999のテーマや目的に影響を与えた作品
総集編3話のうちの一話
この作品は原作の透明海のアルテミスが元になっている。テレビ版銀河鉄道999には総集編というスペシャル番組があり、普段は一話完結が基本の中でも、前後編で2週に放送がまたがったものの中から過去に3話総集編として再放送されたものがあった。その作品の一つである。
総集編はオープニングがいつもの放送の物とは違い、実写の蒸気機関車の映像が流れていた記憶がある。どういう基準で総集編に選ばれる作品が決まっていたかは定かでないが、透明海のアルテミスについては、999の根底にある母親の自己犠牲であったり、親離れのテーマにふさわしい作品として選ばれたのだろうと察する。
ある意味残酷な話
放送当時はよく考えもしなかったが、今思うとこの話は鉄郎にとって残酷極まりない話であると感じる。鉄郎は自分の母親が機械化人の道楽によって殺害された挙句剥製にされるという、今なら放送禁止になってもいいような残酷な目に遭っている。その上、旅の途上でも知り合った人が親を亡くす場面に何度が出くわしている。
自分で身動きができない惑星の様な巨体を持つアメーバ状の「母親」を、999がそこに突っ込んでしまって離脱できなくなったからという理由で、命を奪わねばならない立場になってしまうのである。母の尊い犠牲を描いた作品であるが、母を残虐極まりない経験で失っている鉄郎には、あまりに酷な話だと言えよう。
しかも、意図してなのか、アルテミスの母親の声優が鉄郎の母親の声優である坪井章子さんであることも、鉄郎の母の死を彷彿とさせて痛々しい。
機械化人になる意味がない
母の願いである両親の分まで長生きするということを目標にアンドロメダを目指している鉄郎であるが、この透明海のアルテミスを始め、そもそも機械化人は長生きできるのかということに単純な疑問がある。
まず、地球で鉄郎は母の仇を取っているが、機械伯爵は頭を破壊されたら本当に死ぬと言っており、人間と大して変わらないのではと感じてしまう。
次の停車駅の火星でも、鉄郎が発砲した際、機械化人青年が故意に弾道にぶつかって死んでおり、機械化人があっけなく死んでしまうことはさんざん見てきているのである。
この総集編では、何と機械化人は「過労でも死んでしまう」という新たな要素が加わる。機械化したアルテミスの死因は、機械化の代金とその維持、交友費の代金を働いて返したための重労働の結果だったのだ。もしかしたら、機械化の親玉のプロメシュームクラス、映画さよなら銀河鉄道999の鉄郎の父ファウストクラスになってくるとそのようなことはないのかもしれないが、安物だと故障しやすいということなのか。
いずれにしろ、機械化するメリットをあまり感じない。鉄郎が望む長生きは、正直機械化を果たしても叶わないのではないか。そんなことすら感じさせる作品となっている。
999の融通の利かなさと、鉄郎の目的のはかなさ
この作品で感じるのは、999の融通の利かなさである。軌道を変更できないとはいえ、前方に明らかに障害物があり、事前にその生体の子供から軌道を変えるよう通信が傍受できているのに頑なに軌道を変えないのには若干呆れる。結果的にアメーバのような星に突っ込んでしまうあたり、とても外宇宙の科学まで取り入れて作った列車とは思えぬ判断力である。あまり乗客の命が大事だなどとは考えないのだろうか。
そうかと思うと、アンタレスにハイジャックされただけで軌道を変えるなど、どういう基準で規則を守ったり破ったりしているのかさっぱりわからない。
底が摩訶不思議で面白かったりもするが、アルテミスの母に突っ込んだときは馬鹿じゃないかという感想しか持てなかった人も多いだろう。アルテミスの母親を破壊したいがために無理に突っ込んだとしか思えぬ話でもある。
また、先にも述べたが機械化をしても長生きできないということは地球を出発する時点でわかっていることなので、鉄郎が機械化する理由自体がないという点では、物語がすでに破たんしているようにも感じる。テレビ版では鉄郎の父親は過労で亡くなっているようなので、アルテミスとも被る部分があり、鉄郎の目的自体意味がないことを念押ししている作品なのだ。
999は結果的には鉄郎が限りある命だから素晴らしいのだと気付く過程を描いているため、旅が無意味ではなかったという結果になっている。そういう意味では鉄郎の真の目的は、長生きではなく、母と命がけで叶えようとした999に乗ることそのものだったとも言えよう。そして、メーテルの目的は、地球での最初の経験やアルテミスのこの話などをはじめとするすべての停車駅での経験を通じ、機械化など意味がないと鉄郎に理解させることだったのだ。まさしく、過程自体が目的だったため、鉄郎が生身の体の大切さに気付いた時、メーテルもまた去って行ったのだろう。
この総集編はそういう意味では、鉄郎に機械化への絶望を感じさせるには十分すぎる経験だったと言える。
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