最後は自然と泣けてしまう
初めては威力が最強
木下仁菜子は16歳。高校1年生。まだ恋も知らない女の子だった彼女が、女子みんながキャーキャー騒ぐ同級生のイケメン・一ノ瀬蓮を遠くから眺めて、どんな人だろうと想像するだけ。周りからは、同じ中学だった大樹と付き合うのも時間の問題だろうと言われ、大樹に対する気持ちが付き合いたいという好きの気持ちなのか悶々と考えていた。ストラップを蓮が踏んでしまうというアクシデントをきっかけに、仁菜子は蓮について知っていき、理由もないのに泣きたくなるような、初めての恋に落ちる。でも蓮には彼女がいた…
初恋で、生まれてしまったこの気持ちはどこへやればいいの?初めての恋で、ただ好きなのに、付き合うことは叶わない。それでも、心に生まれた気持ちは伝えたい。走る仁菜子がまたかわいいのなんのって。蓮くんが大好き。好きな気持ちは消えないまま、友だちとしての関係がスタートすることとなる。蓮は数々の女の子を振ってきたため、そのキャラクターは謎に包まれていたけれど、いかに蓮が優しい人なのか、笑顔が素敵な人なのか、仁菜子はどんどん知ることになって、だんだん苦しくなってくる…。確かに、彼女持ちでも好きな気持ちは持っているってパターンは絶対ある。リアルな世界でも。だけど、意外とそこにスポットライトは当たらないんだよね。だって好きな人には彼女がいて、確かにその人を大事にしていることがわかるから、入る隙なんてない。もし何かが起きて付き合えたとして、同意でないならそれは略奪なわけで、少女漫画的にはブラックな方向へ走りかねない。二番目だった女の子でも、いかに一生懸命好きでいるのか、がんばっているのか、それを描いてくれている作品だ。
心変わりの物語
仁菜子が蓮と付き合うことができたのは、仁菜子という人間に蓮が惹かれていったから。これは間違いなくて、関わるたび、どんどん好きになっていってしまったことは事実。蓮の心変わりの物語なのである。
おそらくは、中学校のときの蓮には友達がいなくて、でもイケメンだったから女の子には告られて。女の子たちに好かれるから男子からはやっかまれる。だけど、蓮はそれをうまく表現することができないし、ただ黙っているだけしかできない、不器用さんだった。そんな彼を救ってくれた最初の人が麻由香だったんだろうって思う。麻由香との時間が大切で、麻由香にとっても蓮は離婚した両親のことで苦しむ自分を救ってくれる唯一の人で。一緒にいることを選ぶのは、この時ごく自然なことだったんだろうって思う。
それから、蓮には安堂ができて、親友と呼べる人ができて、本当にうれしかったはず。それが真央の登場で揺らぐとは思っていなくて、蓮にはまた麻由香だけになった。大切なものを守りたいのに、どんな言葉をかけたらいいかわからない。いつも救ってくれるのは安堂の言葉。蓮はずっと安堂に感謝しているし、安堂だけは変わらずその手に残すことができた。それが仁菜子のおかげというか。仁菜子がくれる気持ち、同じ時に同じものを感じることができる人がいるという喜び、素直に助けたいと思えるし、いつもそこには自分が無理しなくても自然に接することができる自分がいた。もうこれだけで蓮にとってはすごいこと。今まで周りには麻由香と、安堂だけだった。だから、そんなすごいシンクロする人が現れるなんて、思ってもみなかった…
中学生のときの麻由香への気持ちは確かに初恋だっただろう。でも自分の中に生まれた気持ちが変わることもあるって知って、それを守ることが正しいこととは言えないときもあると知る…このあたり、妙にシビアで切ないところ。変わらないものだってある。変わっていくものだってある。麻由香と蓮は確かにカレカノだったし、お互いを信用していたことも変わりない。それでも離れるときがあるって、けっこう辛いことだよね。それをあえて描いているのは、すごいことなんだと思うんだよ。恋は幸せな気持ちだけでできているものじゃないね。
