恐ろしい、でも読みたい。麻薬のような作品
よくぞ漫画にしてくれました!
なんだかかわいい題名とは裏腹に、中身は濃いエログロナンセンスな漫画である。
この漫画のもとになったのは劇団「東京グランギニョル」が1985年に発表した『ライチ光クラブ』である。漫画は2006年に発表されたので、約20年もの歳月を経ての漫画化ということになる。
演劇が漫画化された経緯は作者である古屋兎丸が高校生の頃に実際にこの演劇をみて衝撃を受けたことから始まる。
1960年ころからアングラ演劇というものが流行り始めて1980年ごろには市民権を得つつあった。
アングラとひとくくりにするにはかなり難しいジャンルではあるが、見世物小屋的要素のある演劇というとイメージしやすいだろうか。
東京グランギニョルはたった2年の活動ではあったが、アングラ演劇好きの間では伝説的な劇団である。
そのため、この作品の漫画化にはなかり勇気が必要だったと思う。自身がアングラ好きならなおさらだ。
結果としてはこの漫画は大成功をおさめ、古屋兎丸最大のヒット作となっている。
1985年当時この演劇が見れなかった人、後から存在を知った人、当時生まれてなかった人からすると「よくぞ描いてくれた!」といったところだろうか。
緻密な書き込み、そして美少年、美少女
『ライチ☆光クラブ』の魅力は世界観、そして美しい少年少女ではないだろうか。
息が詰まるような底辺の暮らしの中で、少年は大人になることに絶望し、そして少しのすれ違いや誤解が目を覆いたくなるような残酷劇(グランギニョル)へと進んでいく
この魅力を最大限に引き出しているのが緻密な書き込みと、確かな人物の画力だ。
古屋兎丸は学生時代に演劇の経験があるので、漫画の表現にも演劇的な要素が見て取れる。
白黒のコントラストを強調した画面などは、まるで実際に劇場の暗闇で劇を見ているかのような錯覚に襲われる。
さらにもともとは油絵を専攻していたので、画力は折り紙付きだ。
油絵など絵画の経験がある作家は手書きに固執しがちだが、古屋兎丸はデジタル加工も難なくこなす。
エログロナンセンスという麻薬
初めにこの漫画をエログロナンセンスと表現したが、「なにそれ?」という人も多いと思う。
もともとは昭和の初めに流行した退廃的な風潮のことで煽情的、猟奇的、常識外れが合わさってできたものである。
反社会、反体制的な思想が根底にあり、社会的に不安感が高まると必ずと言ってもいいほどエログロナンセンスが流行する。
考えても見てほしい、『ライチ☆光クラブ』の元になった東京グランギニョルによる『ライチ光クラブ』が公演されたのは1985年、バブル景気の真っ只中である。
実体のない好景気に踊らされ、日本全体が集団ヒステリーのような状況のなか、この物語がうまれたのだ。
次に、漫画が発表されたのは2006年だ。2001年にはアメリカ同時多発テロが、2005年にはロンドン同時爆破テロが起きている。
2008年にはリーマンショックが起こり、社会的にも経済的にも不安定な状況だった。
さらに2016年には映画化もされているが、2011年の東日本大震災の復興も半ば、2016年に熊本でも大地震が起きているという状況であった。
エログロナンセンスは社会に閉塞感が満ちているときに、人が無意識に求める麻薬のようなものだ。
「こんなおそろしいものを」と思いながら、何度でも読んでしまう怪しい魅力がこの作品にはある。
まるで麻薬常習者のように、この作品を求めてしまうのだ。
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