鬼才、デヴィッド・リンチの処女作
デヴィッド・リンチの真髄
初めて見た方はびっくりされたのではないでしょうか。内容はシュール一辺倒。登場人物の突然の奇行。そして急に現れる両頬にこぶのある謎の人物!「全く意味がわからない!」と頭を抱えた方も多かったはず。こんなシュールな映画にも、実は製作の経緯で納得のいく理由があるのです。今回はそんなリンチの映画、イレイザーヘッドについての考察を紹介します。
冒頭から漂うなんとも言えない暗い雰囲気
この映画は印象的なモノクロ映像にて撮影されています。それと合わせてリンチ独特の意味深なカメラワークが不気味さを醸し出していますよね。また、タイトルのイレイザーヘッドとは主人公の髪型のこと。鉛筆の先に付いている消しゴムに似ていることが理由です。そして彼女の家に呼ばれた主人公は彼女が妊娠している事を打ち明けられます。しかし、主人公はあまり動揺をしません。きっと主人公は彼女の妊娠を知っていたのだと思います。知っていたので彼女の夕食に誘われる前から既に彼の中では動揺と緊張が生まれていたのです。主人公は結婚する度胸などない、ごく普通の一般人でした。結婚なんて、子育てなんて、全く考えたことがなかったのです。仕方がなく結婚をして子育てをすることになった彼は次第に妄想の世界に没頭していきます。謎の女性が踊る舞台の上には内臓のようなものが次々落ちてきて女性はそれを踏みにじっていきます。これは主人公が発散したい性的な欲望と、生まれてしまった子どもに対する怒りをぶつけた感情なのだと思います。そして最後に自分の子どもを殺してしまうシーン、どんなに憎く自分の人生を台無しにしてくれたか、という怨念のこもった彼の感情が画面越しに伝わってきます。
実はリンチ監督の体験談?
この映画を撮影した当時、フィラデルフィアで芸術を学ぶリンチには、想定せず妊娠させてしまった彼女がいました。映画の主人公と全く同じ状況だったんです。若くして父親になってしまった当時のリンチも同じような悩みを抱えていたんです。この映画は言わばリンチの現実逃避、こうしたいという妄想だったんですね。また、映画と同じくリンチも妻に逃げられ、映画の主人公と同じ状況に追い込まれます。映画という逃避がなければリンチ自身の現実までもが同じような結末を向かえていたのかもしれません。
全体を通して伝わってくる恨み節
リンチはこの映画の最初から最後まで、妊娠に対する恐怖、子どもを育てることへの嫌悪、家庭を保つことの畏怖を綴っています。さながら子どもが「イヤイヤ!」と駄々をこねているようにも感じられます。とにかくリンチの第一歩はこの映画から始まりました。最初期の作品であるこのイレイザーヘッドは、リンチはもう純粋100%!リンチの世界に浸るなら正にこの映画からと言ったリンチズブズブの作品です。もう一度見る機会がありましたら、当時のリンチのこのような状況を考えながら見てみると更に楽しめますよ!
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