鬼才山田風太郎の名作・アニメ化 - バジリスク~甲賀忍法帖の感想

理解が深まるアニメレビューサイト

アニメレビュー数 2,474件

バジリスク~甲賀忍法帖

4.754.75
映像
4.75
ストーリー
4.63
キャラクター
4.38
声優
4.75
音楽
4.63
感想数
4
観た人
4

鬼才山田風太郎の名作・アニメ化

4.54.5
映像
4.5
ストーリー
4.0
キャラクター
3.5
声優
4.5
音楽
4.0

目次

山田風太郎によって創られし、せがわまさきの忍法帖ついにアニメ化

世の中に”忍法帖”という言葉を作った忍者伝奇小説の大家・山田風太郎。その代表作『甲賀忍法帖』が、せがわまさきによって『バジリスク』と名付けられ漫画化された。

今回取り上げる『バジリスク~甲賀忍法帖』は、そのせがわまさきが描いた同作のアニメーション作品である。

山田風太郎が文字の上に造り上げたキャラクターたちが、せがわまさきによって肉付けされ、アニメーションとなって喋り、画面上を動く。小説・漫画・アニメと三段階において、『甲賀忍法帖』はそれぞれの魅力をいかんなく発揮した。

山田風太郎作品は『魔界転生』など、実写化されることもままあるが、奇怪幽玄なる忍法が制限なく縦横無尽に動く様を観れるのは、アニメーションならでは利点であろう。小豆蠟斎の手足伸縮の術や鵜殿丈助のボール化などは、漫画よりもアニメの方がずっと躍動感が伝わる。

10対10の忍法勝負にアニメ24話はちょうど収まりがよく、アニメらしい無理な継ぎ足しや蛇足も存在せず、実によくまとまっていた良作であった。

原作よりも、漫画より、アニメで観るべし

アニメ『バジリスク~甲賀忍法帖』は、まず、アニメオリジナルの演出が素晴らしい。

小説より、漫画より、一層洗練された忍法勝負は一瞬たりとも目を離せない。塩倉でのお胡夷と蓑念鬼の攻防、闇の街道での筑摩小四郎と室賀豹馬の死闘。敵なしと思われた霞刑部が、アニメ版で露呈したわずかな逡巡。どれも、漫画だけでは物足りなかった映像美をまざまざと見せつけてくれる。

また、アニメではファンサービスの一貫か、作中ではすぐに死亡してしまう忍者たちの日常風景が描かれているのが嬉しい。

甲賀弾正と出会うのを前に化粧するお幻、仲睦まじい蛍火と夜叉丸、甲賀の里を天真爛漫に遊び歩くお胡夷など、見どころがたくさんだ。過酷な運命が待ち受けている彼らだからこそ、見ていて微笑ましくなる演出であろう。

もっとも素晴らしいのは、最終話『来世邂逅』の朧と弦之介、頭領同志の対決シーンだ。

夕焼けに輝いた水面の輝きがこの世のものとも思えないほど美しく、河原に立つ闇を背負った二人とのコントラストが素晴らしい。しかも、二人を待つのは、どうやっても悲劇という哀れな結末に、より一層涙を誘われるだろう。

特に朧役の水樹奈々が歌い上げる後期ED曲『ヒメムラサキ』は、作中の朧の心情と、朧と弦之介の悲しい恋を歌い上げた名曲である。

折に触れて『ヒメムラサキ』を耳にしたときーー筆者は、『バジリスク』の物語を、朧と弦之介の悲恋を、ふと思い出してしまう。

全体的な完成度の高さも文句ナシ

前項ではオリジナル部分について絶賛したが、『バジリスク』は、アニメとしての全体的な完成度も申し分ない。

まず、原作に忠実であること。前述したようなオリジナル要素は加えられたものの、原作から決して離れすぎたものではなく、むしろ悲劇的な原作に対比効果を与えて良いアクセントになっている。

目立った作画崩壊も少ない。漫画でも見られた忍者たちの鬼気迫る表情はアニメでより一層際立っていて、表情一つ一つに魅せられる。カタキ役である薬師寺天膳や阿福の狂気を感じられる顔は、ダークな色調と合わさってますます恐ろしく見えるのだから凄まじい。

また、音楽も文句なしだ。静と動が巧みに使い分けられ、忍法勝負のシーンなどは更に躍動感を煽られる。また、随所に挿入される笛の音は、朧と弦之介の隔たりを表すかのように切なくなる。

声優陣も有名どころや知名度に縛られることなく、安定した演技力を持つ配役を持ってきたところにも好感が持てる。唯一例外といえるのが、鳥海浩輔、水樹奈々という若手有名どころを起用した主役二人だ。

鳥海浩輔演じる弦之介は心中もほとんど語ることなく黙していることが多いが、水樹奈々演じるヒロインの朧は、ドジキャラに加えて時代劇口調をすらすらと使いこなさなくてはならないので相当苦労したはずだ。弦之介に対する愛と、伊賀への情とに常に悩まされる朧のモノローグは、聞いているほうが辛くなってくる迫真の演技だった。

山田風太郎が造り上げたストーリーは、もはや語るべくもないだろう。甲賀と伊賀という対立した二つの忍者。対立に隔たれた甲賀ロミオと伊賀ジュリエット、弦之介と朧の悲恋。恨みと憎しみが行きかう、血で血を洗う忍法勝負。もし徳川によって二つの里が利用されることがなかったら…そう歯がゆい気持ちを覚えて空想に耽ってしまうのは、自分がこの物語に没頭しているためであろう。

このように、『バジリスク』はストーリー、構成、音楽、作画、声優…すべてにおいて文句なしの名作なのである。

昨今、パチスロの大ヒットによって『バジリスク』を視聴する人が増えたのは、本当に喜ばしいことだ。他の山田風太郎作品のコミカライズーー『Y十M 〜柳生忍法帖〜』、『十〜忍法魔界転生〜』なども、アニメ化することを、ファンとして切に願っている。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

他のレビュアーの感想・評価

感想をもっと見る(4件)

関連するタグ

バジリスク~甲賀忍法帖を観た人はこんなアニメも観ています

バジリスク~甲賀忍法帖が好きな人におすすめのアニメ

ページの先頭へ