フランス料理を見直せた作品 - Heaven?―ご苦楽レストランの感想

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Heaven?―ご苦楽レストラン

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フランス料理を見直せた作品

4.54.5
画力
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ストーリー
4.5
キャラクター
4.5
設定
4.0
演出
4.0

目次

「動物のお医者さん」にはまったため

「動物のお医者さん」での繊細な絵柄とリアルな笑いのセンスがツボにはまり、それは何度か読んでいたのだけど他の作品になぜか出会わずにいた。結局この「Heaven?」を知ったのは、2005年あたりだと思う。偶然本屋で見かけた見慣れた絵柄に引き込まれ、そのまま購入したことを覚えている。何度か売っては買戻しを繰り返して今手元にはないのだけど、家にある「動物のお医者さん」を最近読み、そしてまた読みたくなって図書館で借りてきた。そして読み返したらやはり独特のセンスと世界に引き込まれてしまった。
「動物のお医者さん」の次の作品である「おたんこナース」は読んだけれども買いたいと思うほどではなく、「チャンネルはそのまま!」も思いがけないところを突いてきた感じはしたのだけど、それほど心に響いてこなかった(とはいえ、双方とても面白く、これより面白くないマンガなんて五万とあると思う、念のため)。それらに比べると「Heaven?」は読み終わった後に何かしら心に残るものがあり、それが中毒性を誘うためだと思われる。
何度も売っては買いを繰りかえすくらいなら、素直にずっと本棚においておけばよかったと今更ながら悔やまれる作品である。

ただのグルメマンガでないところ

フランス料理をテーマにしながらも、それほど料理の内容に重きをおいていないのがこのマンガの肝である。肝は、サスペンス小説家であるオーナーに振り回されながらも働くスタッフとの物語がテーマになっている。またこのオーナーが開いたレストランの立地条件は常識で言うと恐ろしく悪く、だからこそ「ロワン ディシー(この世の果て)」という店の名前になっており、だからこそ彼女の言う「何かのついでにはこれない場所」という言葉が妙に心に残った。オープン当初のドタバタ加減もハラハラするような臨場感がありながらも面白く、自分勝手で利己主義なオーナーに皆反発しながらもなんだかんだ協力してしまうのは、意外にもオーナーの人柄なのかもしれない。
この傍若無人なオーナーがいつもおいしそうに食べる“賄い”と称するフランス料理は、格式高い印象のフランス料理をどこかしら近づきやすく感じさせる。それはこのいわゆる“ガサツ”なオーナーでも楽しめるのだということがわかるからなのかもしれない。
材料や料理法、作法についての薀蓄など、いわゆる最近の“グルメマンガ”に出てきがちな話はほとんど出てこない。とはいえ、時折描かれる繊細な模様のお皿に乗った料理は、表面のパリッとした香ばしさや肉のジューシーさなどが十分伝わってきて、料理の絵に手を抜いているというわけではない。ましてや、佐々木倫子は、細かく繊細な絵がうまいマンガ家だと思う。「動物のお医者さん」でも、出てくる動物の様々な表情や彼らの毛並みの一本一本までもが細かく描写されている。その彼女が書き込む料理はとてもおいしそうで、フランス料理を食べたいなどとは思ったことないのだけど、この本を読むととてもお腹がすく。そしてフランス料理もいいなあと思えるのだ。

フランス料理をテーマにした他の作品

すぐ思いつくのは槇村さとるの「おいしい関係」だ。これはフランス料理店で修行中の若い女性が主人公で、聞いたことのない料理も詳しく書いてあっておいしそうだと思えるものも少なくなかった。ただこの作品では、料理だけでなく主人公の恋愛も同時進行で進むため、どうしても恋愛を絡めないとだめなのかという考えに取り付かれてしまい、そこはあまり気に入っていないところだった。でもこの「heaven?」は恋愛要素は一切出ず、そこが気にいっているところのひとつだ。なんでも恋愛に絡めてしまうのは物語に浅はかさを感じてしまうのと同時に、その作品の底も浅く感じてしまう。研究なら研究、レストランならレストラン、修行なら修行とそういう自分の知らない世界を知りたいからこそそういう話を読むのに、そっちをおろそかにして誰にでも受ける恋愛に重きを置くのはどうも好みではない。
そういえば「動物のお医者さん」でも一切恋愛はでてこなかった。私が佐々木倫子を好きなのも、絵柄以外にしたらそのあたりにあるのかもしれない。

