金田一映画の最高傑作 - 悪魔の手毬唄の感想

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悪魔の手毬唄

5.005.00
映像
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脚本
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キャスト
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音楽
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演出
4.50
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1
観た人
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金田一映画の最高傑作

5.05.0
映像
5.0
脚本
4.5
キャスト
5.0
音楽
5.0
演出
4.5

目次

市川崑、石坂浩二コンビによるシリーズ第2作

1976年、角川書店を率いる角川春樹は、角川春樹事務所を設立して映画製作に参入。自社文庫のベストセラーを映画化した「犬神家の一族」は、社会現象ともいえる特大級のヒットを記録し、その秋の映画界、出版界の話題を独占しました。ここで初コンビを組んだ(実際には二人は既にCMで協働した経験があります)監督市川崑、主演石坂浩二のコンビだ同じ横溝正史の金田一耕助ものを映画化したシリーズ第2談が、この「悪魔の手毬唄」です。ただし、今回は角川春樹事務所は「企画」に退いて、前作で配給とスタジオだけを担当した東宝が子会社・東宝映画の名義で製作しています。つまり同じシリーズなのに、両者は製作会社が違うのです。ただ、同じ東宝スタジオですから撮影・長谷川清は続投。そのかわり、大映出身の照明・岡本健一と録音・大橋鉄矢は東宝の佐藤幸次郎と矢野口文雄に交代しました。まだまだ、大手映画会社間の縄張り争いが根強く残っている時代で、新興勢力・角川と各社をまたにかけていた市川崑は、そうした因習に風穴を開ける役割も果たしたというわけです。美術は同じ東宝同士ですが阿久根巌から村木忍に交代。照明の交代とあいまって、シャープで華麗だった前作から一転、ぐっと渋く柔らかいトーンの画面作りとなっています。

音楽は村井邦彦

これも前作の大野雄二から交代しました。慶応ライトミュージックソサエティつながりで、ジャズピアノが活動の中心だった大野に対して、村井はGS全盛期の人気作曲家でした。映画音楽はも既に何本か手がけていますが、この作品とのちの「タンポポ」が代表作でしょう。イタリア音楽を思わせる哀切なメロディで作品に貢献しています。深町純と田辺新一がサポートにまわり、自作からシリーズの音楽監督に固定される田辺は一部の作曲も手がけています。

冬枯れの山村で起こる連続殺人

今回の舞台は岡山県の山村です。金田一耕助は旧知の磯川警部に招かれてこの地でのんびり湯に漬かろうと訪れるのですが、磯川は実は、過去にここで起こった未解決殺人事件について友人の知恵が借りたいと願っていたのでした。そうこうするうちに謎の老婆が村に舞い戻り、新たな連続殺人が始まってしまいます。

このシリーズは金田一を徹底した狂言回しとして設定しており、彼の知人とか友人という存在はほとんど登場しません。日本人の大好きなホームドラマ的掛け合いを排除しているのです。磯川警部は数少ない例外で(といってもこれ1本しか登場しません)、あと一人は第5作に登場する横溝正史先生、シリーズ5本を通じてこの二人だけです。磯川を演じる若山富三郎が実にいい味を出しています。「シルクハットの大親分」とか「子連れ狼」とかデフォルメされた役の多かった彼は、この役やNHKの「事件」で一皮向け、じんわりと初老の哀愁を感じさせる名優の域に入りました。

なお、「犬神家の一族」で長野県警那須署長・橘を演じた加藤武も、もう一人の岡山県警警部・立花として再登場。当然別人なのですが、口癖やしぐさ等は完全に同じで、この、「毎回リセットして初対面になる幹部警察官」の役はシリーズを通して続くことになります。しゃれた遊びです。

そして犯人(ネタバレ)

若き日の色香をかすかに残す宿の女将(過去の殺人で亭主を殺されている)・岸惠子が本作のヒロインです。撮影当時44歳。20代の女優としては仁科明子、高橋洋子、永島瑛子らが配されており、この人選が何とも渋い。そして辰巳柳太郎と草笛光子。特別豪華というのではないが、何とも底光りのする、重厚なキャスティングです。岸惠子は撮影中からペラペラ取材でばらして一部の顰蹙をかっていましたが、犯人です。でも、この映画は犯人当てに主眼を置いてなくて、原作を読んでない人でも大抵は途中で見当がついたのではないでしょうか。

哀切のラストシーン

磯川警部は女将に密かに思いをよせていました。そのために過去の事件の解決を願ったのですが、結果は裏目に出て、彼女の自死で事件はやりきれない終結を迎えます。うちひしがれる警部に金田一がポツリと「彼女を愛してたんですね」と漏らすシーンは原作にもあり、過去、何度も映像化される中で必ず(1961年東映版は除く)ラストを飾っています。この映画も例外ではありませんが、ひとつ捻りを加えてジャン・ギャバンの名作「望郷」の趣を加え、金田一の声が汽笛に邪魔されて磯川に聞こえないまま二人は別れていくことになります。そこで停車場のポール「そうじゃ」(伯備線総社駅)が返事の代わりをするというのも古典芸能を連想させる地口オチで、何とも心憎い限りです。二人の万感こめた表情演技もすばらしく、冬空にたなびく汽車の煙はわれわれに深い余韻をのこしてくれます。

二十数本を数えるという金田一映画。テレビを加えると膨大な数になります。古いものは私も見ているわけではありませんが、この「悪魔の手毬唄」が最高傑作と言い切って間違いないのではないでしょうか。

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