豊饒のイメージに古典の品格を根幹として、知性と情念の昇華に透明な香気がたちこめる 「テス」
ロマン・ポランスキー監督の「テス」を観終えて、いま私はその豊饒な作品世界に魅入られ、言葉もない。この深い思いをどう表現したらいいのだろうか。優れた映像世界の前には、言葉も文章も及ばないことを痛感してしまう。イギリスの文豪トマス・ハーディ原作の「ダーバヴィル家のテス」は、19世紀の自然主義文学の代表作の一つとはいえ、現代の感覚からすると、なにやら仰々しく理屈っぽく、ひたすらの生真面目さに、時に辟易もします。だが、その原作を、まさしく深く読みとったロマン・ポランスキー監督の「テス」は、豊饒のイメージに、古典の品格を根幹として、けれど20世紀の知性と情念の昇華に、透明な香気がたちこめるのです。見事であり、また鮮烈でもあるのです。緑はるかなウェセックス地方。その自然の風景、四季の移ろい。南部の肥沃と北部の荒涼に、働く野の人々の命が脈打ちながら、悠久の大地は人の世の流転の哀れを奏でます。そして、何よ...この感想を読む
4.04.0
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