珍しい筝曲をモチーフにした隠れた名作 - この音とまれ!の感想

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漫画レビュー数 3,135件

この音とまれ!

4.674.67
画力
4.33
ストーリー
4.33
キャラクター
4.17
設定
4.50
演出
4.83
感想数
3
読んだ人
5

珍しい筝曲をモチーフにした隠れた名作

4.04.0
画力
3.0
ストーリー
3.0
キャラクター
3.0
設定
3.5
演出
4.5

目次

箏経験者の作者による卓越した表現力がキモ

『この音とまれ!』は、高校生の部活動を描いた漫画ですが、文化部のなかでも特に珍しい、筝曲部をモチーフにした漫画です。筝曲という特殊な世界の楽しさと難しさ、奥深さが丁寧に描かれています。

というのも、作者のアミューさんが筝曲を子供の頃から習い、かつ学生たちに自ら指導までしているということが、大きな背景となっているのでしょう。この漫画のもっとも卓越したところは、そのアミュー氏によって紡がれる表現力にあります。

例えば作中で、練習で安定した音を出すために、音のツブを揃えるという描写があります。熟練者による音のツブは、トテトテトテという書き文字によって、端的、かつ揃っていることを見事に表現されています。反対に、まだ未熟な筝曲部生徒たちは、描き文字(音自体)が弱々しく表現されています。このようなわかりやすい描写のおかげで、読者から見ても、まだ彼ら時瀬高校筝曲部の熟練度の低さを読み取ることが出来るのです。

漫画で「音を表現する」というのは、口にするほど簡単なことではありません。それを、わかりやすく、正確に描写してくれるアミュー氏は、“読者にとっても箏の先生”と言っても良いのではないでしょうか。

このように、『この音とまれ!』は練習風景、筝曲の難しさ、熟練者との格の違い。それら漫画の描写一つ一つに、非常に説得力がある作品となっているのです。

心震わせる“文化部”青春協奏曲

『この音とまれ!』の魅力といえば、スポーツマンガ顔負けのアツい展開と、それを盛り上げる演出でしょう。

時瀬高校筝曲部も、スポーツマンガ(とあえて言わせてもらいます)の御多分に漏れず、全国優勝を目指していきます。

一見マイナーな文化部とて、全国優勝の壁が厚いのは同じこと。当初は軽い気持ちで大会に挑んでいた筝曲部の面々も、時が経つにつれて様々な壁にぶつかります。初心者ならではの挫折、仲間たちと「音を合わせる」難しさと達成感、地区大会・県大会の大きな壁、手ごわいライバルたち。

『この音とまれ!』はこの大会のエピソードが非常にアツく、手に汗握るものとなっています。一連の流れは、まさしくスポーツ漫画さながら、いやむしろスポーツ漫画顔向けのストーリー展開となっています。

例えば、主人公サイドである時瀬高校。部員のまとまりも演奏力も未成熟ながら、ヒロインであり箏の有段者であるさとわと、箏にかける情熱は人一倍の愛に引っ張られる形で、並外れた成長力を見せ、県内でも優勝候補の一角になります。

さらに「音が揃う」演奏で優勝常連の王者・姫坂高校、一人が突出した演奏力を持つ珀音高校など、ライバル高校の面々も非常に魅力的です。ライバル校の生徒たちも、それぞれに信念があり、一人一人が筝曲に青春の全てをかけていることが回想シーンでキチンと掘り下げられています。そのため、読者はどの高校にも感情移入が出来てしまいます。

だからこそ、大会で決着がつき、優勝校が時瀬高校に決定したシーンでは、脱力感を覚えてしまうほど、大きなカタルシスを感じることが出来たのでしょう。敗北した他の高校と生徒たちも、「惜しかったな~」「残念だったな~」と賛辞の言葉を送りたくなります。まるで甲子園でも観戦しているかのような興奮と熱狂っぷりです。

一連の大会の流れを見た読者は、同時に、筝曲に魅せられていきます。『この音とまれ!』の影響で、箏を始める学生が多いという話も、正直納得出来てしまうというものです。

一見マイナーな部活動を通して、筝曲の魅力と奥深さを伝えた一連の演出は、見事という他ありません。

難点は少女漫画的な画力と乏しい書き分け 

このように、筝曲という未知の世界+スポーツ漫画としてのアツさを上手に表現している『この音とまれ!』ですが、一つだけ残念なポイントがあります。

それは、ズバリ作画。『この音とまれ!』の連載は男性向け雑誌のジャンプSQですが、作者・アミュー氏の絵柄は女性的で少女マンガ寄りです。

これが何を意味しているのかというと、キャラクターの書き分けがとても微妙なのです。

普段の立ち絵ならまだしも、驚いた顔、怒った顔、笑った顔、などの演出がどのキャラも一緒です。ひどいときは、髪型でのみキャラを区別しているという状態。特に感情的なシーンの見分けがほとんどつきません。

これは、読み応えのあるストーリー、優れた演出力、アツい筝曲の大会で楽しませてくれる『この音とまれ!』においては非常に残念なポイントで、かつこのマンガの唯一の欠点ともいえるでしょう。

演出や描写力は卓越したものがあるだけに、この点が非常に残念です。

しかしながら、それが唯一の欠点と言い切っても良いほど、『この音とまれ!』は隠れた名作です。2018年春時点、まだメディアミックスこそ少ない本作ですが、いずれアニメ・ドラマ化して、知名度が飛躍的に伸び、多くの人に読んでもらえることを大きく期待しています。

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