絶対に会えないし思い出せもしない - 時をかける少女の感想

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絶対に会えないし思い出せもしない

4.54.5
映像
3.5
脚本
3.5
キャスト
4.0
音楽
4.0
演出
4.0

目次

和子と深町がいてこそ

この物語はこれ1つでも楽しめる作品だが、やはり他の3作品をしっかり観て置いた後に、これを観たほうが深まるはずだ。

舞台は、2010年、和子とその娘のあかりは、ごく普通の母子家庭。和子は大学で薬学者を務めており、あかりは大学進学を目指して受験シーズンだった。和子の古くからの知り合いである朝倉さんが、深町家の屋根裏部屋からラベンダーの花と写真が入った封筒を見つける。中学生の和子と知らない少年が映っている写真…そこで記憶がよみがえって、和子は1972年4月6日に行かなければならない約束を思い出すのだ。

これは完全にあの時のせつなさが回収されるフラグ…!やはり和子&深町エピソードの作品を観たほうがいいなーと思えた。深町に会いたいという記憶を忘れていても、和子は自然と薬学者を志し、過去にタイムリープできる薬を開発していた。それをいつ使うのかも思い出せないのに、彼女は…その想いだけで勉強していたんだなと思うと、ものすごい胸を揺さぶるね。

しかし、今作でその約束を果たしてくれるのは和子の娘であるあかり。交通事故に遭ってしまい、和子自身が動ける状況ではなくなったのだ。せっかく思い出して、やっと会いに行けるのに…この因果が憎い。あかりに思いを託して、「約束は消えていない」という言葉を伝えられたとき、一夫はどんな気持ちだったかな…あかりが尋ね人欄の記録を書いてくれていなかったら、きっと会いには来れなかった。2698年って…おいおい。未来すぎるだろう。しかも、ちゃんと2010年に現れて、和子と会えて…「また未来で」って…いつ会えるの?!会うときは絶対未来から過去だろう?過去から未来は無理なんだろう?そして記憶を消して…恋は絶対に成就しない。ここに、和子と深町の絶対に結ばれない恋がある。本作の主人公はあかりと涼太であるが、2つの恋が輝いて消える。それがこの物語だ。

仲里依紗と中尾明慶のいい雰囲気

仲里依紗と中尾明慶の出会った作品であり、のちに夫婦になることをニヤニヤ考えながら見るとおもしろい。よく見ると、目とかがわりと似ているなーとか気づくだろう。夫婦って顔が似るっていうからね。

2010年の女子高生である仲里依紗はマジでかわいく、一生懸命に走るあの表情と髪のなびき具合が印象的だ。中尾は昭和感満載の顔がちょうどいいよね。髪の毛も絶妙にダサくて、映画監督目指しているのもまた昭和の少女漫画感が出ている。

「秋田から帰ってきたら一緒に見よう」と約束した、あかりも登場する涼太の作ったフィルム。でもそのときには、もうあかりは未来に戻らなくてはならず、そして記憶もなくなることがわかっていた…この切なさと言ったらもう苦しい。何かを残したくて、メモを残してあげたいよね。名前とフィルム、これを観たら思い出してくれる…?そんな気持ちで何かを残したかった…だけど、それすら叶わない。涼太はバス事故で死んじゃうってことが決まってた。それを止めたい。自分が帰れなくなったっていいから、どうかあの人を…!なんでここで情状酌量がないんだ!深町さん!!無残にも止めに入る深町。そして記憶を消して2010年にあかりを戻すのだった。

深町もね、そうやって苦しい気持ち押し殺して、和子と違う時代と生きると決めた。過去は変えられない。過去を変えてはいけない。その絶対ルールを破ってしまったら、もしかしたらもう会う可能性すら失くしてしまうかもしれない。深町の気持ちも痛いほどだったけれど、あかりと涼太にはもう再会するチャンスはひとかけらもない。だから、それが辛すぎて…最悪。

