犠牲の上に決断する人間の弱さと強さ
何を信じるべきかを決められなかった昔の西部劇
アメリカの古い映画の中にあるガンマン。それに命をかけて戦い続けた人々を描いた物語になっている。古臭いけど、胸は熱くなる感じ。1本の銃でゴングと共に目の前の相手をぶち抜いてみせる。勝てばファイトマネーを手にし、負ければ死ぬか再起不能にさせられる。そんな危険なデュエルを避けようとするホープ・エマーソン。彼は、兄のコール・エマーソンを探して旅をしているだけで、決してデュエルをしたいわけではない。しかし、ニコラ・クリムゾンに出会ってしまったことにより、コールに近づくとともにデュエルのたたかいの渦にのまれていくのだった。運命って怖い。
コール・エマーソンはクリムゾンファミリーの中にいたし、早いうちに再会できるのかなーと思っていたが、そうはならず…まさかの2部構成で長い闘いになっていった。自分が伝説の名銃士の息子だからという理由で、数々の銃士に狙われることとなったホープ。父の名誉のために「悪魔を殺すとき以外は銃を使わない」と決めていたホープは、人殺しをとことん避ける。ニコラと出会ったことによって、血みどろの闘いを経験し、兄とも決別せざるを得なくなっていったことは、本当に悲しい事だよね。コールを追っている時点で避けられなかったのかもしれないけれど、みんながどうにかして豊かに生きていきたくて、がんばっていただけなのにね。
ホープがニコラと出会ってしまったことは、もう運命ってことにするしかない。核兵器のカギを握る彼女と旅をし、いい人もいて、悪い人もいて、未来のために悪いことをする人もいて…それでもホープにできることはピースメイカーで平和のために銃を使うことだけ。単純に、ボスを倒せば終わりじゃなくて、ニコラとホープ、カイルたちの成長がとても感動的だ。
仲間が死んで覚醒する
ニコラ、カイル、そしてピート。ニコラを守り、次々に出くわす邪魔者を倒し、共闘するホープとピート。お互いの銃士としての実力を認めているので、ピートはいつかホープと頂点を争う闘いの場で相対したいと思っていた。チャラキャラで、でもしっかりと夢と意志を持ち、自信を持って生きているのがホープとは全然違う。ホープは常に戦いに迷い、そのタイミングがくるときまで本気は出さない。出さないというより、出せないくらいに心が弱かった。それでもピートが引き上げてくれて、彼らの関係性はとてもいいものだった…。
そんな大事な仲間が、コールに殺される。もうこの衝撃がね…大切な誰かが死ぬことで、迷いが振り切れてしまったホープ。そしてニコラ。ホープは人殺しが必要なこともあるのだと知り、その闇に身を落とす。ニコラはホープの意志を継ぎ、逃げて逃げて迷惑をかけまくっていた自分を捨てることを決意する。ピートがもたらしてくれたのは、確かに前を向いて生きていくこと。誰かが死ぬことによってしかもたらされなかったもの。そういうものがあるとは信じたくないけれど、やっぱり、人間の成長には衝撃が必要なんだと思う。今までの価値観を吹っ飛ばすような何かが。そしてその変化が、必ずしもいいものをもたらしてくれるわけじゃない。そこから立ち直れるかどうかは、やっぱり仲間が必要なんだよ。
5年もの長い間、離れなくてはならなかったことは悲しい。世の中は5年足らずでは変化しなかったけれど、確実にホープとニコラとカイルを変えた。
決意するということ
ニコラがね…子どもだったとは言え、やっぱり一番迷惑をかけたと言わざるを得ない。彼女がもっと早くに真実を語っていれば、たくさんの人が死なずに済んだと思うんだ。ピートを失うことも、ホープを失うこともなかった。それでも、もしかしたら彼女が最初から強かったら、ホープやピート、カイルと出会うことすらできなかったかもしれない。コニーを解放してあげることができなかったかもしれない。だから、すべてを望むことはできないし、してはいけないんだろう。
ホープは偉大な父親の血を受け継いでしまったことで、本当に苦労したと思う。闘いから逃げていれば、大切な人は死なないと思っていた。だから、本当に大切な人を失った…。だったら、すべてを守るために、自分自身が強くなるしかない。銃士として自分を極めることにしたホープは、カッコよくもあり、悲しくもあった。失うことが怖いから逃げるのではなく、失うことが怖いから立ち向かう。闘いの場にホープが本気で臨むことがピートの願いでもあったし、コールを倒すことが弔いにもなる。
物語の中で、主人公がずっと最強なのではなく、最大の挫折を味わうことは成長のために必ず必要になる。それが一度マイナスのほうに振り切れて、もう一人の主人公に切り替わり、もう一度メインに戻ってきてくれる演出は、やっぱりおもしろい。決意すれば、人間どこまででも可能性が広がる気がするよね。あー自分のやる気スイッチも押してほしい。とにかく強くなりたい。
ニコラの母が望んだこと
クリムゾン一家のジェシカ。強すぎる殺し屋。そんな彼女が大切に育てたニコラ。ジェシカがコニーにニコラの事を頼むシーンはじーんとするよね…コニーとの闘いは、他のクリムゾンファミリーたちよりも心が痛むものだったし、ニコラの育て役になってくれたことは本当にうれしかったよ。コニーだけなぜか特殊な種族設定が入っていたが、それを抜きにしても、彼女のキャラは素敵だった。ファミリーから捨てられたコニーは逆に自由になれたね。ニコラと関わることで、尊敬したジェシカの気持ちを理解できていく。カイルと結婚して9人も子どもつくったのは、やっぱり子どもが好きになったからだと思うんだ。もちろん、カイルをめっちゃくちゃ攻めたんだと思うんだが…もうちょっとそのへん知りたかったな…。カイルがコニーに惚れちゃって、コニーも惚れられるのが初めてでときめいた…とかかな?
コール・ホープ
父から受け継いだピースメイカー。そして幸せを呼ぶ2人の息子。確かに、彼らが戦いを集結させたことで世の中はぐっと平和に近づいた。それでも彼らがもっと早くに再会できていて、一緒に生きていけていたら…と思うと胸がしめつけられるね。デュエルで始まった漫画なのだから、デュエルで終わるとわかっていた。はっきりした悪が存在しないであろうことも何となく予想できていたし、やっぱりかーって感じ。でも確かに、幸せを呼び込んでくれたのはコールとホープだったと思うよ。
コールとの決戦の直前に、ニコラとホープのデュエル。そこで、ホープが本来の優しい人間に戻ってくれたことが何よりうれしかったね。もしかしたら、違う結末があるかもしれないって期待をさせた。そこをさらに裏切って、相打ちにしたのは、どちらの貫いた正義も尊重してあげたいと思うからこそ、同時に終わる方法しかなかったんだろう。
まさかラストが20年後で、ニコラが首相になっているとは思わなかった。それくらいの権力を持っていたんだよねークリムゾンファミリー。恐るべし。それでも、世界からは争いがなくなったわけじゃない。デュエルという手段ではない、核兵器などが用いられる戦争ばかりの世の中。でも、国の中で簡単に人を殺めることはしなくなった。それは、コールとホープがつくってくれたものだと思うし、ニコラが守ってくれているんだと思う。現実の世の中にも、肉体的にも精神的にも最強な人がリーダーシップを発揮する世の中になったらおもしろいのにね…。
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