あまりすっきりしない仕上がりのサスペンス - ブロークンシティの感想

理解が深まる映画レビューサイト

映画レビュー数 5,784件

あまりすっきりしない仕上がりのサスペンス

1.51.5
映像
2.0
脚本
1.5
キャスト
2.0
音楽
2.0
演出
1.5

目次

冒頭からスピード感のある展開の早さ

この作品は元刑事で現在探偵のビリーが主人公だ。その彼をマーク・ウォールバーグが演じている。ビリーはレイプ犯である黒人少年を射殺してしまい裁判にかけれられるが、正当防衛が認められ無罪となる。しかし彼に不利な映像が実は存在した。しかし市長がその証拠を握りつぶす代わりに刑事を退職することを余儀なくされ、彼は引退する。
そして画面は一転し、それから7年後となる。この展開が私は好きだ。年がたつほど時間の経過が感じられて、ストーリーに引き込まれてしまう。この映画のそこは数少ない好きなところだ。
刑事を辞めたマークは探偵として働いていたが、未回収金が多く倒産寸前となっている。そこに例の市長が5万ドルの報酬で妻の浮気調査を命じてきた。当然飛びつくビリーだけど、なにやら雲行きはどんどん怪しくなってきてという展開だが、この展開がどうも分かりにくい上に、どうにも面白くない。妻の浮気調査という名目にする割りには、すぐそうじゃないことが分かるし、妻の愛人とされたポールはあっさり殺されてしまう。この雑さが、サスペンスとしてはちょっと物足りなく感じてしまった。
また殺されたポールだけど、人としても男性としてもまったく魅力的ではない。だから殺されたときも驚きもしなかったし、残念だなと思うこともなかった。
登場人物の魅力のなさもこの映画の致命的なところだと思う。

行動の動機の弱さ、その決意を破る表情の弱さ

これは決してマーク・ウォールバーグの演技力のせいではない。個人的に彼は好きな俳優の一人だ。この映画だって彼が出ていたからこそ観てみようと思ったくらいだ。でもこの映画では、かなり物足りない行動が多かった。でもそれは100%監督の采配によるものだと思う。
まず、黒人少年を射殺した時からビリーは禁酒している。しかし恋人であるナタリーが初めて主演となった映画の役柄があまりにもショックだったためヤケ酒のように飲んでしまうのだが、7年の禁酒は相当の覚悟でないと出来ないと思う。その禁を破る時にためらいがほとんど感じられなかったのが残念だった。しかもその理由が、恋人が映画で少し激し目のラブシーンを演じただけという、ちょっと弱すぎる動機なのも疑問に思った。彼女はもともと女優だったわけだし、そういう場面も役として演じるのは必要だろう。それで7年の禁酒を破るというのはちょっと無理があるのではないだろうか。その上、せっかくの映画完成パーティで彼女をあそこまで罵倒して台無しにしてしまうのは、あまりにもどうかなと思ってしまった。
もう1つ黒人少年を射殺したところ。実はこの少年がレイプしたのはこの恋人の妹だった。ビリーは恋人のために彼を射殺したのだけど、その時も表情が弱い。怒りもなければ怯えも感じられない。黒人少年を白人刑事が射殺することがどれほど波紋を呼ぶかくらいわかった上の行動だろうに、そんな決意の表情がまるで感じられなかったのがかなり物足りなかったところだ。しかもそんなことをするほどに愛していた恋人とは、ビリーが荒れたパーティの件であっさり別れているし、どうも行動の動機に一貫性がない。
だから観ながらいろいろな場面で突っ込むところがかなり多かった。