未来から来た人間

はるか先の未来から来た人間は記憶を保持してもいいのかな?過去にやってきたとしても、どうせ記憶は消さなきゃならないし、未来を変える行為もしてはならない。それならなんで過去になんか来るんだよ!と言いたい。これは、感覚の違う人には理解しがたいかもしれない。記憶を失ってもいい。何度だってあなたに会って、何度だって恋をする。それくらい、深い気持ちがあるってことなんだろう。でも忘れている間に誰かと結婚しないとかそういうことはないみたいじゃん?和子はあかりという娘もいるんだし。深町は…未来でどんな人なんだろうね…。

はるか先の未来では、タイムリープにどんな価値を求めるの?自分の記憶も未来に戻ったら消さなくちゃならないのかな?それとも、覚えていてもいいのかな?覚えていなかったのだとしたら、和子と同じように、何かをきっかけとして記憶が蘇って戻ってくるものなのかな…。だから深町は知らせに来てくれたの…?そのあたり、もっと教えてほしかったな…どっちにしろ、もう会えない気がするよ。もう…過去に戻ってもどうしようもない。未来に進むしかないんだ。深町も、未来に進んでほしいということを伝えに来てくれたのかもしれないね。記憶を消してもどこかに残るもの。それがある限り、何度だって思い出したい。そんな気持ちにさせてくれるから、この映画は好きなんだよ。

何度だって…出会えない

あかりと涼太にいたっては、もう絶対会えないじゃん。深町と和子とはわけが違う。だから、あかりにとっては忘れたほうがよかったと思う。もし、今後また過去に戻る薬を使うことがあったら、あかりは使う…?戻っても、また傷つき、苦しむだけだね。何度だって、君に恋したいのに、やっぱりあかりにもこれからを生きてほしいって思う。涼太という人間は確かにそこにいて、あかりにフィルムを遺してくれた。それだけは絶対に変わらない。

ただ、和子は深町の事を写真とラベンダーの花で思い出したのに、あかりは思い出せないのかな…二人の大切な思い出のフィルム。それを観て、思い出すことはもうできないの…?思い出すほうがつらいかもしれないけれど、そこはつじつまが合わないじゃないか!和子&深町ばっかりずるいよ!

ただ、どっちがいいかとは言えない問題だ。どっちにしろ、同じ時を生きることができないのだから。必ず記憶を消さなければならないのだから。どうせなら会わないほうがよかった?会ったことも別れたことも思い出せないのに、この時間は何のために流れたんだろう…脳は忘れたかもしれないけれど、体がたしかにそこにいたことを覚えている。心臓の鼓動が覚えている。それが何の役に立つって言うのさ…

未来の桜を見る君へ

このフィルムを観て、あのあかりが涼太を思い出せないなんてこと、ないと思うんだよ。でも思い出せないんだよな…それってなんでなんだろう。思い出したくないくらいに悲しい記憶。ただ涙が止まらない。このシーンは相当泣ける。何回だって過去に生きたいと思わせる。それでも、時間が必ず進むという残酷さ、がんばって走らなくちゃならないってことをヒシヒシと伝えてくる。あれだけ走れたことも、泣いたことも、異空間に飛ばされたことも、何もかもが未来につながっている。

せめてものよかったことは、涼太がきっと幸せな気持ちのままだっただろうということ。あかりの映った映画をつくれたこと。あかりが目的を果たせたこと。急病の父親のところに行ったら、もう一度あかりに会う。そう思いながら死んでいったこと…無念だったとしても、彼だけはあかりを覚えていてくれたまま、亡くなったんじゃないかなって…そう思えるよ。

「時をかける少女」では、絶対に結末はせつない。ハッピーは待っていない。でも、爽やかで、ダークな空気は流れない。アニメも映画もドラマでも。何度でも繰り返すのは、何度でも愛した人に会いたいと思うからだ。

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