女性寿司職人・きららが守るは江戸前寿司の伝統 - 江戸前鮨職人 きららの仕事の感想

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江戸前鮨職人 きららの仕事

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女性寿司職人・きららが守るは江戸前寿司の伝統

4.54.5
画力
4.0
ストーリー
3.0
キャラクター
4.0
設定
3.0
演出
3.5

目次

江戸前寿司の伝統とバトル漫画の融合

寿司は日本の文化だ。だが、その文化たる寿司において、正しい知識を持っている人間は意外と少ない。

『きららの仕事』(集英社ホームリミックスでは、『きららの鮨』と改題されているので注意)は、グルメ漫画らしい食に対する蘊蓄と、バトルものという構成で、エンターテイメントとしてのグルメ漫画を構築している。これはグルメ漫画の巨匠・寺沢大介の『将太の寿司』に通じるものがある。

『きららの寿司』は寿司の中でも、もっとも有名な江戸前寿司をメインに取り扱った漫画だ。主人公・きららは江戸前寿司の伝統を守る女性寿司職人。銀座で跋扈するエセ江戸前寿司屋に単身乗り込む、というのが序盤のストーリー。

面白くなってくるのが、頑なに江戸前寿司の伝統を守るきららが、寿司業界の革命児・坂巻と出会ってからだ。二人の争いはやがて銀座の寿司店を巻き込むスシバトルへと発展する。江戸前寿司の伝統紹介という初期のスタンスを踏襲しながらも、漫画としてのわかりやすい見せ場を作った。

手に汗握るスシバトル

先に述べたように、きららは江戸前の仕事の使い手だ。いずれも”ひと仕事”を加えた寿司を得意とする。一方で最大のライバルの坂巻は革命児という名にふさわしく、天ぷらや京料理など、型にとらわれないスタイルでトーナメントを勝ち進めていく。

互いに違うブロックになったきらら・坂巻の前には、様々な強敵が現れる。日本海の魚を駆使する”百万石の華”北邑美和、ニューヨークの三ツ星レストランのシェフ”ロールの魔術師”タッド松岡、絶対味覚を持つ貴公子”ジーニアス”神原朱雀など。

この各キャラの握りのスタイルの違いが、『きららの仕事』最大の魅力といえるだろう。

例えば北邑は日本海のネタをふんだんに用意するし、タッド松岡はいかにもアメリカのシェフらしくソースや握りに趣向を凝らしている。神原朱雀は絶対味覚を持つだけあって魚の持つ成分などを作中様々な場所で披露する。各キャラクターの個性を活かした寿司と蘊蓄には、寿司通も思わず唸ってしまう。

坂巻もきららも、彼ら強敵の前に苦戦する。特に主人公・きららはメンタルが不安定なところもあり、自分のスタイルを模索しながらスシバトルに臨み打ち勝っている。この、バトル漫画の王道をきちんと踏んでいるのも、読者にとってはありがたいところだ。

なにより『きららの仕事』を読んでいて嬉しいのは、作中登場する寿司が美味そうな点である。これはグルメ漫画において非常に重要なポイントだ。

何故かは不明だが、グルメ漫画は作画がいまいちなものが多い。線が太かったり、登場人物が不細工すぎて、食べているシーンを見てもなんだか汚く感じられてげんなりしてしまうのだ。

その点、『きららの仕事』は作画が上手く、コマ割りも見やすく、何より寿司が写真と見まがうほど美しいので、グルメ漫画好きも安心して読んでいられる。

なんかちょっとおかしい演出の数々 ギャグ漫画としての側面も

そして覚えておかなければならないのが、『きららの仕事』のぶっ飛んだ演出の数々である。

特に握りがスゴい。職人たちはそれぞれ独創的な握り方を体得しているのだが、きらら・坂巻は寿司の教本どおりの基本的な握りを披露する。

だが、脇役のそれはダイナミックかつ唐突で、それまで『きららの仕事』をグルメ漫画として真面目に楽しんでいた読者の頭に「???」とクエスチョンマークを生み出すのである。

これまでもっともらしいレビューを書いておいてなんだが、『きららの仕事』はギャグ漫画としての役割も持っているのである。

一例をあげよう。まず神原朱雀の鮨の舞。なぜかわからないが、舞うように寿司を握る。特にこう握れば寿司が美味くなるとかそういう理屈はない。きららの本手返しや坂巻の石塔返しが理にかなっているのに対し、あまりにも突然で演出的になってしまうのである。タッド松岡の形容しがたい握りも大抵ひどいが、こちらは本当に言葉で説明するのが難しいので割愛する。

もっともひどいのは錦織サトルの”気合の握り”。ネタを持って、急に劇画のような顔になったかと思うと「はぁああああああ…!!」と寿司に気合を込めて握るのである。冷静に考えて、シャリも潰れるしネタに温度はつくし最低の握り方である(そのせいかどうかはわからないが、錦織は坂巻に完敗している)。

また、坂巻を巡る男たちの争奪戦もひどい。タッド松岡は坂巻に入れ込みすぎているし、坂巻に敗れたスシサイボーグ・里見は、坂巻とまた戦いたいときららにお願い→断られる、坂巻の弟子錦織が倒れる→坂巻さんのパートナーになれるのは俺しかないスと悉く変わり身を見せている。みんなどれだけ坂巻が好きなんだ…。ことわっておくがこれは筆者の邪推では決してなく、『きららの仕事』のスピンオフ『慶太の味』では明らかに狙っている描写の数々がある。

と、このように『きららの仕事』は、一見真面目なグルメ漫画でありながらギャグ、BLと様々な要素を含んだエンターテイメント作品なのである。そして恐るべきところは、寿司においても、ギャグにおいても、バトルにおいても、一定以上の質を持った作品であるということは間違いないということだ。

現在、『きららの仕事』はワールドバトル編まで続き、大変残念な形で打ち切りの憂き目になっている。ここまで面白い漫画が打ち切りになった事実に打ちひしがれながらも、筆者は奇跡の再開を待ちわびている次第だ。

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