板前・伊橋悟の新たなステージ - 新・味いちもんめの感想

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新・味いちもんめ

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板前・伊橋悟の新たなステージ

4.04.0
画力
3.0
ストーリー
3.5
キャラクター
3.5
設定
3.0
演出
3.5

目次

原作者の急逝を乗り越えた『味いちもんめ』の次なる展開

『ビッグコミックスペリオール』上で連載していた人気作品『味いちもんめ』だが、原作者あべ善太の急逝により連載は急きょストップすることになる。

新たに福田幸江という原作者を迎え、再開されたのが今回考察する『新・味いちもんめ』である。

舞台を新宿の料亭”藤村”から新橋の老舗料亭”桜花楼”へと移し、再び追い回しから修行をスタートさせた伊橋悟の、奮闘記となっている。

物語は”桜花楼”編、”SAKURA”編、”京都修行”編の三本がメインエピソードとなり、京都修行の後、伊橋は店を持つことを打診され、新章『味いちもんめ・独立編』へと繋がっていくことになる。

本考察では”桜花楼”編~”京都修行編”までを取り上げるので、何卒ご了承いただきたい。

伝統とビジネスの狭間で

『味いちもんめ』は人情と人間ドラマを主題としていた作品だが、『新・味いちもんめ』は伝統とビジネスのバランスがメインテーマとなる。

『新・味いちもんめ』の前半の舞台となる料亭”桜花楼”の副社長は、合理的な板場の運営を掲げている。板前は職人というよりサラリーマンで、花板といえども社長・副社長など経営陣には逆らえない。古臭いだけで非合理的な日本料理と伝統を否定し、時に安価の食材や海外の食材を使って、日本料理の生き残り戦術を測っている。

それが、藤村で長年伝統的な日本料理を追及していた伊橋と真向から対立する要因となる。

結論を先に言ってしまえば、副社長の言い分も、伊橋の言い分も間違ってはいない。

一見合理主義すぎて悪役のようにも見える副社長の行動・言動だが、店と板前を守っていくために必要なことだと読者諸兄は認識したことだろう。バブルが弾けたあとの料理業界は不況が続き、どこも経営難に陥っている。特に社用族を相手にしてきた料亭は、存続の危機に立たされているほど危機的な状況に陥っている。経費を削り、メインとなる食材以外(例えばはじかみなど)は安価なものでも構わない。そういった副社長の経営方針は、現在どこの会社でも企業努力として行っている”当たり前”のことである。

一方で、対立する伊橋の主張も間違ってはない。伊橋は『味いちもんめ』の舞台”藤村”においても、手間や値段を惜しまず味を追求し、お客さんに喜ばれてきた実績がある。例えば削りパックの鰹節をやめて自分で干鰹の半身から鰹節を削ったり、折詰を復活させたりと、お客さんに喜ばれるべく数々の努力をしてきた。

だが、振り返ってみればそれは無駄も多く手間もかかる行為だ。それだけ手間をかけたところで、必ず売り上げアップに繋がるとも思えない。人情家の”藤村”の女将さん・親父さんの元だからこそ行えたことであり、どこの料亭も同じことが出来るとは限らないのだ。

伊橋は基本的に店を渡り歩いたことはなく、”藤村”一本で修行を続けた人間だ。だから藤村の女将さんと親父さんの流儀が染みつき、自分の方向性を疑ったことはなかった。いわば”桜花楼”は、初めて伊橋がぶち当たった壁なのである。

だが、”桜花楼”、そして”桜花楼”のチェーン店”SAKURA”で修行していくうちに、伊橋は新たな日本料理を生み出すこと、また自分の顔つきをした料理を模索するようになる。つまり”桜花楼”での修行と副社長との対立が、伝統料理一辺倒だった伊橋に新しい道を示したのである。

おそらく、”藤村”にいたままでは伊橋は永遠にNo2、3のままだっただろう、と筆者は思う。よしんば独立することになっても、そろばん勘定ーー経営に苦心していたに違いない。

原作者の急逝も『味いちもんめ』の休載も、多方面にとって不測の事態だった訳だが、結果として伊橋悟の転換点になった。まさしく怪我の功名、という訳である。

自分の顔つきをした料理の探求

やがて伊橋は、”自分の顔つきをした料理”の探求のために京都修行へ赴く。

ここでまた、伊橋の成長物語に新たな展開がもたらされる。苦心した末にようやく働けることになった立場割烹”さんたか”は、客とのやり取りを重視する立場割烹という特異な店であり、今までの修行先とは料理の供し方が大きく異なったのである。

”さんたか”の親方の元で探り探り修行していくうちに、伊橋は立場割烹のあり方を覚え、これがやがて将来の伊橋のカウンター仕事の基盤を作ることになるのだ。

腹の底が見えない京都人を相手に、伊橋は客が求める料理に想像を巡らせ、同時に自分の個性を料理に活かすことを強いられた。また、素材を活かした”引き算”の料理は、それまでの伊橋の料理の概念そのものを大きく変えていくことになる。

伊橋は持ち前の根性で修行を続けていくがーーこれは伊橋だからこそ乗り切れた修行であると思う。現実の人間はもとより、『味いちもんめ』に登場するいかなる板前でも、伊橋と同じ境遇に立って堪え切れた人はいなかっただろう。

伊橋の持ち前の素直さが、いい結果となって彼の成長に繋がっていった。この経験がやがて、新章『味いちもんめ・独立編』における伊橋の独立に繋がっていくのである。

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