母親と娘の正しい関係とは - 放蕩記の感想

理解が深まる小説レビューサイト

小説レビュー数 3,368件

放蕩記

3.503.50
文章力
3.50
ストーリー
3.50
キャラクター
3.50
設定
3.00
演出
3.00
感想数
1
読んだ人
2

母親と娘の正しい関係とは

3.53.5
文章力
3.5
ストーリー
3.5
キャラクター
3.5
設定
3.0
演出
3.0

目次

自伝として公表する勇気

友達親子という言葉があるそうだ。文字通り、友達のような親子なのだろう。何でも相談したり、洋服やアクセサリーの貸し借りをしたり、休日は一緒にショッピングに行くような関係なのだろうか。何とも微笑ましいことだと思う。仲良し、大いに結構。しかし、そこにきちんと「しつけ」が介在していないと親である意味がないのではないか…というのが私の持論である。子どもに食べさせ、着させ、教育を受けさせて社会に出すのが親としての役目。ただベタベタして、娘の恋バナにアドバイスをするような母親が一般的に憧れの対象になっているとしたら、それは嘆かわしいことである。いや、それはそれで良いんだけどね。そういうのがもてはやされている風潮が嫌なのだ。全くの個人的主観として。

この『放蕩記』は村山由佳さんの自伝的小説だ。自分の内面や家族のことを世間に対して公表するのは、たとえ小説家とはいえ、心の中で葛藤があったことだろう。この小説には母親に対する不満がたくさん詰まっている。当の母親はアルツハイマーになってしまって、この小説を読まなかったと思うのだけれど、娘が自分のことをこんな風に思っていたと知ったらショックで立ち直れないのではないだろうか。娘の若さに焼き餅を焼く母親…とかね。

私は、母親になって20年以上が過ぎた。その前に娘も経験している。今でも両親は健在なので、年はとっても彼らには娘であることは変わりないのだけれど。その上で言わせてもらう。この母親の何が悪いの?と。どこが一体気に入らないのだろうか。人間、誰しも叱られるのは嫌だ。よく、怒るは感情からくるもので、叱るは愛情からといわれるが、母親の美紀子か真っ当な愛情を持って、子どもたちを育ててきたと思える。娘にとっては、厳しすぎるから嫌…ただ、それだけのことではないだろうか。

親として当たり前のしつけ

夏帆が友人とテニスをするため「お小遣いがほしい」と頼んだときも、美紀子は却下し、結局はテニスを諦めたくだりがある。それだって、夏帆がどうせ言っても無駄だからと、前日までそれを言い出せなかったことが問題ではないのか。家には家の事情があるし、お金をもらえなかったのは可哀想だけれども、そんな家庭はどこにでもある。子どもの気持ちはわからないでもないけれども、美紀子のいうことは筋が通っている。誰だって頼みを断られたら、悔しいし悲しい。今回だけだよと、お金をあげたら良かったのかもしれないが、私は子どもを育てる上で「今回は特別」ということを、あまりしたくはなかった。特別な時は、そうそうない。

また、大学時代に門限が10時で、ゼミの飲み会などがある時は、事前に断りを入れなくてはならなかったと書いてあったが、そんなの当たり前じゃないの?私も10時だったよ。村山由佳さんよりも年下だけれど、いつの時代だってそういうものじゃないのかな。私の娘にもそのように言いきかせ、彼女はそれを守ってくれたけれども、それっておかしいことなのか。逆に不安になったわ。

私が、美紀子の良くないなと思う点は、夫婦の内情を子どもに聞かせたことだと思う。「お父ちゃん、浮気してんで」などどは子どもに言ってはいけない。夫婦の間で解決すべきことでしょうが。これは、子どもに甘えすぎてたなと思う。しかも、性に関係する話など、なおさら聞きたくないよ。ここのところは嫌悪感を持って当然だ。美紀子が悪い。浮気する父親も悪いけど。

母親だって反省する

万引きの常習犯になったのも、性的欲求が強くなったのも母親のせいではない。美紀子に「悪いところはお父ちゃんの子。いいところはお母ちゃんの子」と言われるのを、あんなに嫌がっていた夏帆が、自分のしたことを母親の血のせいにするのは矛盾している。

非難されるのを承知で言わせてもらえば、この作家は「母親」を経験していないから、親の愛情表現がわからないのだと思う。母親だって完璧ではない。間違えもするし、失敗もする。私の場合は、ちょっと言い過ぎたなと思っても、子どもにそれを謝ったりはしなかった。その点は深く反省している。美紀子も、多少は子どもに八つ当たりのようなことをしたかもしれない。でも、それを引くに引けなくて陰で後悔していたのではないかと想像することができないのは、申し訳ないけれどもやっぱり母親の立場で物事を考えたことがないからだと思う。夫の浮気で神経がまいっていたのも原因のひとつだろう。

私は、この本を読んでどうしても夏帆のことが好きになれなかった。一言でいうとひねくれているから。例えば、恋人がトイレの便座を下げ忘れた時に「私のお尻が便器にはまったら助けてくれる?」という場面がある。嫌みだわ。「便座、さげておいてね」って言えばいいだけじゃないの?美紀子のことに関しても、人の心の裏を読むようなところがあって、それが親子であるがゆえに深読みしてしまっただけのことではないのか。昔から小説家になるべく才能が備わっていたのだね、きっと。ややこしいのはお母さんじゃなくて、あなたのほうじゃないの?と問いかけたくなるような小説だった。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

放蕩記を読んだ人はこんな小説も読んでいます

放蕩記が好きな人におすすめの小説

ページの先頭へ