オーナーの清清しいほどの傍若無人さ

人目も気にせず自分の利益のみを追求し、そのためには周りの迷惑さえもいとわないこの気持ちのいいくらいの心意気をもつ彼女は、一切その傍若無人さがブレないところがすごいところだと思う。それはあまりにもはっきりとしているので、周りが逆に丸め込まれてしまうこともあるほどの強さであり、ある意味個人的には憧れるところでもある。人よりも自分、食べたいものは絶対食べる、イヤなものはイヤ、子供のようなストレートな感情だけれど、だからこそ人はもう少し大事にするべき感情なのかもしれないと思わせる。
現に、そのようなオーナーに皆は救われているところがある。はったりでもなんでも、妙に皆を力づけることのできる強さも彼女は持ち合わせており、だからこそ無茶なことをしながらも皆に慕われているのだろう。
そして彼女は実においしそうに食べる。そして空腹状態を大事にする。それは食事を大事に思っていることの現われである。お腹がすいたからといってその辺のものを適当に食べないところがとても好きだ。お腹がすいたからこそ、お酒が飲みたいからこそ、最高においしく食べることのできる(飲むことの出来る)コンディションをもってくる。そういう姿勢はとても好感が持てる。私自身も死ぬほどお腹がすいていても、死ぬほどすいているからこそ、適当なところで食事をしたくないという思いはある。だから彼女の気持ちはとてもよくわかるので感情移入してしまうのだ。時にお腹がすきすぎて腹が立つのもよくわかるところだ。

オーナーは漆原教授と菱沼か?

同じマンガ家だとどうしても他作品の登場人物との特徴の対比をしてしまうのが読者のサガではないだろうか。
この「Heaven?」のオーナーである黒須の傍若無人ぶりは、「動物のお医者さん」の漆原教授を彷彿とさせる。彼が困っているところを見たいという計画が実行されながらも、結局漆原教授が困った倍以上の労力が学生にかかるという事態が発覚したところとか、池にクワイを埋めて育てようとするところとか、たくさんの共通点があるのがわかる。その上彼女には、菱沼さんのような鈍感さがあり、菱沼さんほどの特異体質ではないまでも、誰もが目撃した屋根裏の子供の霊を見れなかったりする。鈍感さでは二人とも一位二位を争うくらいではないだろうか。そして伊賀くんの冷静さと物事を達観したような様子はハムテルを彷彿とさせるし、天真爛漫な河合くんと店長の堤は二階堂の役回りか。そう考えるのも、気に入ったマンガならではの楽しみである。

気持ちのいいラスト

落雷によって焼けてしまった初代「ロワン ディシー」だったが、移転に移転を重ね生きながらえ(伊賀くんの実家の佇まいが意外にロワン ディシーにぴったりだったことも驚いたが)最終的にバリに店を出したところは、マンガを超えたまるで映画のような終わり方だった。1巻にでてきた初老の紳士は年をとった伊賀くんだったことにも驚いたし、映画でも小説でも、最初のシーンが最後のシーンにつながってくるという展開は個人的にも好みだったので、マンガでこのような体験ができることに感動した。
40年後、オーナーは伊賀の経営するバリの店に訪ねてくる。それなりの年をとったマダム風になったように見えた彼女はもし次のページがあるとしたら、以前と全く変わっていないのかもしれない。そしてそうあってほしいと思わせてくれる、よいラストだった。

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ロワンディシー、

「Heaven?ご苦労レストラン」は、主人公伊賀が、個性的な性格のオーナーからヘッドハンティングされるところから始まります。お墓の中にあるフランス料理店ロワンディシー。もしあったら行ってみたいお店ですね。どうして伊賀はロワンディシーに転職したの?オーナーはどんな人?ラストはどうなったの?凄く気になったので、今回は感想を交えながらこの辺りのことを書いていきたいと思います。伊賀の転職 その決定打伊賀がロワンディシーに来ることは、オーナーに声をかけられる前から決まっていた必然だったのではないか、運命だったのではないかと読み取れます。オーナーに声をかけられたときには確かに伊賀は落ち込んでいました。サービスマンとしてやっていけないかも、という位のどん底です。しかし普通の人ではそれ位では赤の他人、しかも酔っぱらいの話で転職を決めるでしょうか?その前に布石があったのです。伊賀のもともと持っている気質、流さ...この感想を読む

4.04.0
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