三十路女の恋物語を甘く描く
あなたのために初めてをとっておいた
花笑は恋人も初恋も全部置いてきちゃった33歳。働きどおしのキャリアウーマンってわけじゃなくて、会社で事務やりながら実家暮らしをしている女性である。別に腐女子であるとか、変なこだわりがあるとかじゃなくて、ただ臆病で何となく恋を逃してズルズル来てしまった、というパターン。身だしなみを整えれば十分女の子っぽいのに、髪を一つ結びにしてメガネしているから地味女…メガネをとればかわいい女…?ってことになりそうだが、メガネをしていてもいなくても、田之倉くんには魅力的だった。と、信じたい。周囲の人も、そのギャップに驚いているリアクションというより、心境の変化を察する…というリアクションだったしね。そのあたり、現実に近く感じられるから、読者もついつい感情移入して読んだのでないだろうか。
花笑のいいところって、すごくきっちりしている性格なのに、恩着せがましくなくて、ドライなメガネの下ですごく情に熱いことを考えていたり、正直者で素直なところもあって…非常に女らしいんだよね。酔っぱらっていても服を綺麗にたたんだりできるってことは、それくらい自分の中に染みついた行動だってこと。田之倉くん、君のツボポイントは非常に理解できる。
なんといっても感動的なのが、今まで処女で彼氏なしだった33年を経て、いま田之倉くんという存在に出会えた。それが、あなたのために私の初めては全部とっておかれたものなのかも…なんてロマンを語れちゃう。ピュアだなーって思うし、そのくらい汚れなくこれまで生きてこれた彼女が非常に希少で、男としてはほっておきたくないよなーと思う。
朝するのスキ
田之倉くん…非常に手が早く、やることやってて素敵だね。そりゃーイケイケの22歳。イケメンならなおさら、彼女のひとりやふたり、想われ人のひとりやふたり、いてもおかしくないよね。
花笑の正直なところがみえた彼は、そのまま花笑をお持ち帰り。そこから一気に花笑の彼氏となり、勢いじゃなくてちゃんとあなたを大切にしているから…って気持ちを見せていく。田之倉くんの付き合ってきた人は、どっちかっていうと彼のビジュアルに惹かれた人、同い年や年下など、まだまだ社会を知らない人だったはず。花笑という人間が彼にとっては新鮮で、守ってあげたくもなるし、守られたいとも感じたのではないだろうか。
自分の生活をちゃんと優先してくれて、たくさん考えてくれる花笑。反応がいちいちかわいくて、甘い夜にはついついいじめてしまうのではないかと思っているが、あまり濃ゆいシーンはなかったかな。マイルドで、優しい物語である。オトナ女子漫画だと、どうしても体の関係がリアル描写されたり、複数の人との間で揺れ動いてカラダを許してしまうことも多いように思う。オトナだからこそ、そういう関係に入るまでは早いし、めんどくさくないことは助かるね。
愛し合っていればこそ、朝もシたいなーと思うのは当然の事。そして、「今日は会社休みます。」という連絡につながるのだ。今まで持て余してきた有休を、やっと使えるわけだね。
何でも顔に出る素直な女
花笑がメガネをはずしたことで、より表情から感情が読み取りやすくなったわけだが、女に限らずどんな人でも、気を許した相手の前ではたいていそういうもんじゃなかろうか。大事な人の前では素をさらけ出し、表情豊かに過ごすものなのだよ。
花笑の場合、大学生時代に一歩勇気を出せなかったことをずっと10年以上も後悔してきて、もう二度と同じ過ちを繰り返すまいと、いつもの自分だったら絶対に選びそうにない選択肢を選んで田之倉くんを手に入れたわけだ。隠すよりも、見せること。逃げるよりも立ち向かうこと。怖がるよりも、前に進むこと。恋愛だろうがなんだろうが、正直に一生懸命生きるということは大事なことだね。
女が集団になったとき、表情豊かにクルクルかわいらしくなる女が束になってかかってくる気がして、個人的には非常に苦手だ。「えー!すごーい!かわいいー!」をたくさん聞きすぎると頭痛が…。静かに、部屋の隅でじっとお酒を楽しみ、気の許せる相手とお話しすることを楽しみたい。できれば、どうでもいい会話よりも、建設的な話をしたいよね。それを知ってか知らずか、わざと私は一人でも過ごせるイイ女ですよって感じでアピられるのも拒絶反応が出るし、素で接することができるか、その人となりがどんなものかを判断するのに、少人数での対面ってすごく大事だと思うんだわ。付き合いだすまでもそうだし、付き合いだしてからだって、もしかしたら結婚してからだって、長く一緒にいると知っているようで知らないことばかりだと気づいていく。自分の事を知ってもらいたいと願うのであれば、ちゃんと素を出さなくちゃね。そして気取らず全部を見てもらえるようにするというか。
瞳と朝尾さん
瞳は恋愛において朝尾さんのような経済力がありイケメンで人間的に出来上がった人物を自分の横に置くことで、自分自身の価値を高めようとがんばっていた。そういう根性を直すところから人生の改革は始まると思うんだけどな…相手に期待して、自分だけのことを考えて、相手を尊重することを忘れれば、絶対その関係性はうまくいかないと思うんだ。でも、そんな彼女のツンデレも理解してくれる、包容力のある年上男はいるよ。
朝尾さんに関しては、花笑が恋愛初心者であることを早々に見抜き、絵に描いたように予想通りな彼女に、どんどん惹かれていった。彼は、本当にたくさんの女と付き合ってきて、経験値を積んできたからこそ、いい女ってやつを見極める能力が上がっちゃったんだろうね。でも、見極めることができたとしても、自分を好きになってもらわなきゃ意味がないわけで…彼は彼で、一生懸命アピールしていたし、女の喜ぶものは全部持っていると言っても過言ではなかったと思う。女って…理想で求めるものと、現実に求めるもののギャップがデカすぎて、びっくりする。異様に初めてを大事にするうえ、大事にされていると感じられればいくらでも揺れ動く。守ってもらいたくて、自分を壊せるほど勇気がなくて…望みがないなら引かなきゃないけど、それでもどうにか食らいついてみたいし、強引にいきたい。でも嫌われたくもない…朝尾さん、不憫だった。間違いなく、いい男だったよ。
会社休みますと言ってみたい
会社を休んでまでも、離れたくないと思う人…皆勤賞だった出勤記録をチャラにしても、そばにいたいと思える田之倉に出会えた花笑。出会った相手は一回りも下だったけれど、恋愛経験値もあるし、包容力もあるし、こんな人が初めてで本当に恵まれていると思う。それこそ、今まで誰にも出会えなかったのは、この人を待っていたのかもしれない…って思えるよね。こんな幸せなことってないと思う。うらやましい限り。「きょうは会社休みます。」は、世の中の独身アラサーの方々を応援してくれる、微笑ましい漫画だ。
案外、処女喪失の時って、結構大変だと思うんだよ。恥ずかしいやら、イタイやらで。そこを酔っぱらっている間に喪失できたことも、幸せ者だなーと思う。知らん間に通り抜けたことで、次への怖さが少なくなってよかったと思うんだよね、花笑にとっては。
相手に経済力がないとか、自分の持っている世界とは違いすぎるコミュニティがあるとか、いろいろあるだろうけれど、素敵だと思える人を、常に側にいたい・いてほしいと思える相手に変えていくことが大事。そして自分も怖がらずに染まっていくことが大事。それができなきゃ、一生一人で生きていくしかないわ。
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