文句なしの怪作 『彼岸島』 - 彼岸島の感想

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漫画レビュー数 3,135件

彼岸島

3.503.50
画力
3.25
ストーリー
4.00
キャラクター
3.75
設定
3.75
演出
3.50
感想数
2
読んだ人
2

文句なしの怪作 『彼岸島』

2.52.5
画力
2.0
ストーリー
3.0
キャラクター
2.5
設定
2.5
演出
2.5

目次

よくわかんねぇけど読んじまうぜちくしょう!

『彼岸島』って面白い? と聞かれて、「おお、面白いよ」と即答できる人はどれぐらいいるんだろうか。

大抵の人は、「オ、オウ」と肯定とも否定ともつかない声を発して黙り込むはずだ。そして悩んでしまう。そもそも、『彼岸島』ってどんな話なんだ?と。

そう、読んだのにわからなくなってしまう。それが『彼岸島』なのだ。ホラーでも、サスペンスでもない。パニックホラー、いや違う。脱出もの…でもない。話を要約すると、「美女に騙されて島に連れてこられた若者が脱出を目指そうとするものの途中で諦め、島を支配する道化師めいた服装の男と戦う」のが、おおよその流れだ。ところがこの悪役めいた美女は実はいいやつだったし、一見普通の主人公は何故か途中ですごく強くなったし(主人公・明)、仲間の「見てのとおり頭がいい」西山は出所不明の豚肉から豚汁を作るのが得意になったし、島を支配する道化師めいた服装の男・雅は因縁の宿敵には思えないほどいいリアクションをしたりする(天然という疑惑もある。ラスボスなのに)。

このとおり、『彼岸島』は一切予測不能な、闇鍋のような漫画なのだ。漫画のセオリーや物理法則、時代や刀の出所など考察するだけ野暮というものだ。この辺りは、かつて設定矛盾で読者から痛烈な突っ込みを受けたという『キン肉マン』も真っ青の出来だ。往年のジャンプすらも凌ぐほどの怒涛の展開、突っ込みの嵐、それでも何故か人気を博す『彼岸島』の魅力を考察する。

そんなっ!? 丸太が面白いっ!!

『彼岸島』といえば丸太である。もはや丸太が主役といっても過言ではない。

作中の丸太の汎用性はピカイチで、人を助ける際の救助用に、島から脱出する際の護身用に、ラスボスに挑むときにも使える。

『彼岸島』を読んだことのない人からすれば、「そんなアホな」と思うだろうが、『彼岸島』のキャラたちは基本的に大真面目である。真面目な顔で丸太を持ちだし、丸太が破壊されればショックを受ける。特に丸太は本編に全く関係のないアイテムなのにも関わらず、この扱いは何なのであろうか。

作者が丸太好き、というエピソードは、ネットやあとがきなど、どこを探しても見つけることは出来ない。そもそも冷静に考えて丸太が好きという人間はいない。つまり、丸太は作者の好み、またはネタとして持ち出されたアイテムではなく、作者が漫画を連載していくうえで、ごく無意識のうちに何度も登場させ、レギュラー化したアイテムなのだ。作者の深層心理に丸太があるのかと勘繰りたくなるほどだ。もはや『彼岸島』の代名詞となった丸太は、なぜか某通販サイトで『彼岸島』を検索すると出てくるほどである。冗談だろ。

話が飛躍した。ともかく、『彼岸島』はこういうことがまかり通る漫画だ。読者はシンボルとなった丸太をスルーしながら、とりあえず話を追いかけていく。一滴でも体内に取り入れると吸血鬼化してしまうのに血を浴び続けても一向に変異しない主人公も、狂いまくった作画のセンスも、日本国内で手軽に手に入る西洋盾も、読者はもう気にしなくなっている。

いわば『彼岸島』は、読み進めていくごとに、読者の寛容性が増していく漫画なのである。漫画と一緒に読者も成長する。そんな漫画は本当に珍しい。

突っ込めるだけ突っ込んだら面白くなってきたぞ!! でかした!!

そして不思議なことに、前述の魚の小骨が引っかかるような展開を飲み下していけば、『彼岸島』の面白さに気づいていく。

序盤はホラーものとして、中盤は吸血鬼たちとのバトルものとして、終盤は袂を分った兄やケンちゃんなどの生き様を学ぶものとして読んでいけば、『彼岸島』は面白いのだ。漫画は完璧なものではなくてはいけない、あるいは漫画はなんらかの形としてカテゴライズされなければならないという漫画好きの暗黙のルールさえ気にしなければ、『彼岸島』はエンターテイメントとしてかなり優秀な作品であると思う。いや、むしろそうでなければ、これほどまで有名にはならなかっただろう。

特に注目すべきは、数多の表紙絵を飾る邪鬼(オニ)たちの醜悪かつ奇怪な姿だ。

モンスターと呼ばれる存在に慣れている現代の漫画フリークにとっても、『彼岸島』の邪鬼のデザインは目を引くものであることは間違いない。「チワワ様」「大糞赤子」「満腹爺」など、個性的なネーミングセンスも光り、またそれぞれの生態も面白い。これらは全て主人公である明によって倒されるが、こうした強烈なモンスターを打ち倒す展開は見ごたえがある。

もう一つの『彼岸島』の魅力は、キャラクターに対して容赦がないところだ。これはホラー作品にとって非常に大事なところである。どのキャラクターが生き残るかわからない。または、ーー多少悪趣味であることは自覚しつつもーーどんな無残な死に方をするのか楽しみがある。この点において、『彼岸島』は読者の好奇心をくすぐることに成功している。

なにせ、誰も予想できない展開が常に起こっている漫画だからこそ、読者は頭を空っぽにして『彼岸島』を読んでいる。だから、誰かが死んだり、恐ろしい敵が現れたりすると、ふいを突かれた気分になってとてもワクワクしてしまうのだ。

これは、お化け屋敷を大人が楽しむのと同じことだ。このロッカーからお化けが出る、などといちいち考えていてはお化け屋敷はつまらなくなってしまう。何も予測せず、頭をカラにして準備もせずお化け屋敷に入るからこそ、好き放題驚いたり叫んだりできる。それこそが『彼岸島』の楽しい読み方なのである。

『彼岸島』は、『彼岸島最後の47日間』『彼岸島48日後』に話が続いていく。日本本土に舞台を移した『彼岸島』が(あ、もう彼岸島関係ない、というツッコミは寛容な心で受け止めてほしい)、どういった結末で終わるのか。気になるところだ。

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吸血鬼vs人間

行方不明になった兄がいる、物語はそこから始まりました。とある村の集落に、時々人間がやってくるのですがそこで人間たちは吸血鬼たちの餌にされてしまいます。主人公の兄も同じような経緯かわかりませんが、その村で生き残って吸血鬼と対抗していました。そうとは知らず都会で平和な毎日を過ごす主人公は、ある日美女に兄の免許書を見せてもらい集落へと誘惑されました。それをさも落ちていたと言って…。美女には大男がついているのですがそれがまさか吸血鬼で、街のど真ん中で吸血鬼が大暴れ。主人公達は必死に逃げて攻撃するのですが、まったく効かず。その頃、集落に潜んでいる兄は連れてこられた人間の懐から免許書を漁る吸血鬼の姿を目撃しました。きっと外にいる仲間にこれを渡して上手いこと言って誘き寄せているんですね…。主人公と兄が再会する日は遠くないでしょう。吸血鬼と人間、どちらが勝つのか…。この感想を読む

4.54.5
  • 飛鳥飛鳥
  • 84view
  • 380文字

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