この映画に 出会えて良かった。
雰囲気のまとまりと、自己満足で終わらない完成度の高さ。
こういうぱっと見、おしゃれさんが好きそうな雰囲気良さそうな映画は、雰囲気だけ良くて伝えたいものがよくわからなかったり、作者の自己満じゃないかと思うほどの出来のものがまれにあります。
もちろん玄人が観たら違う視点で観れるのかもしれないし、映像作品としては雰囲気重視のものも良いと思いますし、正直僕自身もそういう作品は嫌いではないです。
しかし本作は雰囲気だけの作品にとどまらず(解釈がうまくできず、そう感じている方もいるかもしれませんが)、ストーリーもしっかりしていて感動でき、大切なことを教えてくれる、そんな映画という感想を持ちました。
窪塚洋介、新境地にして真骨頂
「GO」や「狂気の桜」、その他近年の作品でもそうですが、窪塚さんといえば少々気の強そうないわゆる「オラオラ系」の役が多かったり、強めなセリフまわしが特徴的な俳優さんですが、今回のテル役は正反対の「不思議で純粋な青年」役。普段の窪塚さんの空気感をまったく出す事なく、テルというキャラクターがちゃんと確立されている事に脱帽です。普段は本人のその風変わりなキャラクターを活かして映画作中のキャラを仕上げていることが多いですが、今回は真逆。改めて「俳優窪塚洋介」の新しい一面を見たと同時に、俳優としての真骨頂を見たという感じでした。
最初から最後までテルの衣装が統一されていたというのも正解でしたね。あの衣装を脱いだらただのスタイルの良いイケメンになってしまいますので。イケメンで顔立ちが幼く見えることを最大限に利用した配役でした。「卍LINE」としてレゲェアーティストとしても活動している窪塚さん。俳優の顔もレゲェの顔も僕は両方好きなのですが、とても同一人物とは思えません。(笑)
小雪さんで本当に良かった。
今回の物語のキーパーソンでもある、心に傷を負っているものの新しい一歩を踏み出そうとしている水絵を演じるご存知実力派女優の小雪さん。
脚本やストーリーなどだけを聞いていると、キャスティング側の心境になってみると一見他の女優さんが思いつきそうですし、なかなか小雪さんというチョイスには至らなそうなのですが、実際は「しっかりしてそうで、実は心に闇を抱えている」「テルの面倒をみているようで実は依存している」という相反する要素を演技で表現出来るかどうかや、元々の女優さんのキャラクターや見え方を考慮した時に、よくぞ小雪さんをキャスティングしてくれた!と思います。
本作を観ているともう小雪さんでは務まらなかったと感じますし、テルというキャラクターや内藤さん演じる鳩の人の、観ている人の方の力を抜いてくれるようなキャラに反して、小雪さんの存在が本作の印象を引き締めてくれています。
人は誰しも、一歩踏み出す強さを持っている
本作から感じられるメッセージのうちの一つがこれですね。水絵が水たまりを飛び越え自分を鼓舞するシーン、苦悩しながらも自立を志し奮闘する様子、そして役柄的にはおそらく無意識というか純粋な好奇心などに起因するものでしょうが、コインランドリーが潰れてしまって水絵の忘れ物を届けるために遠くまではるばる旅立つテルの様子も、新たな一歩を踏み出そうとする視聴者の背中を押してくれているようなメッセージ性を感じます。
そして水絵が窃盗で捕まってしまい刑務所に入ってしまって、出てきた際に鳩を飛ばし側を振り待っているテル。「こんな自分にも、必ず待ってくれている人がいる」という心温まるシーンですが、こちらも「苦労はするだろうが、大丈夫だから。」という風に受け取れます。
人は支え合いながら生きていける、人は独りではないというメッセージ。本作のストーリーや登場人物の設定はイレギュラーですが、本作から伝わるメッセージはこの上なくシンプルです。まさしくテルのような純粋な人ほど心にズンとくる作品ではないでしょうか。
本作における「水」の立ち位置
タイトルの「Laundry」は文字通り洗濯する、洗濯機の意ですが、洗濯には当然「水」を使います。本作で水が印象的なシーンと言えば、水絵が水たまりを飛び越えるシーン、また新しい靴を履いていながら水たまりにハマってしまうところ、雨の中テルが号泣するシーンや、テルの話す海辺の少年の話の中でも「海」という形で水が登場します。
本作のタイトル通り「心が洗われる映画」という感想をレビューされている方も多いですし、僕自身もまさしくその通りと思いますが、それに加えてこの「水」という役割が作中で特別な役割を成しているとも思います。
命を育む海、奪う海、癒しの海、悲しみの雨、避けたい水たまり、青空が映る水たまり、そしてタイトル通り、「洗い流す水」など様々な表情を作中でも見せています。
人間水の音を聞くとリラックスしたり、水というものが身近にあるように、この作中に散らばる水という要素が見る人の心を洗い流してくれているのと同時に、大事なものは身近にあるということを伝えてくれていると思っています。
このあたりは見る人によって解釈が異なるでしょうし、観る人の価値観によって様々な変貌を遂げる作品だと思います。
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