読んでるうちに「おわら」の踊りが絶対好きになる
意外と盲点だったかもしれない男女の組み合わせ
30歳も年の離れた人を好きだと言う蛍子と、蛍子の亡くなった母・繭子を今でも想っているという円、そして円に恋する蛍子を好きになってしまった光…くぅ~…!せつなく苦しい気持ちがビシビシと伝わってきて、9巻まで駆け抜けた物語でした。
繭子と円は恋仲だったのに、運命のいたずらか結ばれなかった…結局は蛍子は円の子どもだったんじゃないの?って途中までは思ってたんですけど、そこはちゃんとつながってませんでしたね。繭子と円は10年以上の時を経て再会し、また恋の気持ちを燃え上がらせて不倫するわけです。決して正しい事とは言えないけれど、こんな語られ方をしちゃったらもうせつなすぎて応援せずにはいられません。そしてその別れ方もまた…結婚の約束をした途端の癌発覚だからね。もうね、なんでこんなにつらい事ばっかり起こるんだろう、幸せな時は短いのだろうってこっちがつらすぎましたよ。
そうとは知らずに単純に円に恋をした蛍子の葛藤もまた苦しかった。円がどんな気持ちで自分を見ているか、繭子をいかに想い続けて生きてきたのか…今までは好きな気持ちだけで何でも行動する気でいたのに、そんな本気の気持ちを知ってしまったら動けなくなってしまう。相手を思いやるからこそ、自分には気持ちがないのだと知るんですね…円さんわかりづらすぎ!蛍子見て赤面しすぎ!!そんなだから周囲も勘違いするんですよ。誰もが繭子さんに捉われて、それを乗り越えることができずにいる…ここだけ注目してしまうとすごくドロドロなんですけど、そこに光やそのほかの友だちが加わって、いい感じに爽やかにしてくれている。なかなか男女の組み合わせが新しいです。女同士の熾烈な争いもないしね。しっとりと優しく空気が流れていきます。
一生懸命な光が素敵
光の女がらみも出てくるのかと思ってたんですけど、そこは最後まで「おわら」大好きの純情ボーイのまま。すごく良かったですね。これだけ感受性が高い男の子もまた珍しいというか。円おじさんのこと、どれだけ不倫を汚く感じたとしても軽蔑するところに至れない。それは「おわら」を通してずっと円おじさんを尊敬してきたからだし、それは揺るがないんですよね。蛍子がどんなに円おじさんしか見ていなくても、俺が隠れみのになって守ると決めて、譲らないところも良かった。そして蛍子の言葉に傷ついてしまう弱さもまたいじらしい…。円おじさんを守るというていでしたけど、いやいや、完全に蛍子を守るためだろうが。気づいていない光…もう何回光は告ってるんでしょうね。最後の最後まであきらめないのがまた…愛しすぎる奴です。しかも、恋を知るほどに見た目もかっこよくなっていってる気がする。いいわー…
蛍子を取り巻く学校のお友達は、みんないい子ばかりですよね。訛りがすごくてどうなんだろうって思ってたけど、読んでいるうちに心地よくなってしまいました。かわいいなと。そして考えることが大人だなーとも感じましたね。涼といい、なんだその的確なアドバイスは?!と驚くほど。「おわら」の踊りを通して、小さなころから大人と関わってきた子どもたちだからこそ、いろいろなことを考えたり教えられたりしてきたのかもなーって考えてしまいました。郷土芸能に小さなころから慣れ親しんできた人たちにとって、それはかけがえのないものなんでしょう。本気で打ち込むし、手抜きがなくて、すがすがしいですよね。
世代を超えて昇華されていく気持ち
