笑う月のあらすじ・作品解説
安部公房の随筆集で、17編の随筆や小品が収録されている作品である。安部本人が自ら選んで編集し、1975年11月25日新潮社より刊行、文庫本は新潮文庫で1984年7月25日に刊行されている。 表題にもなっている「笑う月」は、安部が小学生の頃から幾度となく見ている夢の話である。夢の中で大きく裂けた唇で無情に笑うオレンジ色の満月に追われる夢から睡眠と意識について考え、安部なりの理解と世界観を綴った作品である。その中に、見た夢を生け捕りにすべく枕元にテープ・レコーダーを常備して眠るという一節があり安部の夢に対する徹底した姿勢を窺える作品でもある。 収録作品は表題作を含め、「睡眠誘導術」「たとえば、タブの研究」「発想の種子」「藤野君のこと」「蓄音機」「ワラゲン考」「アリスのカメラ」「シャボン玉の皮」「ある芸術家の肖像」「阿波環状線の夢」「案内人」「自己犠牲」「空飛ぶ男」「鞄」「公然の秘密」「密会」の全17編である。
笑う月の評価
笑う月の感想
戦慄と不安
この書物は掌握小説によって成り立っている。しかし全部がバラバラではなく連関を保っているのがまた面白い。特に興味深いのは作者の戦慄した体験である。夢の中に化物が出てきて追いかけられる。それから夢だと気づいて手をつねってみる。成程、夢だ、まったく痛くない。でも、それでも今回は目覚めなかった。ひたすら化物から逃げる作者の心理はおそらくこうであったろう。明らかにこの夢は現実世界を反映している。人生と云う道を進む時の不安、それも漠然とした不安、そしてそれは作者が何かの物事に追われている証拠である。作者は自己の夢を夢判断しなかったが私は興味があったので上記の様に判断したのである。最後に総括するとやはり人を惹きつける文章である。であるからして、作者の作品には人が寄ってくるのである。