少年たちの暗黒史
1980年代の伝説的劇団の代表作を漫画化
小劇場ブームが巻き起こっていた80年代に、ひとつの劇団が誕生した。
「東京グランギニョル」
結成からわずか3年で解散し、当時の資料はほとんど入手することができない
謎に包まれた劇団であるが、演劇ファンの間では今もなお伝説的に語り継がれている。
この作品は、その東京グランギニョルの3作目の舞台「ライチ光クラブ」を漫画化したものである。
暴力、耽美、廃退
表現において規制の厳しくなった現代社会を逆行するかのような、衝撃的なシーンの連続。
人体の解剖や、強力な光を当て失明させるといった場面は思わず目を覆いたくなる。
「強力なマシンを作り、永遠に子供のままでいたい」という少年らしい無邪気な夢と
それを実行するために繰り返される、リンチや拷問が対照的である。
光クラブの帝王である「ゼラ」と妖艶な少年「ジャイボ」の同性愛的な関係は
漫画オリジナルの設定ということだが、性的なものを一切否定している彼らにとって
矛盾した行為であり、それがいっそう廃退的な雰囲気を強めている。
原作に手を加えることに反対する人もいるが、
世界観を壊してはおらず、より印象的な作品になっており
作者の原作への尊敬と愛を深く感じる。
人間であるということは
「なぜ、人を殺してはいけないのか」
この作品では、それがキーワードになっていると思う。
少年たちが作り上げたマシン・ライチは当初、何のためらいもなく命令通りに人を殺す。
しかし少女・カノンに「本物の人間になりたいのなら、人を殺してはいけない」と言われ
機械でありながら、感情をもってしまったライチは彼女の言うことを聞き入れた。
人間だから、人を殺してはいけないのだろうか。
殺人が悪だとほとんどの人が「理解」しているが、「なぜ」と考えたことがあるだろうか。
殺された人の家族が悲しむから、秩序を守らなければならないから、
などと理由をつけることはできるが、納得できる答えを私は見つけることができない。
廃墟の少年たち
永遠を夢見ていた少年たちは、最後には全員死んでしまった。
秘密基地にしていた廃墟では、彼らの亡骸と幻想だけが残った。
少女ひとりが生き残り、近くで機械の音が響いている
最終のシーンが最も強く、ずっしりと重く、印象に残っている。
私は舞台を実際に見たことは無いが、
ゴウンゴウン・・・という大きく低い音や
オイルの焦げた匂い、血の匂いなどが伝わってくるようだ。
廃墟を照らしていた薄明りの照明は徐々に暗転し、
カーテンコールへとつながる、そんな気がするのだ。
この漫画が無ければ、私たちは「東京グランギニョル」を感じることはできなかった。
その機会を与えてくれた作者・古屋兎丸先生に感謝したい。
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