繭子を想い、ずっと独身で生きてきた円。どこかで自分を許せないと思ったり、先に行ってしまった繭子さんのことを苦々しく感じたりもしたことでしょう。それが、蛍子ともう一度会い、お互いが心の中だけで考えてきた気持ちが初めて言葉にして表現される。ごちゃごちゃしてたものが整理されて、踏ん切りがついたときの円さんの表情はよかったな~…もちろん、蛍子もね。相手を子どもだからとバカにせず、真摯に向き合ってくれた円さん。本当に素敵なイケオジだった。蛍子と光が仲良くしているのを見て、悔しく思うのではなく、きっと自分たちが高校生だったころと重ねただろうし、どうか自由に生きてほしいと願っていたことでしょう。それでも、繭子の生き写しの蛍子から好意を示されて、背徳感や恋心が呼び覚まされてしまう感覚、光の叔父としての自分などなど…たくさんの葛藤を感じたでしょうね。そこから脱却し、自分が繭子さんと大事にしてきた蛍子を、「娘」として想い愛し続けるという結論に至り、次に進めたわけです。
蛍子にとっても、繭子の存在が本当にかけがえのないものだったし、母親であり、「おわら」のことを教えてくれた人であり、円とつないでくれた人でもあったわけで…円に気持ちを伝えてよかったね。そこまで至れてよかったね。自分を繭子の代わりでいいからなんて言ってしまうほどに大好きだった人。だけど、その気持ちは少しずつ動いていたということが、告白してみて初めてわかったようでした。やはり、自分の心の中だけで完結させず、言葉にして伝えるということがいかに大事なのかってことがわかってくるよね。
広がる友達の輪
円に会うためだけにこの街へ来た、という蛍子に対し、周囲の対応はガラリと変貌。だけど、光のおかげ、そして里央のおかげで、蛍子の周りは変わっていきます。里央がね~もう本当にいい子で。勝気で強気だけれど、真実を見て判断しようとするところが勇ましい。彼氏にほしいくらいの人です。最初は蛍子が嫌な奴だと思ってたけど、知るほどに「なんだ、あんたそういう人間なのね」って理解してくれるこのあったかさ!蛍子との関係を心の底から楽しんでいることが絵からも良く伝わってきて、微笑ましい女子2人組でした。そして、おわらの5人組や郷土芸能部の面々とも打ち解け、関係性が広がっていき、蛍子の見ている世界が広がっていくんですよね。友達なんていらないなんて嘘で、やはり人のつながりあってこその世界であるということを教えてくれます。光と里央が関わっていこうとしている人だからこそ、みんなが蛍子に興味をもってくれたんですから、蛍子はこの2人には感謝せずにはいられないですよね。
何となく、円おじさんと光だけじゃなくて、涼とか三味線の努力家ボーイとかとも何か横恋慕的なものがあるかなーって思ったんですけど…光がいたからね。誰にも手を出されずに話が進んだ気がする。モテモテの繭子の娘ですから、またそんなことになるのかなとも思ったのですが…血がつながっていようと、顔が似ていようと、やはり蛍子は蛍子。自分だけの人生を生きていってもらいたいものです。
最後の演出がマジで粋すぎる
最後がね…光へ気持ちを伝えたところなんてね…いや、誤解だったんですけど、もうかわいすぎる。笠は最初からそう使うためにあったような気がしてなりませんよ!耳元で告白したかと思うと、また走っていってさらに追い打ち告白…あーーーここでついにゴールインか?!と思ったら…蛍子の大切な繭子の鈴がはずれていなくなるんですよ。これ、いったい何のおあずけなの?って思ったんですけど、そのおかげで解き放たれたみたいに光と蛍子はキスを交わし、そして円の前に繭子が現れるんです…!ずっといたんだね、お母さん、そして愛する人にやっと会いにこれたんだね…円にしか見えない繭子の踊り。
惚れた男にしか姿見せん気やな
ってゼンジさん!その通り!構成が良すぎてニヤニヤが止まりませんでした。
「おわら」の踊りで始まり、踊りで終わる。そしてそれが繰り返されていく。いいモノローグで幕を閉じました。年齢層を問わないおもしろさがありました。いやー…光と蛍子。お似合いだよ!!おめでとう。
- あなたも感想を書いてみませんか?
- レビューンは、作品についての理解を深めることをコンセプトとしたレビューサイトです。
コンテンツをもっと楽しむための考察レビューを書けるレビュアーを大歓迎しています。 - 会員登録して感想を書く(無料)