所々に感じるストーリーの弱さ

この映画は一応サスペンスと銘打ってあるのだからそれなりに大どんでん返しやハラハラ感を期待して観ていたのだけど、いかんせんストーリーが弱すぎる上に詰めも甘くて、なかなか入り込めなかった。
まず市長がビリーに不利となる証拠を握りつぶして彼の弱みを握ったのは分かる。そして自分の思うとおりに動こうとしないビリーを、その弱みにつけこんで脅し自分の不正に対して口を閉ざすことを要求したのも分かる。でもあの事件から実に7年もたっている。7年も大事にその証拠を置いておいたのも気が長すぎるし、たまたま使えそうな代物が手に入り、何かに使えそうだと判断し置いておいたとしても、それにしてはこの7年の間ビリーとさほど連絡はとっていなさそうだったし、その上もしビリーが探偵をやっていなかったらどうなってたのかと、などといろいろ考えてしまってそのせいであまりストーリーが頭に入ってこなかった。
あと市長が不正を働いたとされるボルトン・ヴィレッジの建設計画もわかりにくい。通常の2倍近くの価格になっていること、そのお金は市長の元に入ることなどあったが、わかりやすすぎて逆にそんなことするかなと思ってしまった。あとその建設計画自体もよく意味がわからなかった。貧困層がダメージをくらうことはなんとなく想像がついたけど、もう少しその描写が欲しかったところだ。
ビリーの抱える過去の罪の描写も弱い。要は、正当防衛で殺したはずの黒人少年は実は丸腰で、ビリーは私怨で彼を射殺したということなんだろうと思う。しかもそれもわかりにくくて確信が持てず、観た後考えて、そういうことなんだろうなと想像で思う程度だった。
もっと言えば、ビリーが射殺した黒人少年は結局恋人の妹をレイプしたのか、無罪なのか、それもはっきりしない。
だからどうしてもストーリーに奥行きや深さが感じられなかったのは事実だ。

お粗末すぎる探偵の仕事ぶり

探偵の仕事なのだから、相手に見られてはいけないのは鉄則だ。なのにビリーはそれほど背後なり周りに注意を払っていないように思う。市長の妻とポールが逢引していると思い込んだ別荘のようなところでは、背後からはかなり丸見えのところから写真を撮っているし、きわめつけは、建設計画の不正を暴こうとある家に近寄った時だ。あやしい黒づくめの男たちがどんどんゴミを捨てているのを見て、あの中になにか証拠があるに違いないと思ったビリーは、なんとそのゴミ置き場でゴミをあさり始める。普通はいくつか見繕ってとりあえず車のトランクに放り込んで、調べるのは安全なところに移ってからでしょうと、こちらがつっこんでしまうくらいだった。案の定、撃たれて追われ追突されてしまうのだけど、あれはちょっとあきれてしまった展開だった。
また探偵の助手の女性をあんな物騒なところに車の中とはいえ一人で置いておく不用心さ。しかもその車はそれまでにもサイドミラーがとれたりとボロさが際立っていた車だ。念のためシートを倒しておけとか言ってたけど、まったく意味がないと思う。
市長の妻が、ビリーのことをあなたは2流だと激しく詰め寄る場面があった。ビリーの調査結果のせいでポールが死んだことを妻は怒っていたわけだが、あの時はビリーは市長にはめられただけで悪くないんじゃないかと理不尽さを感じたけど、2流は2流なのかもしれない。

ハリウッドらしい豪華俳優陣

サスペンスとしては大した仕上がりではないが、出演している俳優は豪華だ。主役のマーク・ウォールバーグはもちろん、市長はラッセル・クロウが演じている、その妻役はキャサリン・ゼタ・ジョーンズだ。また対立市長候補役はバリー・ペッパー。「プライベート・ライアン」や「グリーンマイル」でその強烈な個性が印象的だった。そんな俳優陣の演技だからこそ、まだこの映画が観れるものに仕上がっているのかもしれない。
特に、キャサリン・ゼタ・ジョーンズのしっとりとした美しさはさすがだった。ビリーのせいでポールを殺されたと詰め寄るときの涙を浮かべた顔は、美しいながらも鬼気迫るものがあっていい演技だったと思う。
ただラッセル・クロウは、どうしてもマッチョなイメージが強く、悪徳政治家のような役があまり似合わなかった。どうしてもそんなに悪く見えない。ここはやはりケヴィン・スペイシーでいって欲しかったなと思ったところではあった。

なんとなくハッピーエンド

結局自分の罪を清算する覚悟で市長の不正を暴いたビリーは、結果逮捕されてしまう。でも前記したように、ビリーは私怨で少年を射殺したというストーリーがわかりにくくて確信が持てず私の想像でしかなかったため、その覚悟の強さも実感することができなかった。
とはいえ、市長は逮捕することができ、ビリーも最後に一杯やって連行されるという、なんとなくなハッピーエンドでは終わる。助手との新しい恋の予感も感じさせる。だけどどうしても全体的に消化不良感が残る作品だった。

あなたも感想を書いてみませんか?
レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。
会員登録して感想を書く(無料)

関連するタグ

ブロークンシティが好きな人におすすめの映画

ページの先頭へ