「ナマポ」まで踏み込んだ、会社員マンガの最終地点。 - 健康で文化的な最低限度の生活の感想

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健康で文化的な最低限度の生活

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画力
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キャラクター
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「ナマポ」まで踏み込んだ、会社員マンガの最終地点。

4.04.0
画力
4.0
ストーリー
5.0
キャラクター
4.5
設定
3.0
演出
3.0

目次

そこまで踏み込んだか!という、驚嘆と共感をもたらす取材力に脱帽。

いわゆる「ナマポ」漫画。

初めて使いますよ、「ナマポ漫画」という言葉。今まで、何かのマンガの一遍に使われることがあっても(ナニワ金融道やらウシジマくんなんかには大量に出ててくるけど・・・)、生活保護をメインに据えてきたというのは革新的であり類を見ない。正直、スゲエ!すげえよ!!

だって・・・取材に大変な労力が必要であることは、火を見るより明らかじゃないですか!

役所の仕組みや受給者の気持ち、ケースワーカーさんたちの職場の雰囲気。

扱う題材が題材なだけに、うっかり間違いを起こせば一発炎上しかねない今作品。

でも、作者のインタビューによれば「当事者の方たちに、リアルが描けているとのお声をいただく」とのことで・・・これはよほど入念な取材をし、校正なども細心の注意を払っての作成だと思うので、まったくもってすさまじいことだ。書類の情報はもとより、直接話をしないと出せないよね、この臨場感。

ありがたいことに生活保護などに縁を持たずに暮らしている私ですら、読んでいてリアルは伝わってくる。イメージでしか知らない「生活保護」、それがまさかの「割と普通にいそうな人」であることにびっくりする。

いたよ会社に。岩佐さんみたいな人。シングルマザーで超がんばってて、そしていつでもちょっとカリカリしてて。たぶん心がもう病んじゃってるんだなあ・・・っていう人。私の会社の同僚がそこまで追い詰められていたかは分からないけど、そんな「直接じゃないけど、すこし遠い知り合いくらいには『いる』な・・・」というイメージ像を提供してくれる。

で、

で、

受給者サイドに感じる「リアル」は、「これは身近にもいるのかもしれない!」という驚きのリアルなのだけど、

ケースワーカーさんたちに関しては、単なる「リアル」を感じる。

単なるリアルってどういうことかと言えば、例えばはえみるたちのデスク。

ケースに入ってなくて、「それ揺らしたら全崩壊するよ!」みたいな書類の山とか。うん、机こうなる!普通の会社でも、書類多めの部署って机こうなるよ!という職場環境。あと、えみるの自転車通勤が個人的にぐっと来ます。

えみるたちの就業体系も意外なほどふつうで・・・イメージが覆された。

なんか、「生活保護に関わる」って、自分の身も削るような・・・9時から5時までの枠に収まらないことをしているんじゃないかなあって思ってたの。

なんなら仕事が終わっても、受給者さんたちの家を回ったり、それこそ行き倒れたホームレスの人に一人一人声をかけたりね、そういうことをしていると思っていたの。勝手に。(そしてそのイメージはまんまと新人のみなみちゃんが持っている・・・うん、同じだ。君と私は同じ目線だ

生活保護という福祉の手の担当者なのだから、まるでマリア様のように人生を捧げているのじゃないかって・・・

でも、ホントのケースワーカーさんはそうじゃない。ちゃんと9時に出勤して5時に終わるめど付けて、休日に出勤となったらやっぱり異常事態で、みんなで景気づけにお昼ごはん買ってきて食べちゃったりして。やったやった。会社でやった。

金曜の夜、仕事が終われば飲みに行くし、慶弔があれば休むし、人事異動もあるし・・・

あれ?案外普通だな?と、思った。

これはナマポでなくても同じなのでは?

そう。

つまり、それって、世の中数多ある「会社モノ」じゃありませんか。

扱っているのが生活保護。

けど、私たちの読み口は、なんなら「働きマン」だったり「&」だったり、の、会社員(公務員だから会社員ではないんだけど・・・)が仕事に悩む漫画、なわけです。それも、課長島耕作のような超スーパーサラリーマンではなく、女性コミックによくある身の丈ちょい上か同じくらいの「会社員マンガ」。

題材がナマポなだけ。

だからこそ私たちは「健康で文化的な最低限度の生活」を読む。

でも、だからこそ私たちは読むのだ。

だって普通の会社員の話は、もう腐るほどある。みんな悩んでる。問題はがんばって解決する。うん知ってる!

でも「健康で文化的な最低限度の生活」は、私たちの知らない「業界」なのだ。綿密な取材と確実な演出力、構成力で、私たちの知らない皮一枚下をめくって見せてくれる。

私たちはそれほどまでに、刺激に飢えている。

世間が重大なニュースとして取り扱い、政治の世界でもクリティカルな問題として話題になる「生活保護」という「商材」を扱う「会社員」、ここまでのインパクトがあってこそ、私たちはようやく「会社員マンガ」のページをめくるのだ。

繰り返すが、これは柏木ハルコの丁寧な取材と堅実な構築力によるものだ。題材がキャッチーなだけでは私たちだって相手にしない。過去に数々の良作を世に出してきた柏木ハルコだから面白いのだ。

健康で文化的な最低限度の生活は、それ自体が面白い漫画であるとともに、日本の漫画発表のハードルの高さの象徴になっているのかもしれない。

で・・・この後も・・・柏木エロは出てこないのかなw

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