医療や貧困というテーマに真摯に正対し、自らの内に不条理を抱え込みながら生きてゆくしかない人間の諦観を描いた 「赤ひげ診療譚」 - 赤ひげ診療譚の感想

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赤ひげ診療譚

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医療や貧困というテーマに真摯に正対し、自らの内に不条理を抱え込みながら生きてゆくしかない人間の諦観を描いた 「赤ひげ診療譚」

4.54.5
文章力
4.5
ストーリー
5.0
キャラクター
5.0
設定
4.5
演出
4.5

山本周五郎の代表作の一篇「赤ひげ診療譚」は、かつて黒澤明監督、三船敏郎主演、加山雄三共演で映画化もされましたが、原作の小説も映画化作品も、保本登という青年医師の目を通して物語が綴られていきます。

小説は、連作小説の形を取りながら、全体を通じて、青年医師・保本登の心の成長を描いています。

この保本登は、長崎で最新の蘭方医学を学び、江戸へ帰ってきたばかりの若い医師で、帰ってみると。許婚が裏切って別の男と結婚しており、深く心が傷付くのだった。

そのうえ幕府の御目見医となって出世コースを歩める約束も違えられて、貧者のための小石川養生所での見習い勤務を無理強いされ、これはすべて、あの女の父親による陰謀だと思い込んでしまう。そして、小石川養生所医長の"赤ひげ"こと新出去定に反抗しながら、屈託した日々を送ることになるのだった。

しかし、さまざまな出来事を体験するうちに、赤ひげの人間性に魅かれるようになり、また最下層の暮らしを送る人々との交流を通して、登の心は成長していくのだった-------。

この小説は、ひとりの青年の心の成長を描いた教養小説であると同時に、最底辺の生活者たちの哀歓を描いた人情ものの小説でもあるのです。

もっとも、この小説に登場してくる病人には精神を病む者や、業が深いとでもいうしかない者も多く、すっきりと解決することはあまりない。

人情ものと呼ぶには、医療や貧困というテーマに真摯に正対した作品で、人間の生の不条理の原因を社会問題に半ば還元しながら、しかし、それで解決されるとも思えない根源的な不条理、つまりは運命にも触れ、結局は、医師も患者もともに自らの内に不条理を抱え込みながら生きてゆくしかないという諦観に、ひっそりと彩られている。したがって、患者を助けて満足するというよりは、どうしようもなさに歯噛みする場面のほうが多い。

それでも読後感が爽やかなのは、不条理に苛立ちながらも志を貫こうとする"赤ひげ"のシンプルなヒーロー像のため、そして、登が師に倣って生きることを決意して、混沌の中にも理想が継承されてゆくという明るい結末のためであると思います。

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