函館と仙台、大阪の過去と現在が交差する深みのある恋愛小説
母親の意外な過去から始まる物語この物語の主人公は李恵という女性だ。18才で上京して以来、全てを捧げて尽くしてきた仕事と男性に捨てられ、故郷である函館に舞い戻ってきた。長い間それほど構わなかった母親は末期ガンで余命いくばくもない。せめてそれまでは一緒に静かに暮らそうと思っていたのに、母親から思いもかけない過去を聞かされる。妙齢で結婚をしていないひがみからか、余計なお小言をけん制するために、父親としか恋愛したことないだろうと無神経に言う娘に母親が静かに話し始めたその話は、まるで深い海に沈んだ宝箱が開くような静謐さと美しさに満ち溢れていた。母親には父親と出会う前に付き合っていた恋人がいた。その恋人は、なんの前触れもなくいきなり目の前から姿を消してしまったというのだ。その話の間中、自身、恋人と別れたばかりの李恵は、いかにも母親は恋愛慣れしていないだろうという思い込みで話し答える。何か怒らせるよ...この感想を読む
4.04.0
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