食傷気味なデスノートのダイジェストアニメ、幻視する神とは?
やや中途半端なダイジェスト版
月がデスノートを手に入れるところから、Lの死までが二時間弱の枠にまとめられたダイジェスト版と言ってよい作品。ただ、若干のこの作品オリジナルの改変はあるものの、あらゆるデスノートの作品を観てきたファンには食傷気味で既視感が強く、デスノートを知らない人にはテンポが速すぎたりエピソードの説明不足で若干理解しづらいシーンもあるかと思われる。
デスノートは藤原竜也さん主演の実写映画が先で、テレビアニメは後から始まったのだが、やや実写の出来栄えが良すぎたせいか、比較的原作に忠実なアニメ版は実写映画に圧倒されてしまっている感があり、わざわざこのダイジェスト版を作成する意味があったのか少し疑問にも感じた。
セリフなどは原作にあるシーンでは忠実だし作画もかなり綺麗なのだが、尺の関係でLが月への疑惑を深めていく過程が端折られているため、若干都合のいい展開になってしまっている感が否めない。
そのせいか、南空ナオミの行栄不明をキラの仕業と疑うまではいいが、キラ特定のためにいきなり警察関係の夜神家と北村家に監視カメラを仕掛ける提案が、やや脈絡がない思い付きのように感じてしまう。
幻視する神とは?
幻視するとはあまり聞きなれない日本語であるが、真実でないことやありもしないものを見ることである。素直に考えれば、自称神である月が、誤った正義に憑りつかれて、妄想の中で生きてしまっている、自分を神だと思い込んでいる事自体を幻視する神と表現しているとも取れる。
しかし、ラストにリュークが、あの時の月は神ではなかったと、おそらく月の名をデスノートに書いた後に回想しているシーンと思われるものが挿入されている。リュークに言われるまでもなく、月は神ではない。
しかし、この作品の続きのリライト2ではキラを神と崇め奉る人が圧倒的に増え続けるため、一部狂信的な人間にとっては神になりえたのかもしれないが、正確には幻視する神というより、幻視された神の方がふさわしいようにも感じる。
Lの人となり
Lは基本的には原作に忠実に描かれているが、原作にもない実写版松山ケンイチさんのセリフ回しがないと、やや物足りなさを感じてしまう。
松山さんは次のセリフの一文節目までを一気にしゃべってセリフを区切るという独特な話し方をしていたが、それが妙に浮世離れした感じを表現していてよかったので、アニメ版でもそのような話し方にしてもらいたかったように思う。
その代り、物を持つ手が汚いものをつまむようなしぐさをする癖があるLが、月と握手したらその手をハンカチでごしごし拭くという無礼な態度が追加されている。
これについて月が顔をしかめるシーンがあるが、原作や実写のLは潔癖症というより一種の個性で物をつまむようなしぐさをしていただけであり、スナック菓子や果物なども手づかみで食べており、いわゆる他人の皮膚に触れたがらないような潔癖症ではなかったのではないだろうか。これについては若干Lの人格にがっかりしてしまう改変であった。(手には触れたがらなかったのに素手素足で殴り合いはしているという矛盾も)
月に、Lが生まれてから本当のことを言ったことがあるのかと問うところは、なかなか原作にもない見どころにはなったが、月に至極当たり前の言い訳をされてしまい、尻すぼみに終わってしまった感があり、惜しいシーンとなった。
Lが自分の推理を確信できぬまま死亡
この作品の改変でもっとも気になったのが、原作ではLが死亡する際、周りには一件Lの異変にうろたえるふりをしている月が、Lにだけニヤリと笑うことでLが自分の推理が間違ってなかったと確信しながら死んでいく。しかし、この作品ではそういう描写はなく、Lは心臓まひで死んでしまう。
その前に前述のように、月と生まれてから本当のことを言ったことがあるのかなど月を疑う発言をしているものの、月が完全に完全な言い訳をしているため、効果的シーンになっていないのに月がLに勝利宣言するかのようにほくそ笑むシーンが割愛されたのは惜しい。
月が通っている大学に生徒として乗り込む行動力などが割愛され、リライト2で活躍する後継者ニアやメロより優れたLの能力が省略されてしまった感があっただけに、あのLの不敵な笑顔でLが自分は間違ってなかったと確信するシーンは、割愛すべきではなかったろう。一方でLの墓所の前で、なぜか四つん這いになって勝利宣言をする月のシーンが挿入されているが、ポーズが間抜けな上にLのリアクションが得られず、あまり意味のないシーンになってしまっている。
この作品ならではのオリジナリティを出そうとしている努力の痕跡は感じるものの、原作の根っことなる動かしがたいイメージやあまりに大きな意味を持つシーンは、原作に忠実にした方がよかったように思う。実写版があれだけの改変を行ったのに好評だったのは、原作ファンのLが月を追いつめる姿が見たかったという願いをかなえた点と、ノートのルールを巧みに使い、もしLが死ななかったらこうしていただだろうことを、読者も驚く形で「原作のイメージを破壊せずに原作以上の理想的終わり方にした」という点に尽きる。尺の問題はどこを削るかが課題になるが、やや原作とも印象が違い、実写のラストを超えられなかった点では、中途半端なダイジェスト版になってしまった。
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