結末のその後が知りたくなる物語 - 雲の階段の感想

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雲の階段

3.753.75
文章力
3.50
ストーリー
3.50
キャラクター
4.00
設定
4.00
演出
3.50
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結末のその後が知りたくなる物語

3.53.5
文章力
3.5
ストーリー
3.5
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
3.5

目次

拍子抜けしてしまうラストシーン

私は、「警察24時」とか「悪い奴を許さない」とかいうテレビ番組が大好きである。結婚詐欺師と直接対決などというのもあるな。万引きGメンに捕まった女性がくどくどと言い訳をしたり、納税しない人が査察官に向かってお金などないと言い放つ類いの番組である。趣味が悪いと思われるかもしれないが、追い詰められた人が必死に言い訳をして、なんとかその場を逃れようとするその汚さというか、本性が見たいのである。みな一様にバカバカしいバレバレの嘘で自分を守ろうとする。もう、振り向けば断崖絶壁なのに、なお見苦しい醜態を晒す。そして最後はうなだれて非を認めるのである。最初から謝ればいいのに、たとえギリギリでも人間は罪を認めまいと頑張るのだ。あー、三郎よ、私は三郎の言い訳が聞きたくてこの小説を読み続けたのに、敵前逃亡とはなんたる情けなさ。んー、私はこういう終わり方が一番嫌いだ。

結末を読者に預けるなと言いたい。三郎の手紙を受け取った母は、亜希子は、亜希子の父はそれからどうしたんだ。病院はどうなったんだ。まあ、そこが小説の主題ではないのだろうが。渡辺淳一先生が一番伝えたかったのは、三郎が母への手紙に書いた「日本は資格がなければ何も出来ない国ですね」というところなのかな。確かに三郎は偽医者だけれども、亜希子の命を救ったし、本当の医者にも負けないくらい手術が上手だった。しかし、それは許されることじゃないよね。でも、私も今お世話になってるかかりつけ医が、実は医師免許がないって言ったとしても、何の不自由もない気がするんだけど。俳優の唐沢寿明さんもドラマ「白い巨塔」の主役をやるときに「もう勉強しすぎて、簡単な手術ならできそうな気がする」って言ってたよ。

このあと、病院は何事もなかったかのように、三郎の存在をうまいこと末梢するんだろうな。それか三郎一人に罪を押しつけるのか。でもそれはやっぱり病院側の責任を問われることになるから、公表しないのかもしれない。病院にとっては三郎の失踪は有難かったのだと思う。

本当の味方は母親だけかも

じゃあ、亜希子はどうだろうか。亜希子も最初は混乱するだろうけれども、もともと三郎と島で出会ったのは子宮外妊娠がきっかけだし、今後も金持ちの両親の庇護のもと、立ち直って新しい男の人をみつけて幸せになれるだろうと思う。

三郎もほとぼりが覚めた頃、こっそり帰って来たら何もなかったかのごとく、暮らせるのではないだろうか。

この一件で、さすがだなと思ったのは母親の深い愛情だ。最初は三郎の言いなりになる母親に物足りなさを感じていたが、「何かあったらいつでも戻って来い」とはなかなか言えるものではない。もし私が母親の立場なら、その前に半狂乱になるわ。毎日毎日ビクビクして眠れない夜を過ごすことになるね。妹の里美の言い分が正しい。勝手に家を開けておいて、帰ってきたら何だかわからないことに巻き込まれている。高卒の兄貴が医者と偽っているっぽい。確かに島で、三郎は自分から医者とは言わなかったかもしれない。でも、白衣着て先生って呼ばれて、手術したら医者か犯罪者かどちらかだものね。そういえば、私の好きな「崖っぷちの言い訳」はこの家族の中で使われていたわ。

亜希子と明子の魅力

三郎は、島に留まればこんな大事に至らなかったのに、それでも偽医者を貫いたのは亜希子への愛情なのだろうか。それとも、看護師の方の明子に縛られるのが怖かったのだろうか。何だかねちっこそうな雰囲気だものね。逃げたくなる男の気持ちも、手を出してしまう気持ちも分からなくはない。明子イコール島。亜希子イコール都会。それだけじゃなくて、私は理由のひとつに「性欲」があると思う。だって渡辺淳一先生が書いたんだもの。亜希子の容姿に惹かれたのもあるけれど、女性として明子より亜希子の方が魅力的だったんだと思う。もちろん性的な意味でね。また、自分が命を救った人間っていうのにも格別な思いがあったのかもしれない。

三郎にとって医者の仕事、特に外科手術は魅力的な仕事だった。それができなくなることが寂しかった。そして島にはもう飽きかけていた。亜希子は救世主のように、三郎を未知の世界へと誘う。何と言ってもお金持ちである。ちょっと風来坊のようなところのある三郎には、ダメだ、危ないと思いつつも流されて行ってしまったというところかな。

でも、病院で診療点数や空きベッドのことで、意見する三郎は立派だった。男らしいぞ。物語にぐいぐい引きつけられた。そしてこのままどうなってしまうんだという不穏な予感が私を高ぶらせた。なのに、なのに、あー、あの終わり方はすごく残念だった。

ちなみに、この小説は長谷川博己主演でドラマ化されている。お、なかなかいい感じのキャスティングじゃんと思ったよ。原作と内容が違うので、なるほどこういう解釈の仕方もあるのかと言う感じの仕上がりだったな。

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