シュミットは長生きしそうと思う理由 - アバウト・シュミットの感想

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アバウト・シュミット

4.254.25
映像
4.25
脚本
4.25
キャスト
4.60
音楽
3.50
演出
4.25
感想数
2
観た人
2

シュミットは長生きしそうと思う理由

4.04.0
映像
4.0
脚本
4.0
キャスト
4.2
音楽
3.5
演出
4.0

目次

俺が一番

冒頭のシーンで、アフリカの子供への手紙を書くシーンがあるが、数々の不平不満を書いている。まず書いたのが、定年退職した会社の後任に対して、生意気だとか無知な若造とかかなりの熱量を持って怒っている。もう会う必要のない相手にここまで怒れるのは、俺はまだまだやれるし、優秀だし俺が一番という気持ちがなければわざわざ手紙に書かない。

続いて、自分の老いへの嘆きや、ああしとけばよかったという人生の後悔、長年連れ添った妻への愚痴をつづり、その中で人生の後悔の原因として妻が許さなかっただろうとしれっと、奥さんのせいにしている。シュミットは、つくづくプライドが高い。

しかし、一人娘に言及するところでは途端にトーンが弱まり、娘の具体的な描写がせいぜい中学生止まりなのが、疎遠になって久しい事を感じさせる。2週間ごとに連絡を取り合っているというが、内容は「元気だけど、忙しい」「そうか、体大事にしろよ」のようなかなり薄いのではないだろうか。

そんなシュミットの驚くべきは、これだけ独りよがりな内容の手紙なのに、何のためらいもなく投函してしまうところである。当たり前のこと書いているという、疑いの余地を持たないところにシュミットの俺様な部分を何度目かに感じる。

そして、奥さんが亡くなったあとも棺をケチったり、ケチったことを責められても話をすり替えて逆ギレしたり、サンドイッチはこうしてほしい付け合わせのチップスはこれだとやりたい放題である。これらのワガママは、身内への甘えとも取れるが、久々に会った娘からしたら、相変わらず自分勝手で思いやりのない人と思ったことだろう。

シュミット大噴火

部屋は心を映す鏡というが、家の中は荒れ放題になり、妻のありがたみを感じ穏やかになるかと思いきや、妻の何十年も前の浮気を知り一気に大噴火し、妻のものを処分し浮気相手の友人に殴りかかるシュミットだが、これを機に急に精力的に出歩き始めるあたりは、亡くなった妻に対してお前がいなくても俺は充実していると示したい気持ちと、怒りの感情そのものがエネルギーになっていると考えられる。

シュミットの大噴火は怒りだけではなく、性的な面でも登場する。キャンプ場で知り合った夫婦の奥さんに対して、ちょっと理解してくれてるかのような言葉を掛けられたからといって、すぐ迫る様子は、妻の死からすっかり立ち直っているように思える。もちろん、女性ならだれかれ構わずいいのではなく、婚約者の母親に迫られそうになって慌てて逃げるシュミットは、ちゃんと選り好みする点は、男としての現役感を感じずにはいられない。この調子なら、婚活パーティーなどに参加して再婚する日も近いかもしれない。

シュミットがやりたいこと

結婚式を明後日に控えた娘に、結婚をやめさせることに使命を感じるところはもはやどうかしているといしかいいようないが、シュミット本人はいたって真面目に、自分が言えば娘は聞き入れると信じている。シュミットの盛り上がりぶりは、娘が結婚をやめれば全てがうまくいくと言わんばかりだ。それは、娘の幸せのためではなく、シュミットが今後幸せに暮らしていくために娘に側にいてほしいという気持ちからだが、婚約者が実際頼りないので、シュミットが気づかないのも無理はないかもしれない。

自分はなんの役に立っているのか

もやもや晴れない気持ちのまま臨んだ娘の結婚式のスピーチでは、本当は嫌味を言ったり、マイナスなこと言いたかったかもしれないがぐっとこらえ感謝の気持ちを述べるにとどめた背景には、シュミットからすると気に入らない存在であっても、色々と面倒をみてくれた婚約者の家族に寄るところが大きいと思わざるおえない。痛み止めの薬のせいで半ばラリった状態といえども、2泊3日お世話になった家族の悪口はさすがに言えない。

婚約者家族との交流と帰りに開拓者の記念館に立ち寄ったことから、思いっきり自分の人生の総括をするシュミットは、この映画の中で初めて利他の視点を持つ。その姿を見ると、心理学では、人生の節目は生まれ変わりと同じ意味を持つ、というのが大げさではないと思える。冒頭では、あれだけ俺が一番風を吹かせていたシュミットが、開拓者と比べたら、ちっぽけだし、弱いし、落伍者だしと言い出し、落ち込んですらいる。結婚し子供を育て上げた時点で、大きな役割を果たしていると思うし、66歳で定年まで勤め上げてもなお、開拓者と自分を比較して落ち込むとは、シュミットはなんて意欲的な人間なんだろうと思う。

ここまででも十分長生きしそうなのだが、極めつきは支援しているアフリカの子供からの絵だ。家に一人となり、仕事もする必要のないシュミットにかくもわかりやすく、新たな生きる理由ができた。

シュミットの今後

これだけ意欲的なシュミットのことだから、若い頃から念願だった会社を起こしてもおかしくない。保険関係の仕事か、慈善団体系の仕事なのかはわからないが、年齢を感じさせない働き方をしそうだ。

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快作というか、身につまされる作品というか

男性諸氏にとって身につまされる一言でいうと、退職後に行き場の無くなった男のさびしい人生の末路、というテーマの作品です。世の男性ならほとんど誰にでも容易に訪れそうな話が満載なので、悪い意味ではちょっときつい作品でした。これを、あのジャック・ニコルソンが演じるのですから、彼のように若い時はバリバリと存在感を撒き散らしたであろう人の極端な老後の描写で、その哀れさは半端なかった。退職しているのに、仕事場に未練を残して、社交辞令の贈る言葉で言われた「また相談に乗ってください」的なことを真に受けて仕事場に行ったりするのもなんかわかるような気がします。妻の死で寂しさはさらに加速。妻が浮気をしていたということで、痛烈さがさらに加速。娘を訪ねてもぞんざいに扱われ、ほんとうにもはや、行き場所もなく、存在価値もないという男に成り下がったことを自覚せざるを得なくなるわけです。考えさせられる問題作この作品から私...この感想を読む

4.54.5
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