歴史的人物の評価すら変えた、漫画の枠を超えた芸術作品 - ベルサイユのばらの感想

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ベルサイユのばら

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画力
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ストーリー
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キャラクター
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設定
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演出
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歴史的人物の評価すら変えた、漫画の枠を超えた芸術作品

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画力
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ストーリー
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キャラクター
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演出
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目次

フランス革命を表現した漫画では他の追随を許さない

人によって好みはあると思うが、源氏物語を表した作品で最も評価が高く有名なのが「あさきゆめみし」であるように、フランス革命と言えば「ベルサイユのばら」と答える人が圧倒的に多いだろう。

この作品は1970年代の漫画であるにもかかわらず、その時代に連載を読んでいた世代のみではなく平成生まれの若者にも色あせることなく愛され続けている。

アニメや実写、宝塚歌劇、絵本などあらゆる媒体でリメイクされ、近年では著者池田氏が補完エピソードを続刊として執筆している。

オスカルという架空の人物が登場する、史実に基づくフィクションであるにもかかわらずここまで愛される理由として、以下の点が挙げられる。

ロココの美しい文化を美麗で繊細な絵で見事に表現されていること。

立場や主張が違う人物にも心があり、一方的な善悪でキャラクターを評価しない、池田氏のキャラクターへの慈しみや歴史上の人物へのリスペクトを感じる点。

人間愛に満ち溢れている点。

この点がどの世代にも通用する普遍性を持っているからだと言えよう。これだけの完成度の高い作品を20代の時に描いたという池田氏の天才としか言いようのない才能にも驚嘆するばかりである。

不思議と不倫が汚く感じない

ベルばらの時代の貴族にとって、不倫などと言うのは当たり前のことであり、むしろ結婚後も愛人を持たぬことは笑いものになったりする風潮すらあったそうだ。

しかし、さすがに王妃に手を出すという事は、余程の覚悟が要ったのではないだろうか。

王妃マリー・アントワネットは、その浪費癖やフェルゼン伯爵との不倫から、あまり歴史的評価がフランス国内でも良くなかったそうだが、この作品が逆輸入されたことでアントワネットの評価が変わったという話もある。

この作品ではオスカルがアントワネットに進言する形で浪費などの悪癖を悪い事は悪いとする一方で、浪費の裏にある彼女の途方もない孤独などに、読者が共感できる手法が取られている。

また、フェルゼンとの身分を超えた不倫についても、双方の苦しみ、政略結婚の辛さなどが理解できるようになっている。そして、不倫をなにより汚く感じない理由として、本来裏切りの被害者であるルイ16世が、政略結婚という形で自分と一緒になってくれたアントワネットが、女としての幸せを自然に求めたことに理解を示し、裏切り者であるはずのフェルゼンにも寛大かつ友好的な態度を取っている点である。妻の愛人と知っているのに、むしろ一番の友とでも思っているようにすら感じる。

また、フェルゼンも、国王を含めたアントワネットの家族全員の身の安全のために命を懸ける。

今の時代ではあり得ない価値観ではあるが、愛する者の気持ちを理解した先にこんな感情があるのかと驚愕し、感心する。そして誰も責めるべきではないと思わされる。

この感情表現が史実通りかは不明だが、噂好きな貴族からは大なり小なり妻の動向は国王の耳に入っていただろう。こういった不倫の描かれ方は、当時少女が読む漫画としては非常に大人びていたと感じる。

ギャグ絵に意外感

連載時より少し後になってファンになった人は、大半がアニメを観て原作を読んだという人たちではなかろうか。

アニメ版はふざけたシーンが全くなく、シリアスに物語が展開していく。故に、原作でオスカルの目から星が飛んでいたり、ばあやと絵描きのバトルや、ルイ16世のカツラが吹っ飛んでいるギャグ絵には、意外にもユーモラスな一面を持った作品として新たな一面を見出すことができる。

この何となくほっとする表現は、のちにベルばらキッズという四コマで本領発揮する。

池田氏の明るいユーモラスな一面を垣間見ることができる。

現代にも通じる働く女性の葛藤

フランス革命当時、女性でも男装をする人はいたらしいが、実際にオスカルのように男性同等の職業についていた人というのは史実にはない。

オスカルのモデルは作中に少しだけ出てくるユラン伍長という実在の男性とのことだが、男装の麗人にした上に史実の人物と絡ませ、まったく不自然な感じがしない物語になっているのは素晴らしい。ベルサイユのばらを、ノンフィクションだと思っている人も多いのではないだろうか。

オスカルが今でいうところの女性管理職として働く中で、セクハラを受けたり、女だからという理由で差別を受けたり、自分の生き方と結婚という幸せとのはざまでの葛藤は、現代の女性にも通じるところがあり非常に共感しやすい。

ただフランス革命を描くのみではなく、時代の中で自分の生き方や思想、社会の常識との間での葛藤が見事に描かれているからこそ、この作品は多くの人の胸を打つのだろう。それはオスカルが女性だったからこそで、彼女が男性であったら、ここまで注目を集める作品にはなりえなかったかもしれない。

また、近年発売された続刊では、歴史上の人物(ブレゲやジョルジュ・ド・ラ・トゥール等)とジャルジェ家の関係、革命を生き残ったアランやロザリー、ル・ルーのその後が描かれる。オスカルが死後も多くの仲間に影響を与え続けていることを実感でき、オスカルは早くに亡くなったが、人としては後悔なき幸せな人生であったのだと学ぶところも多い。

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