いい意味で裏切られた作品
時間を持て余して映画館に行って、なんの事前情報もなく観たせいだろうか。この作品が、現役看護師である私にとってこれほど、心揺さぶられる作品になるとは思ってもみなかった。正直、昨今の医療をテーマにした作品には批判的であった。ほとんどの作品は非現実的で、医療従事者の心の葛藤や現場の厳しさは置いてきぼりだと。しかも主演はアイドルグループ嵐の、櫻井翔さん。失礼ながら、アイドルの演技力を侮っていたことも事実である。
スクリーンでの医師は、若くして最高の技術を取得した「スーパーヒーロー」みたいな扱われ方が多いと思う。それに比べるとこの作品で描かれる医師はかなり現実に近い。毎日、激務に追われ休む暇もない。身なりに気を遣う間もなく、日々命と向き合う現実の重さに葛藤し続ける。
私自身、同じような激務の中で、なかばあきらめにも近い感覚を持ち始めていた。慣れればなれるほど、だめだと思いながらも医療行為は事務的になっていく。しかし、この作品の一止は違う。激務の中、もがき苦しみながらも「医療従事者として一番大切なもの」を決して忘れない。眩しくてたまらないと思った。「理想論だ、作り物だ」と言ってしまえばそれまでなのだろう。しかし、この作品の原作者が現役の医師であることを考えると、そんな言葉では片づけられない作者自身のメッセージがこめられているように思えて、襟を正さずにはいられないかった。
「この病院に来てよかった」「先生のカルテが神様のカルテに思えた」という末期がんの患者さんの言葉は、医療従事者にとって最高の栄誉だと思う。患者さんからの手紙を読んで、帰宅した家の前で号泣する櫻井さんの姿が目に焼き付いて離れない。仕事中、ふとした瞬間にそのシーンを思い出す。いい意味で裏切られた作品である。
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