「艶は死んだ」 - つやのよるの感想

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つやのよる

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「艶は死んだ」

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目次

「艶は死んだ」

その時、艶と寝た男たちは 彼女の葬式には来なかった。

その女と寝た男が、その女の葬式に来るなんてことは、当たり前に考えてありえない。(私個人の考えである)歴代の元彼が葬式に来ることもないだろう。

彼らが今ここにいないのは不公平である気がした。彼らは今どこにいるのか。そうして彼らの中の艶はどこにいるのだろう?

艶の今の夫である松生はそう思った。

物語を読み進め、この文章に出会った時、ふっと この疑問が自分にも渦巻いた。

「当たり前」が崩れ落ちた。

なぜ、寝た男が葬式に来ないことは当たり前なのだろうか。

必要があると「うちの奥さん」とこれまでは呼んでいた女性のことを「彼女」と社長が呼ぶのを聞いたのは今日がはじめてで、そのせいかその女性は、この世界に今日突然あらわれたように感じられた。
そして社長も同様だった。目の前にいる人は不意に、湊が知らない、知りようもない男になった。

私は、自分の母が知らない人になったと感じたことがある。

小さい頃は、母親がすべてで 正しいことも間違ったことも、お母さんがすべて知ってる。お母さんがすべて正しいと思っていた。だけど、私の年齢が大きくなるにつれて、いろんな人や言葉に出会うにつれて、お母さんがすべてではないことを知った。母親に対する信頼がちょっと崩れた。小さい頃は、学校であったこと、友達と喧嘩したこと、話していたけれど、今は話さない。何を話しても、上から目線で話すから。説教のように話すから。母親のことがすごく好きとか、嫌いとかそういう感情は無いけれど、母親を一人の人間として考えられるようになった。きっと、誰かのすべてを知ることも、分かることもできないし、やっぱり、誰かの今まで知らなかった1つの何かを知って、ちょっと愕然としてしまうこともあるんだろうなと思った。

自分がこの世で何よりも嫌いで、それを避けるためだけに日々を費やしてきたと言ってもいいのに、結局いつでも避けられないのはこのことなのだ、と湊は思った。一人の男を知り、そして彼があるとき知らない男になること。

この小説のこの文章を読んで、こんな経験をしたことは無いなあと思った。だけど、よくよくいろんなことを頭の中で思い出しているうちに、これかもしれないと思い出したことがあった。

友達の口から、「顔面偏差値」という言葉が出た時。この子は、こういう言葉は使わないだろうと自分も知らず知らずのうちに思い込んでいたから、ちょっとだけ驚いた。「顔面偏差値」という言葉が出ただけで、その子のイメージは変わったし、私とは、合わないかもなあとも思った。それを避けるためだけに日々を費やしたことは無いけれど、私も、このことが起こるのは嫌い。今まで同じ時間を共有したけれど、そんなことは関係なしに、急に溝ができる感じ。「もともとそこに溝はあったのよ」と誰かは言っているかもしれない。

優が光をどうにかするなんてまったく考えられない。彼が光の父親だからではなくー他人を傷つけるとかこの世から消し去ってしまうとか、そんなひどいことをするにはそれに見合う分量の思いや感情が必要なはずだ、と百々子には思えるからだ。たとえば艶が優に向けていたような。松生が艶に向けていたような。

そんなひどいことをするにはそれに見合う分量の思いや感情が必要。例えば、誰かと恋人になって、だけど、うまくいかなくて、別れて、別れた後は、お互いに憎み合ってて。それは、憎むほど愛していたからなのかなあ。それとも、愛せないから、憎んでいるのかなあ。気持ちの強さとか、気持ちの弱さとか、どうでもいいとか、人は人を傷つけるし、昨日と態度はコロリと別人のように変わるから、もう分かんないけど、危ないけど、どうでもいいとは言いたくないな。

艶と寝た男たちは、ずるい。

ただ、麻千子も教授と関係していたことがなぜか大学当局に知られていたのは、教授が明かしたせいだと考えられなかった。何度か呼び出しを受けたので麻千子のことも噂に上った。噂の当人にとっては噂というのは意外に静かなものだと麻千子は感じた。麻千子についてのことは誰も麻千子に言わないので、逆に厚ぼったい雲に守られているような感じだった。雲、でなければ、キャンパスの中空にぽっかりと浮かんだ小さな島に自分ひとりで乗っかっているような感じ。麻千子はふとO島のことを思い出した。

噂を話す人は、ものすごく品がないように感じる。噂と雲とO島、麻千子。ちょっとずつ艶と絡んだ何かが出てくるのが、いい。

この作品は短編集形式になっていて、そこが好き。1つ1つ目線が違く、全編読み終わった後、なぜかほっとした気持ちになった。「つやのよる」という題名も好き。いい本に出会うといつも思うけれど、

高校生の時に、教室で読みたかったな。この作品は私にとって、ちょっぴり背伸びをして読んでる作品だった。もう少ししたら、背伸びが必要なくなるのかな。

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