破滅への道をたどる未来を救え
常識をひっくり返すような何かを待っている
描いている時代がけっこう最近なので、逆にドキドキ…。アゲハたちの生きていた2008年からたった10年後の2018年。世界は終わるのかもしれない。そんな想像をしてしまう。テレホンカードはもはやないに等しい世の中になってしまったけれど、今でも公衆電話の需要はあるからね。数が少なくなったからこそ、なんかロマンがある気がするんだ。
物語の始まりでアゲハが言っている言葉は、今でも十分通用する文句だなーと思う。ただ生きていくこともできるし、命の危険が目の前に転がっているわけでもない。確かに治安が危ない場所もあるだろうけど、直接関係のないところに住めばもはや天国レベルで穏やかな暮らしができる。どこかで殺し合いをしているとも知らず、ただ生きて、仕事して、毎日を淡々と過ごしていくことができてしまう世の中に辟易する若者。ちょうどそれが色濃くなってきた今だからこそ、的確なセリフが心に響く。当たり前にあるものの大切さをかみしめろと言われても、やっぱり失うことを知らない人間にはハングリー精神なんて身につかないからね。どれだけ自分を追い込んで強くなれるか?いつの時代もそれだけが人間の強みだと思うよ。
漫画のタイトルが秀逸で、つまんねーなーって自分の時間を浪費して静まり返っている人間と、実は誰も知らない未来で静かに命をかけたバトルが行われていること、危険を知らせる「サイレン」が鳴り響くように招集されるプレイヤーたち…いろいろな意味が組み合わさってできた名前で、いいセンスだなーって思う。
順当にヒーローへと駆け上がる
主人公は凡人スタート。特別な特殊能力がもともとあったわけではなく、雨宮を追いかけてサイレン世界に飛び込んで、PSYの能力が覚醒する。サイレン世界の空気を吸えば何らかの能力が発現するっていう設定はおもしろいよね。能力がウイルスから生まれる演出ってなかなかないと思う。そしてむしろヒロインの雨宮のほうがだいぶ強くて、そこもまた特徴的。たいていはヒロインを守るために死に物狂いで努力する主人公がいることが多いけれど、ここでは完全に仲間であり、共闘できるレベルの強さを誇っている。
能力はサイレン世界にやってくれば皆発動できるようになるが、そこからその能力をどう生かして戦うかは知恵と努力次第。ここは未来を守るための場所でもあるが、過去の人間を巻き込んだゲームでもある。地道なレベル上げで確実にステップアップしていけるから、努力家のアゲハはみるみる覚醒していく。とても現実的な流れだ。
レベル上げは、テレホンカードのメモリすべてを使い切ったゲームクリア者たちが後進の育成として行っている。その一人が祭さん。強く美しいキャラクター。この漫画は本当に女が強いよね。強いんだからサイレン世界に飛んで協力してくれよ!って思うけど、ルールがそれを許してくれないっていう…嫌な設定。サイレン世界での能力が現実世界でも使えるとわかっており、間違いなく現実に自分たちはあの地で闘っている。そして根本を叩かなければいずれ自分たちの世界がサイレン世界のように滅びてしまうこともわかっている。少ない時間でとにかく強くなるしかない。気長に旅していくストーリーとはまた違うので、いつも緊迫感を感じながらのバトルだ。
さっさと共闘すればいいのに
グレゴリ7号は、世界の真実を解き明かそうと過去の人間を使って試行錯誤してきた。そりゃー未来からすれば過去の人間なんてどうでもいいのかもしれないけれど、過去の人間がいたからこその未来なのに、ずいぶんと命を軽視した行動だよね。純粋にゲームとしても成立させていたし、本当に世界を救う気があるの?って疑問もあった。マジで雨宮とアゲハが来なかったら、そのまま世界は滅亡してパラレルワールドのどれもが滅亡エンドになっていたかもしれないよ。
弥勒は確かにくだらない連中に利用されてしまった悲しい人間だったけれど、いい人だった。さっさとアゲハと共闘すればいいのに、いつまでも姉さんがどうだとか言って他の人間は平気で傷つけて。自分勝手はだめでちゅよ!本当に世界を救いたいのなら、プライドかなぐり捨てて目的達成のために動かなくてはならなかったはず。よくもめんどくさいことしてくれたなーと思う。結局隕石飛んできますってことでアゲハが植物状態になっちゃうし…目的見失った哀れな男だった。
バトルシーンがド派手
PSYはサイレン世界の空気を吸うか、もしくは自然に覚醒してしまう人もいるっていう設定だった。発想はなかなか好きで、バースト、トランス、ライズの3種類の基本タイプがあるのは「ハンター×ハンター」の念のちからの設定に似ているなーっていう印象がある。身体能力に左右されないから、能力頼みではあるけれど、バトルシーンは面白い。能力的にはやっぱり主人公のアゲハがダントツカッコいいだろうね。闇っぽさもあり、アゲハの綺麗なだけじゃない心、母親を失った悲しみとかも含めて、気持ちの爆発と能力の爆発がうまくリンクしていたと思う。能力を使いすぎると鼻血が出てしまうのはダサいから好きじゃないけどね。また、太陽には勝てないというのも…案外とザコいよね。結局地球は太陽に勝てないんだなー。
残念なのは、当初のアゲハの友達の出番がまるでないことかな。PSYを持たない人には参加資格がないしね…仲良しのあの感じも好きだったから、最後まで何らかの形で関わり続けてくれてたら嬉しかった。バトルのブレーンでもいいし、未来の事なら無関係じゃないんだからさ。あと、雨宮がもう少しかわいかったら嬉しかった…アゲハも当初の顔つきのほうが好きだったから、バトルのたび大人っぽくなっていくのはちょっと悲しかったな。
主人公死亡じゃなくてよかった
アゲハたちが未来を救って、アゲハが植物状態になってしまったときはびっくり。サイレン世界(つまりはパラレルワールドになった未来の住人たち)がテレパシーでアゲハを起こしてくれるというエンドは想像できない終わりだったね。そりゃー主人公だから、完璧に死なないのなら絶対生き返ってくれるだろうとは思っていたけど。時間をおいて後から復活するタイプじゃなくてよかったよ。
W.I.S.Eが殺してしまったたくさんの人々。ミスラのせいとはいえ、やっぱり誰かの命を奪うことは許されるものじゃない。何もなかったかのように生きていくことのは厳しいよね。地球を守るための犠牲だったとは言えないレベルで殺してるしね。恨みはどこにもぶつけられないわけよ。嫌だねー戦争って。
16巻でラストを迎えることになったが、駆け足だったので打ち切りだなんだと騒がれたPSYREN。もうラスボスまではたどり着いていたんだし、アゲハと雨宮もうまいことハッピーになって、回収してほしいところは回収したのではないかと思っている。その後のストーリーで、PSYの能力が消えることなく現実世界で活用されていることについては、若干の違和感がありつつ、能力が残ったままになったらいいのに!っていう中二病的な要望をうまく叶えてくれていたのではないだろうか。弥勒の顔がダサくて嫌いだったけど、アゲハはやっぱりヒーローって感じ。天変地異を経験して、人生楽しく生きれるようになったアゲハを見ていると、よかったなー自分もがんばりたいなーって思うよ。こういう単純な少年漫画って、やっぱり楽しいよね。何歳になっても夢とか希望とか言って生きていたいもの。
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