今度は自分が愛されたいと願う悲しい男の物語 - 黒薔薇アリスの感想

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黒薔薇アリス

4.174.17
画力
4.17
ストーリー
4.33
キャラクター
4.17
設定
4.00
演出
4.17
感想数
3
読んだ人
3

今度は自分が愛されたいと願う悲しい男の物語

4.54.5
画力
4.0
ストーリー
5.0
キャラクター
4.5
設定
4.0
演出
4.5

目次

不幸を呼び寄せる男ディミトリ

テノール歌手としてブイブイ言わせていた色気ダダ漏れの男・ディミトリ。1908年のヨーロッパで、自分の歌声をどうにか認めさせるために枕営業もやり、愛する女性を思い浮かべながらがんばる彼。切なげなのがまた色気あるよね…。そんな彼にも親友・テオがいた。テオは、ディミトリがテノール歌手として活躍できるように舞台をセッティングしてくれたり、貴族という身分に囚われずに平民のディミトリに接してくれた唯一の人だった。ディミトリが性的虐待を受けて苦しんでいるときにも乗り込んで救ってやった彼は、まさに救世主。ディミトリにとってのテオは光であり、そして愛する女性・アニエスタの婚約者でもあり、テオのためには引かねばならないと思える、そんな相手だった…。

この時点でもはやドロドロの予感。まさかここから転落しまくって闇になるとは思わないよね。ディミトリは場所にはねられて即死・ヴァンパイアの器として選ばれてしまった彼は、心に渦巻くものすべてが爆発してしまう。アニエスタを自由にできるのに、テオは若いうちにいろいろな女と遊んでおきたいという思いも持っていて、ディミトリには嫌悪感もあった。自分ならアニエスタだけを幸せにするのに…って。そんな気持ちがテオを殺すことになったし、ついでに愛すべきアニエスタの自害も招いてしまったんだ。もう後悔しかないよね。彼はヴァンパイアとして生きていく道を選び、自分の死に場所を探し出す。ヴァンパイアはたいていの事ができ、なかなか死ねない。代わりに、繁殖さえすればあっさり死ぬ。彼は、アニエスタ以上に愛せる人間と出会えるの?むしろ出会うことを自分で許せるのか?切なさ、複雑な心、注目すべきところはたくさんあって、いい始まりだったね。

舞台は日本へとダイブ

ヨーロッパで探すんじゃなくて、わざわざ日本へ行ったディミトリ。そのあたり、背景が全然わからないんだけど、ディミトリ、マクシミリアン、4人のヴァンパイアたちの共同生活が日本で始まっていた。いきなり男が増えているから何事?!と思いつつ、やはり逆ハーレムな状況って萌えるよね。

死したアニエスタだったが、マクシミリアンのおかげで体だけは生きた人形状態で保たれていた。ずっとその体を持ち続け、ディミトリはその体に入れる魂を探していたんだろうね。そこで事故に遭った梓が選ばれた。先生と生徒の恋真っ只中だった梓と光哉。事故で瀕死だった光哉を助ける代わりに、魂を売る覚悟をした梓は、アニエスタの中に入って“アリス”として生き始める。記憶は梓が受け継がれているが、見た目はアニエスタそのもの。そんな彼女を愛でて愛しまくるかと思いきや、そうはしないディミトリ。4人のヴァンパイアから、繁殖相手を選んでほしいと告げる彼は、やっぱり自分がアニエスタを殺しておいて、自分からアリスを愛することが代わりになるっては思いたくなかったんだろうね。だってそこにアニエスタの魂はないわけだし、アリスは梓の記憶が入っているわけだし。梓には光哉という想い人がいて、絶対にディミトリは不利だった。心の底から愛されることは無理だった。それでも梓を選んだのは、自分と同じように大切な人を失った梓を救いたい気持ち、そして自分が絶対に選ばれないような中でもしかしたら…という気持ち、いろいろな想いがあったんだろうなって想像ができた。

なぜ梓だったのか。なぜ日本だったのか。そこはわからないけれど、うまいことヒットしたのが梓とは、運命的つながりが絶対あるはずだ。

結局は愛した人と結ばれたい

はじめはそれこそ梓がヴァンパイアたちの中から繁殖相手を選ばなくちゃならないってことで、それぞれのいいところ、過去、いろんなものを知る時間だった。その中で、もちろんディミトリに何かしら惹かれるものがあったことも確か。このまま進めば素敵な終わりもあるかも…って思ったよ。

それなのにやっぱり出てくる光哉。瀕死だったあの事故から2年がたち、愛する人を失ってずっと苦しんでいた光哉。そりゃそうだ、大好きな人と一緒に車に乗っていて、自分だけ助かって、大好きだった人を失って…。もう少しで結ばれるはずだった。歳の差を乗り越えて、大人になって、一緒になるはずだった。その切なさがもうね…心を打ちまくる。

