伝統芸能に絡めて恋物語がより色っぽく
時の止まったおじさんと女子高生
蛍子は、30歳も年の離れた人に恋をした。亡くなったお母さん・繭子が好きだった人。円が好きなのはお母さん。そうわかっていても、代わりでもいいから、自分を見てほしい。蛍子はそれだけのためにこの地へ転校してきた。その行動力はすごいよね。
そんな蛍子に恋した光。自分の叔父・円に恋する蛍子に恋をした。今まで「おわら」の踊りしか楽しいことがなかったのに、この子を助けたいって心の底から思った。そんな光がせつなくて、読者からすれば完全に蛍子は光を頼っているのに、蛍子と光は関係性を変えるところまで進めなくて…。そのもどかしさが楽しすぎた。
繭子と円は、相思相愛だったのにその時は結ばれなくて、10年以上経ってから再会して燃え上がった。それは「不倫」という形だったけれど、どうしようもなく好きで、愛し合っていたし、結婚しようって決めていた。やっとの思いで決断して、繭子の癌宣告。どこまでいっても悲しくて、報われない恋。一緒になろうとしてなれない2人。ずっと一緒にいれたのなら、幸せだっただろうに、切なかったね。結ばれる直前で結ばれなくて、繭子をずっと想いながら生きてきた円。それを知ってしまうと、蛍子がどんなに円に恋い焦がれても、敵わないよな~…って思った。そこで譲って妥協してしまうような気持ちなら、円はとっくに別の違う人と結婚しているだろう?ただ、蛍子があまりにも繭子にそっくりだから、顔が赤くなっちゃってまってく…誤解を招くほどに純情だよね。どうやってこの気持ちを乗り越えていくんだろう?って悩みつつも、ちゃんと、今まで誰にも話すことのできなかった気持ちをしっかりと言葉にして、正直に蛍子と向き合って、一つずつ自分自身のモヤモヤしている原因をクリアにしていく。過程が素敵な少女漫画だ。
光あってこその進歩
この物語の中では、女同士の醜い争いはなく、静かに・でも確実に時が過ぎていく。繋いでくれているのが光だ。「おわら」が大好きで、踊ることが喜びで、自分を表現することが一番だった光が、恋を知り、誰かのために動くことを知り、どんどん男らしくなっていく。そんな光のおかげで、蛍子は変わっていくことができたし、叔父の円だって変われたんだよね。円が不倫していたって知っても、円という人間を否定しなかった光。尊敬できる部分がある人を、見そこなうようなことはしないから、カッコいい。っていうか、いい子なんだよね。思いやりがあって、優しくて、自分が傷ついてもがんばりたいって思える、そんな光だから、蛍は恋ができたんだと思う。
蛍子が叔父さんのことしか見てないってわかってても、俺が君を守るって決めて、どれだけ蛍子の言葉に傷つこうとも、愛を与え続ける。何回も告白して、あきらめなくて、深い思考ができていくほどにイケメンになって。恋は人を成長させるよね。恋ほど相手の気持ちを考えなければならないものってないから。
そんな光だけれど、もちろんいつも完璧に強いわけではない。時にはどうしようもなく落ち込んで動けなくなるときだってあった。そういうときに、学校の友達、「おわら」に関わるみんなが助けてくれる。「おわら」に関わる人たちがいい人すぎて、ここに住みたいと思っちゃったよね。涼のアドバイスなんて最高すぎる。郷土芸能に本気で取り組む人に悪い人っていないのかなとか、考えちゃったわ。マイルドヤンキーには悪い人いない説。ありそう。
円がすべてを受け入れるまでを丁寧に
ずっと繭子だけを想って、独身だった円。大好きな人と、どうせなら最初から結ばれていたら、もしかして繭子が同じように癌で逝ってしまっても、子どもを大切にして生きていけたかもしれない。繭子が癌で死ななかったら、円は幸せに慣れていただろうか?いろいろな気持ちが円にはあって、それなのに繭子の娘が自分を好きだと言っている。なんで君じゃないんだろう。繭子に似ている人ならだれでもいいんだろうかって葛藤して、苦しくて。辛い様子がヒシヒシと伝わってきた。
結局は蛍子、光という若者たちのおかげで、円は自分の恋を終わらせることを決めた。もちろん、円叔父さんがいい人で、若者の言葉だからとバカにしたりせずに、真摯に接してくれる人だったからこそ、変われたんだよね。そりゃー光の叔父として、ずっとカッコいいところだけ見せていたかっただろうし、繭子の娘からの好意に喜んじゃったことも少しくらいはあるんだろうなっては思う。邪念を振り払って、繭子と一緒に大事にしていきたかった蛍子を、ちゃんと「娘」として愛していこうと決めたイケオジだった。
繭子、蛍子、円、光。みんなが「おわら」でつながっていて、死んでしまった人の分も一生懸命生きていこうってやっと決断できたとき、感無量だったわ。逃げずに、目をそらさずに、自分の言葉で想いを伝えるってことが、大事だよなー。
蛍子の人間的な成長
円に会いたい・一緒にいたいってだけで引っ越してきた蛍子。周囲はざわついたよね。噂で判断する、田舎の悪い風潮が発動してしまうわけ。そこでちゃんと蛍子自身を見てくれるのが光であり、そして里央だ。自分を主張しないくせに「おわら」が踊れる蛍子に対し、冷ややかだった里央。だけど、ちゃんと話してみれば蛍子がどういう人間かってことに気づいてくれて、理解してくれて、引っ張ってくれた。単独プレーじゃない、仲間とつくる「おわら」を教えてくれて、どんどん仲の良い親友になっていく。一人友達ができれば、また一人と交友関係は確実に広がるもの。人のつながりでできている社会だから、怖がるよりも、進んでいくことが大事なんだよね。蛍子は、里央がいなかったらこんなに社交的にはなれなかった。テレビのインタビューにちゃんと答えられるような人間にはなれなかった。出会いと、人がくれる経験と知識に感謝しなければならない。
この街の人たちはみんないい人たちで、横からかっさらおうとか、噂でおかしくしてやろうとか、そういう人たちはいなかった。それに、光と蛍子の関係に嫉妬したり、蛍子をすごく好きになる人とか、めんどくさいのがなかったね。それは常に守っていてくれた光のおかげだけれど、誰にも手を出されなかったのはちょっぴり寂しくもあった。何しろ繭子がモテモテ女子だったことがわかっているので、蛍子も…と思うんだよ。
ラストは胸が躍りまくる
追いかけてまた告白…これがかわいすぎて最高だった。笠はそうやって使うよね!って叫んだ。光が報われて、本当に嬉しい限りである。
また、ここで終わらずに、円と繭子を再会させてあげるのが、粋だよね。光と蛍子がついに両想いになって、蛍子から繭子の鈴がはずれる…タガが外れてキスしたと思ったら、今度は「おわら」を踊る繭子が円の目の前に。すべてを吹っ切って、ようやく会いに来てくれた繭子。引きずったままの円とは再会したくなかったのかな…。ずっと蛍子たちのこと、見守っていてくれたんだろうなって思う。
小さなころに、実は会ったことがあった光と蛍子。そのへんのエピソードも充実していたらまさに運命的!って思えただろうね。だからこそ、光は繭子に惹かれたんだな…って納得できるし。
踊りで始まった恋物語は、踊りで終わってハッピーエンド。これからは光でいっぱいの蛍子が見れるね。それでもいつまでも光には蛍子を追っかけててほしいなって思う、優しい終わりだった。
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