人格が管理される近未来SFアクション
『踊る大捜査線』とニトロプラスが手を組んだ社会派SFアニメ
『PSYCHO-PASS』のストーリーの骨子はこうだ。近未来の日本では、国民の心理状態と性格傾向、パーソナルの全て分析する「シビュラシステム」を導入し、全ての国民の思考思想を国の管理下に置いている。「シビュラシステム」では個々の持つ犯罪を犯しかねない可能性=犯罪係数をも測ることが出来、犯罪係数が高い者を予備犯罪者と認定づけ、罪を犯していなくても捕まえることが出来てしまう。
主人公の常守朱が属する公安刑事課一係は、社会に混じった犯罪者・および予備犯罪者たちを捕えていく…というストーリーになっている。
重厚感あるストーリー、閉塞感のある設定、矛盾だらけの国家に管理される国民、と『PSYCHO-PASS』は独自性のある様々な武器を手にアニメ界に切り込んできた。
視聴者たちは『PSYCHO-PASS』を観るなかで、この社会は正しいのだろうのかと何度も問いかけることになるだろう。自らの身に置き換えて、この世界で生きていけるかを真剣に考えるかもしれない。自分は潜在犯罪者として捕まってしまうなのではないか、そう懸念すら抱くかも。
『PSYCHO-PASS』の世界観は、現代日本の延長線上にある世界だ。現実に近いということは、それだけ視聴者の共感を得やすく想像しやすい。故に、登場人物たちが何を思い、何を目指して生きているのか、アニメを観ながら思いを巡らせるのもまた楽しいかもしれない。
正義と悪という簡単な尺度では測れないアニメ
『PSYCHO-PASS』における正義と悪の定義は非常に曖昧だ。いや、はっきりいってしまえば、世の中の全ての事象を善悪で区分しようとすることすら間違っていることなのだが、『PSYCHO-PASS』の社会では、あえて善悪を区分化することで秩序を保とうとしている。
社会によってきっちりと定められた善悪があるからこそ、登場人物たちは常に”自分のなかの正義”のあり方を問いかけている。主人公の常守朱は本編中でもっともその”考える”役割を担っているし、狡噛慎也は”悪”に自らが染まっていっていることを自覚しながら、歩みを止めようとはしない。
登場人物たちだけではなく、社会全てがそうだ。危険思想や性的マイノリティーの持ち主は犯罪係数を調べられ、保護施設に入れられることで、社会は秩序を保っている。街は常に安全であるはずだし、「シビュラシステム」によって適正のある仕事につけて暮らしに困ることはない。
だから、視聴者たちはアニメを観ていて深く考えさせられるのだろう。「これが本当に正しい世の中なのか?」と。
事実、アニメでは社会に疑問を持った人々ーー槙島聖護のような人間が犯罪者になり、街を混沌に染め上げていく。これはいわば「シビュラ」への革命だ。
槙島の行ったことは殺人であり、明確な犯罪なのだが、それでも観ている者には彼が全ての原因であったとは思わないだろう。事実、槙島の死後、日本では様々な犯罪が続いている。
本来、人々の秩序のために作られたはずの「シビュラシステム」が、犯罪者を生み出す矛盾。
主人公の常守が掲げるシビュラのない世界を目指すことこそが、『PSYCHO-PASS』の世界の真のハッピーエンドになるのかもしれない。
キャラクター考察 常守と狡噛、主役はどちらか
さて、ストーリーや設定にのみ注視してきたが、キャラクターにも焦点をあててみたい。
『PSYCHO-PASS』における主役は常守か狡噛かで議論されている。新人監視官である常守朱は、「シビュラシステム」とも極めて良好な関係を保っている。一方で狡噛は槙島との決着をつけるために戦闘技術を高め、最後は槙島を殺し、法である「シビュラシステム」から逃げ出した。
世界観を受け入れ、視聴者の目となって導く常守と、世界観から弾かれ、自らの生きる道を模索する狡噛。
このように『PSYCHO-PASS』は、複雑な二極型の主人公をうまく編纂した物語である、といえるだろう。
視聴者はまず、常守朱の目線に立ち、シビュラを受けいれる。だが、話が進んでいくにつれ矛盾を覚える。そこで視聴者の心は狡噛へと移っていく。復讐という目的のため、法からの脱却も辞さないアンチヒーロー。「シビュラシステム」の真実が明らかになるにつれ、視聴者はますます狡噛びいきを加速させていくが、一方で日向に追いやられた常守の意見にも耳を傾ける。
「シビュラシステム」によって現在幸せに生きている多くの人たちを見捨てることは出来ない。だがいずれ「シビュラ」の必要のない世界を作ってみせる、と。
槙島という悪役を倒し、一つのエピソードに決着をつけたのは狡噛であるが、『PSYCHO-PASS』物語上の決着はまだついていない。
映画、漫画、と多彩なメディアミックスを拡げる『PSYCHO-PASS』。それら全てに決着をつけるのは、常守朱の役目になるのだろう。
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