海辺のカフカの感想一覧
村上 春樹による小説「海辺のカフカ」についての感想が4件掲載中です。実際に小説を読んだレビュアーによる、独自の解釈や深い考察の加わった長文レビューを読んで、作品についての新たな発見や見解を見い出してみてはいかがでしょうか。なお、内容のネタバレや結末が含まれる感想もございますのでご注意ください。
村上春樹、21世紀への船出 我々は何を失い、何を得たのか
考察のための事前情報村上春樹2002年発表作品、長編としては10作目に当たる。前後の長編としては「スプートニクの恋人」、「アフターダーク」村上氏は前作「スプートニクの恋人」執筆の際にそれまでの村上春樹的比喩表現をこれでもかと書き、そのあとは書き方を変えて行く、と宣言している。「スプートニクの恋人」でもそれ以前と作風の違いを感じたが、本作では更に過去作品のイメージを払しょくする挑戦をしているように思う。以下、その挑戦とそれに対する私なりの評価考察を記述する。新たなるキャラクター像本作に関しての様々なインタビューで村上春樹は主人公を15歳にする事は最初から決めていた、と語っている。過去作は未成年の主人公はほぼいない。あえて言えば「ノルウェイの森」のワタナベは作中で20歳になるので未成年の時期が語られてはいるが、彼はある程度人格形成が固まりつつある若者として描かれており、現役中学生であるカフ...この感想を読む
市立図書館に居候したくなる
村上春樹の代表作のひとつである「海辺のカフカ」の下。蜷川幸雄の演出で舞台にもなった。主人公は孤独癖のある少年。村上春樹の作品は、友達のすくない男の子が主人公であることが多い気がする。でもどことなくおしゃれで、粋なことをするけど気取らないっていう感じ。彼が偽名として使用するのが、フランツカフカからとられた、カフカ。猫探しが得意なナカタさんがかわいい。「~であります」という口調もよい。キャラクターのひとりひとりが個性的で面白い。カーネルサンダースも出てくる。ふたつの物語が同時進行するストーリー。最後は同じところで混ざり合い、終着していく。
とても深い内容です
この本はとてもおもしろい。皆さんは読むと村上春樹の人気の高さの理由はすぐにわかると思います。そんな偉い作品を支えているテーマそのものが素晴らしい。田村カフカ少年の話とナカタさんと言う数奇な運命をたどる老人の話が平行して進みます。この二人の話が交互に進み、一見何の関係も無いように見えた二人に接点ができ、不明な点を残しながら二人とも別々なアプローチで四国の高松のある場所へ向かいます。二人ともお互いにお互いの存在も知らず、物語は段々収束の方向に向かうように見えます。もしかしたら、カフカ少年=ナカタさんではないかと思いながら読み進むうちに下巻へ。。。
ナイーブな少年
平易な文体で難解な内容を、普段漫画しか読んでいないような読者に読ませる能力あり。こういう能力を有する作家は今の日本では彼をおいて他にはいない。非常に稀有な存在である。ナカタさん等々わかりやすく魅力的なキャラクター設定が巧みである。世の文豪と呼ばれる作家の気取った文体よりも、何かの拍子にはっと気軽に含蓄ある文章を思い出せる文体を書ける作家ならびに小説。気軽く「メタファー」という語を広めてくれた。巧みな性描写。そんな作品を読むと誰でも15才に戻ったような気持ちになる。ものすごく純粋で透明でナイーブな15才の魂。子供でもなく大人でもなく、人生がまだ何も始まっていないあの頃の感じ。つまり「初心に戻り心を白紙に返す」。そんな気持ちにさせてくれるだけでも読む価値ありです。