ベルサイユに咲く薔薇の正体は 『ベルサイユのばら』考察 - ベルサイユのばらの感想

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ベルサイユのばら

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キャラクター
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ベルサイユに咲く薔薇の正体は 『ベルサイユのばら』考察

4.04.0
画力
3.5
ストーリー
4.0
キャラクター
4.0
設定
4.0
演出
4.5

目次

少女漫画の金字塔たる『ベルサイユのばら』

『ベルサイユのばら』を知らない日本人はいない。それほど、『ベルサイユのばら』は日本人に浸透している少女漫画だ。

目の星、後ろに背負った花、きらびやかなドレス、イケメンの男性キャラ。時に揶揄される古典的少女漫画表現を、「ベルばらみたい」と例える人は多いだろう。日本人の知る古典的少女漫画の代表作といえば、『ベルサイユのばら』なのである。

フランス革命を舞台に、様々な歴史的事件、文化や時代背景など、様々な資料を元に描きだされた『ベルサイユのばら』は、時に中高生の歴史理解への足掛かりとしても使用されている。『ベルばら』を読んでフランス革命に詳しくなったという読者は決して少なくはないはずだ。

それほど影響力を持った漫画『ベルサイユのばら』を、作者・池田理代子は24歳のときに描いたというのが更に驚きである。

オスカルかアントワネットか『ベルサイユのばら』の主人公は

『ベルサイユのばら』の主人公はオスカルかアントワネットか、ファンの意見が分かれるところだろう。

数々のインタビューを見る限り、池田理代子が奔放でわがままな女王・アントワネットを愛していることは明白である。アントワネットの手紙を細かに分析し、パーソナルまで分析していることからも明らかだ。

だが、実際『ベルサイユのばら』を知る国民のほとんどは、「”ベルばら”といえばオスカル」と思っている人も多いことだろう。オスカルとアンドレの名前は『ベルサイユのばら』連載後に生まれた世代でも知っているほど有名だ。それに対し、『ベルサイユのばら』は本当はアントワネットが主人公だよ、と言われてピンとくる人は少ない。

その次が重要なポイントである。マリー・アントワネットの名前を聞いて、「あぁ、”パンがなければお菓子を食べればいいじゃない”の人だ」と連想する人が、おそらくほとんどであろう。

つまり、日本人の感覚からすれば、アントワネットは「主人公としてはとても考えられない感情移入の出来ないわがままな女」と位置づけられ、結果としてオスカルを主人公として求めているのではないだろうか、という点である。

日本漫画は主人公側に正統性と潔癖性、処女性を求める。ヒロインは妊娠してはいけない、などとウソか本当かわからないような漫画の暗黙のルールは、真偽はどうであれキャラクターたちの精神性にも影響し、傲慢で奔放なアントワネットはとうてい主役としては受け付けられないと拒否しているのではないだろうか。

そこでもう一人の主人公候補、オスカルの登場である。オスカルは、女系家族のなかで男子が生まれないことを嘆いたジャルジェ伯爵が男として育てた不遇のキャラクターであり、まずここが読者の同情を誘う。そして女性としての美貌と男性としての凛々しさを持ったデザイン、アンドレとの悲恋がますます読者(主に女性)の目を引き、たちまち人気となった。

ここが池田理代子の巧みなところだ。作者としては自分の好きなアントワネットを描きたい。だが、アントワネットは主人公にはなりえないキャラで、読者の人気を得られない。

そこで創作キャラであるオスカルを登場させ、王宮にも出入りさせる身分に設定しつつ、自然な流れでアントワネット中心のエピソードを挿入させていく。主人公・オスカルから次第にアントワネットに心情を語らせていく流れのなかで、読者がアントワネットへも感情移入させるという計算だ。

既婚者でありながら、愛人のフェルゼンとの恋物語を純粋に、あくまで一人の女性としての恋愛模様にしているのも、池田理代子の上手いところといえるだろう。多くの女性が、浮気や不貞に対して厳しい意見を持つ。だがアントワネットを、親の決めた相手と結婚させられ、自由な恋愛を禁じられた悲劇の女性と巧みに見せつけて誘導することで、作者の好きなアントワネットに対して、読者からの好感度を上げようとしたところも実に面白い。

結果として、『ベルサイユのばら』はオスカルの死後も連載が続き、アントワネットの処刑、そしてフェルゼンの無残な死が語られたところで終わる。こうした結末をもってしても、作者・池田理代子の意図した主人公はやはりアントワネットで、オスカルは脇役であることは間違いないといえる。

だが、やっぱりみんなはオスカルが好き

このようなダブルヒロイン体制で話が展開する『ベルサイユのばら』であるが、主人公が誰であれ、『ベルばら』読者が好きなのはやはりオスカルだ。

男装の麗人というキャラクターでありながら、幼馴染のアンドレとの恋に悩む姿は女性らしく可憐で、応援したくなった読者は多いことだろう。アンドレとの結婚は結局出来ないまま死んでしまったという悲劇的な結末も涙を誘う。軍人として生きるか、庶民の味方につくかで葛藤し、結果として民衆の味方となって戦う姿は、男性読者諸兄にも受け入れられたことだろう。

女性作者による少女漫画の隆盛期に連載された、薄幸のヒーローでありヒロイン・オスカル。それは少女漫画の今後を左右する担い手となったことは、もはや疑うべくもない。

油断ではあるが、近年発売した某結婚情報誌で、オスカルとアンドレの結婚式の漫画が描き下ろされたことに感動した『ベルサイユのばら』読者は多いことだろう。

ファンに長年愛され続けたオスカルは、ファンの支持という消費者ニーズによって、ついに自らの幸せを得たのである。これこそが、『ベルサイユのばら』というコンテンツの最高のハッピーエンドだ。

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