誰が七千万を持ち逃げしたか
「約三十の嘘」はこんな作品!
この作品は、チームで詐欺をはたらく六人の男女が、売上金の七千万を列車の中で奪い合い、隠し合う内容となっています。
舞台は逃げ場のない寝台列車となっており、密室で繰り広げられる心理戦や、疑心暗鬼にかられた各々のやり取りが見所となっています。
中谷美紀さんや椎名桔平さん、妻夫木聡さんなど、豪華な俳優陣の共演も見所です。
また、劇中歌はクレイジーケンバンドが担当しており、おしゃれで大人な雰囲気を盛り上げています。
ラストシーンは消化不良感があった
まず、この作品は六人の詐欺師の話です。
詐欺というのは当然の事ながら違法行為であり、この六人のやっていることを、観客が応援することは無い訳です。
しかしながら、物語の着地したところは、「仲間との絆」でした。
これが青春映画なら分かりますよ。
しかし、全員詐欺師ですからね…。
最後に今井を除く五人は、七千万を失う代わりに、再度絆を取り戻します。
一見いい話のように終わりましたが、観ているこちらは全然すっきりしませんでした。
「皆でまた仲良く詐欺をはたらきましょう!友情万歳!」みたいな…。
全く共感できない終わり方ですよね。
全員犯罪を行っているのだから、それをサークル感覚で観客に見せても、ちゃんと着地しないと思うんですよね。
もし、犯罪者を主人公にするのなら、愛や友情みたいな綺麗事は語れないと思うんですよ。
共感できないですからね。
もしくは、悪いことで儲けている所から、さらに掠めとるとか、観客が「詐欺をしても納得できる」要素がほしかった。
そうでないのなら、きちんと詐欺のやり口でシーンを見せるとか、そういったクライムエンターテイメントに徹するべきだったのでは?と思いました。
また、そもそもあんなに仲間内で騙し騙されて、また一緒にやっていこうって、なります?
もし私が佐々木の立場なら、シカタのことを、二度と信用できないでしょう。
ラストまで人間描写が詳しく描かれていたのに、そこはなあなあになっているのが、ちょっと違残念だと思いました。
残念ながら、何となく先の展開が読めてしまうことも
ストーリー中盤から、売上金七千万を仲間内で掠めとる、巧妙な詐欺の応酬が始まります。
そこが一番の見所なのですが、正直いくつか予想通りの展開もありました。
まず、最初から険悪な雰囲気だったシカタと佐々木。この二人が実は最初から手を組んでいて、お金を隠していた事が、終盤になって分かってきます。
ちょっとここは予想通りでしたね。
険悪な二人が実は繋がっている、というのは、この手の作品では、わりと常套手段のような気がします。
また、スーツケースの鍵を確かめる際にも、「これは誰かが、偽物の鍵のフリをしているな」とすぐに思い当たりました。
こういうこれ見よがしなシーンで、おそらく観客を騙すのだろうな、と思ってしまいました。
こういう大事なギミックが、わりと先読みできてしまったのが、少し残念でした。
六人の空気感が絶妙。豪華俳優陣の共演!!
この作品を見ていて、一番秀逸だと思ったのは、各々の感情や、その場の空気感がよく伝わってくる点でした。
シカタのチームは、今井とその男が三年前にお金を持ち逃げしたことから解散状態になり、今回の羽毛布団の詐欺が初の再結成となりました。
そのため、冒頭ではよそよそしい雰囲気が漂っています。
また、新参者の横山に対しては、ちょっと村八分状態というか、アウェイな空気が漂っています。
今井を受け入れた際の、男だけで何となく今井を庇うような雰囲気や、トンネルを開けて仕事が終わった後の、緊張感がほどけたような感じも、見ていてよく伝わりました。
場の空気感は、短いシーンで頻繁に変わるのですが、その度にそういった緊張感みたいなものが、俳優チーム一体となってよく表現されていたと思います。
さすがベテラン俳優が共演しているだけあるな、と思いました。
今井は一流の詐欺師か?
三年前にお金を着服し、チームの崩壊の原因を作った今井。
しかし、秘密裏に召集され、またも彼女がチームに加わることになります。
今井は、一見しておとなしく、しおらしい態度に見えますが、常に逃げる相手を査定しているような言動や、さりげなく自分に非が向かないように振る舞うような様子が、彼女の強かさを表しています。
最後はシカタに取り入って、お金を持って逃げようとするなど、一番の近道を選んでいる彼女。
対して宝田は、不器用で感情的で、やはり今井の方が一枚上手な感じがします。
しかし、ラストシーンでは、タクシーの中で涙する姿も見せます。
彼女もまた、お金ではなく、何か別の物を欲している人であり、しかし所詮お金で片付いてしまう、自分とのジレンマがあるのかもしれません。
詐欺師が何を言ってるんだという感じもしますが、宝田やシカタ達のように、仲間との絆に価値を見出だせるような人間でいたかった、という涙のようにも見えました。
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