事とのコネをふりかざして傲慢な態度をとるパーシーは、凶悪犯罪者が多い死刑囚刑務所を舞台としてるにも関わらず、その中で一番の厄介者であった。むしろ死刑囚たちは、それぞれ個性がありながらも、看守たちとの関わりも楽しんでいる。彼らは処刑までの人生の残りの時間を消化するように過ごしていく。
大男の秘密と看守たちの葛藤
凶悪犯罪者といわれながら、穏やかな様子である大男・コーフィーには秘密があった。主人公である看守のポールは尿路感染症に悩んでいた。日々激痛と闘う彼をみたコーフィーは、ある日ポールを自分の前に呼び、触れるだけで彼の尿路感染症を治してしまったのである。ポールは自分の身に起こったことが信じられない様子であったが、実際に激痛が消えていることから、彼の不思議な力を信じるようになる。そして、そのコーフィーの力でガンに苦しむ上司の妻を助けられるのではないかと思いつき看守仲間とコーフィーを彼女のもとへ連れて行き、見事成功した。こういった出来事から、看守たちはコーフィーが本当に双子を強姦殺人した犯人なのか疑問におもうようになる。コーフィーが血だらけの双子を抱きながら言っていた、「間に合わなかったんだ…」という台詞の意味にここで気づく。コーフィーは双子を助けようとしていた。コーフィーは無実の罪で死刑囚となっていた。しかし、彼に残された時間もわずかであった。彼の無実を証明しようとすることなど不可能であった。不思議な能力は、無実の証拠としては認められないだろう。看守たちはコーフィーの無実を確信していたが、コーフィーは自分の運命に抗おうともせず、静かに受け入れようとしていた。この心優しい不思議な力を持った大男は、どうすれば幸せに生きてゆくことができたのだろうか。この力を持ってして、多くの人を幸せにすることができるのではないか。どうして彼は死ななければいけないのだろうか。コーフィーの心が果てしなくきれいなだけに、観ている人間はどうしようもないせつなさを感じることしかできない。
非現実と現実が入り乱れる世界を作り上げる個性的なキャストたち
この映画では、コーフィーの非現実的な力と、死刑囚としての変えられない現実が見事に混じり合っている。1999年の映画であるので、今観るとコーフィーの不思議な力の映像が少しチープに感じられるが、スティーブンキングのSFと思えば、あまり気にならない。特にこの映画でこの現実と非現実の共存を見事に成功させているのは、コーフィーの不思議な力に違和感を持たせない、キャストたちの自然な演技である。主演のトム・ハンクスは、良い意味で普通である。尿路感染症に苦しみながらも、勤務態度も真面目そのもの、死刑囚とのコミュニケーションも適度にとっている。主人公としては、少し地味かもしれないが、目立たない主人公であるから、コーフィーが映えたのだ。また、観客にとってヒールとなる看守・パーシーの役割はとても重要である。外見も罪状も、全く良い印象のないコーフィーであったが、傲慢すぎるパーシーのおかげで、観客の心はコーフィーに向けられる。意地の悪いパーシーには観客もいらついてしまうであろうが、しっかりと嫌われ者を痛めつけるシーンもあって、少しスッキリすることもできる。やはり全体としては、ハッピーエンドにはなり得ず、後味が良い映画とは言えない。しかし、コーフィー役のマイケル・クラーク・ダンカンの醸し出す雰囲気を観る価値は多いにある。他のキャストを白人で固めていることもあり、コーフィーの特徴がより引き立てられている。そしてその特徴的な外見からは想像できない心のきれいさは、マイケル・クラーク・ダンカンにしか表現できないものである。このコーフィーの役は、彼にしかできないものであっただろう。この映画は、観客にどうしようもないせつなさを与えるが、この映画の世界で確かに生きていたジョン・コーフィーという心優しい大男を、自分の心の中で永遠に生きさせたいと思う。忘れられない映画であった。
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