そこで梓もまぁー契約のことを置いといて、光哉にちょっとずつ心許しちゃうんだもの、やっぱり感情が先走るよねレンアイは。光哉は、アリスと出会って、梓じゃないけど、梓を感じて、キスをする。魂が梓で記憶も梓だから、そりゃー誘われちゃってもおかしくない。惹かれるのは自然の事だっただろう。目には見えないものでつながってるって信じたくなる、いい演出だ…。そのうちに、他のヴァンパイアたちもそれぞれの恋があって、失ったものがあって、ヴァンパイアになった経緯があると明らかにされていく。もはやみんなが幸せになってほしいのに、それは許されない気がしてきて、本当に胸がしめつけられまくる。これが「黒薔薇アリス」の魅力というか、醍醐味だ。

しかもアリスは、光哉に体まで許してしまった。そりゃそうだ、愛した人だったんだし。かわいそうすぎて光哉をほっとけないわ。

ディミトリがしたいこと

アリスは契約を破って別の男を選んだ…。それ相応の罰があるのかなーと思ったけどそういうのはなし。相当女に有利だよね。これは、ディミトリの過去を考えたら、そうだねって思えると思う。自分がごちゃごちゃしてたせいで、大切な人を失った悲しみ。だから、相手にそんなに期待しないようにして、自分にも期待しないようにしていたんだろう。自分から離れていってしまうなら、それもまた自分への罰なんだと考えていたのではないだろうか。だからこそ、女側に常に選択権がある方法を取っていると思う。

ここで引き下がらなかった梓。光哉の愛した梓はいない。アリスとして、繁殖の相手を真剣に選ぼうと戻ってくる。そんな彼女はすごいというか、ある意味すごいと言ったほうがいいのか…って感じだ。強い意志があり、たくましさがあるから、ヴァンパイア美男子たちはみんな彼女に惹かれているよね。ヴァンパイアたちには闇があり、弱さがある。だからこそ、梓みたいな女性を好きになるんだろう。戻ってきたアリスに対して、ディミトリはすごく複雑で、衝撃的で、食い下がる女を初めて見たって感じで…。初めて人間らしい惑いを見せる。ここが「くぅ~…!」と感動しちゃう場面だ。彼もやっと変わっていける。その兆しを見せてくれた。

続きはいったい何年後

何か出た!と思ったら新装版。続きは一気に描き始めると宣言してもはや6年は経過…新装版が出てすぐに続編の期待が高まったところ、今度は舞台をやるっていうじゃないか。どんどんハードル上げている気がするのだが、どうだろう?

第二部に関してはネットがいろいろざわついていたけれど、アリスがディミトリを選んでも、光哉を選んでも、それなりに納得してしまうくらい、みんないい奴だと思う。ディミトリは最後の最後で自分が欲しいと思うものに欲が出せるかどうかが見もの。それ次第で決まるなーと思うね。アリスと光哉は、離れる選択肢も持ち合わせていると思うよ。だって同じ梓はいないのだから。

悲しいことばっかりのヴァンパイアたちも幸せになってもらいたいし、時間がかかっても、どこかで愛に祝福されて、繁殖を迎えてほしいなと思うね。この物語におけるヴァンパイアは必要な血液が本当に少ないからいいわ。普通にちょっと変わった人間ってくらいなものだ。ざっと言ってしまうと、イケメンから相手を選ばなくてはならない、強気な女子一人って感じの物語。だけど、ヴァンパイアであり、悲しみがあり、ドキドキの展開が楽しい漫画なんだよね。

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否応なく選ばれてしまったディミトリ1908年。テノール歌手として活躍をしていたディミトリ。自分の仕事をとるために、枕営業もいとわずやってきた彼にも、ずっと愛してきた女性・アニエスタがいました。しかし、彼女は親友のテオの婚約者。テオは貴族でありながら、身分の違うディミトリと対等に接してくれた唯一の人。ディミトリが性的虐待を受けていたときも助けてくれた。ディミトリのテノール歌手としての初めての舞台も、テオが準備してくれたものでした。だけど、彼はアニエスタを大事にしているように見えない彼を、許せないと言う気持ちも感じていました…みんな人間で、男ですからね。そりゃーバカ騒ぎもするでしょう。そんな中で、ディミトリは馬車にはねられて即死…したと思ったら、なんだか有能なヴァンパイアの器として能力を移植されたみたい。蝶がひらひらと降り立ち、能力をうつすと言う演出はなかなか優雅でしたね。ただ人間にかぶりつけ...この感想を読む

4.04.0
  • betrayerbetrayer
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