安堂と蓮
安堂と蓮の関係性もまた珍しいよね。安堂にとっての蓮はお気に入りの友達だった。蓮にとっての安堂は自分にとっての救世主。大切な、大切な友達。それを真央がぶっ壊してしまったわけだけど、それでも安堂は蓮に優しい言葉をかけた。いつもいつも安堂が蓮を助けてくれた。それを表立って言葉に表現することはなかったし、本当のところでムカついてたってことも言えなくて…仁菜子を通して、安堂と蓮の関係も修復されたことが嬉しかった。
特に、安堂がボコられた後ね。安堂に初めて本音を言った蓮。本音でぶつかってきてくれたことだけで、もう嬉しくなっちゃった安堂。…一歩間違えば恋レベル。憎たらしいけど、嫌いにはなれないってのが乙女の心をくすぐりまくることだろう。
男の子ってたまにわかんない
そう、そうなの。いつもは理屈のくせに、肝心なところでロマンチストだったりするのよ。まさに安堂と蓮がそういう関係性だったなーって思う。もちろん、がっちゃんや裕くんだって蓮や安堂にとっての大事なお友達だけれどね。だから蓮も、がっちゃんと裕くんには本音でトークしていたし。高校に入って、彼の世界は確実に広がっていたんだと思う。ただ、安堂にとってはやっぱり蓮が至高なんだよね。いつも心配しているのは仁菜子のことであり、蓮の事。自分の恋が実らなくても、最後は悪者になって背中を押す…。安堂、君の幸せを誰よりも願うよ。真央が必ず幸せにしてくれる…!安堂と真央の番外編だけはどうしても見たい。見たくないって言う読者もいるけれど、やっぱり幸せになった安堂が…見たい。
さゆりと裕くん必要?
さゆりは、仁菜子に告ってフラれちゃった大樹の慰め役的ポジションで終了すると思っていたんだが、全然違った。大樹の姉が蓮の彼女だったのもあったし、最後まで引っ張ったなーって思う。仁菜子のお友達の恋を全部描くわけじゃなくて、あくまで蓮と安堂、がっちゃん、裕くんという仲良しの男たちの恋を収録していた。なんでそんなにさゆりを引っ張るの?とは思ったけどね。他のお友達のほうがいいアドバイスしたり、支えてくれたりしていたなって思うから、さゆりだけがピックアップされちゃったのはなんかなー…とか。どうしても大樹のことを描かなくちゃならないから、さゆりが前面に出てくるんだろうけどね。裕くんの想い人だったことも、え?って思ってしまった。だって、さゆりと仁菜子自体には、あまり強い接点が感じられなかったし、あってもなくても仁菜子と蓮、安堂の恋は間違いなく進んでいっただろうから。裕くんの酸っぱい恋を完結させてあげたかったんだろうなー…そこでさゆりに白羽の矢が立った。大樹と絡めて、裕くんのように願いが叶わない恋の別バージョンを表現したかったのだろう。そう思うことにしている。
これからは
そりゃーあんな感じでデートして、蓮はどんどん笑顔をつくる男になっていくことだろうよ。お互いにベタ惚れだしね。最後の仁菜子の告白は、自然と涙が出てしまったなー…今までいろいろな人の気持ちを仁菜子なりに考えて押しとどめてきた恋の気持ち。それを解放するのがこんなにもかわいい。前に仁菜子が蓮に言った、無理して黙っているのも良くないって言葉、そっくりそのまま仁菜子のことでもあるね。蓮が告白してくれて、安堂が背中を押してくれて、どういう結果になったとしても支えてくれるであろう友達がいる。仁菜子の恋は、たくさんの人に支えられて、自分自身でどうなりたいかを選択した、爽やかなものだった。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)