商業化される宗教と現代社会との関わり、大衆における信仰心の形骸化や曖昧さというテーマとともにマッカーシズムの恐怖も描いた秀作 - エルマー・ガントリー/魅せられた男の感想

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商業化される宗教と現代社会との関わり、大衆における信仰心の形骸化や曖昧さというテーマとともにマッカーシズムの恐怖も描いた秀作

4.04.0
映像
4.0
脚本
4.0
キャスト
4.5
音楽
4.0
演出
4.0

この映画の題名ともなっている「エルマー・ガントリー ELMER GANTRY」とは、人の名前でバート・ランカスター演じる弁舌なめらかな希代の詭弁師だ。機械のセールスマンの彼は、口から先に生まれてきたような男。人を魅了する会話術を持つ彼は、その特技であちこちに首を突っ込む。

たまたま見かけた伝道師のシャロン(ジーン・シモンズ)に心を奪われ、彼女の教団に入り大演説をぶって、一躍注目を浴びることになる。このシャロンに取り入って、一緒に信仰の復興を始めるまでの手口の鮮やかさは、女性を口説く時のテキストにもなりうるほどだ。とにかく、このエルマー・ガントリーという男は、口がうまい。

昔、神学校で学んだらしいが、聖書の言葉を巧みに引用して、それこそカリスマ的で猛烈にエネルギッシュな演説を行ない、やんやの喝采を浴びる。この作品の演技でアカデミー主演男優賞を受賞したバート・ランカスターのこれぞ演技の見せどころともいうべき、大向こうを唸らせる見事な大演説ぶりには、観衆ならずとも、映画を観ている我々をも圧倒するほどの、それほどの素晴らしさなのだ。

ところが、人生いい事は続かないもので、シャロンが、教会の建設を進める街ゼニスに招待されてから、事態は悪化していく。まず記者のレファーツに、信仰の復興を実現するための金取引きやガントリーの不肖な過去、さらに説教内容の矛盾をスッパ抜かれる。

それを得意の詭弁でかわしたガントリーだが、昔の女で娼婦のルル(シャーリー・ジョーンズ)にキスしているところを盗撮されてしまう。シャロンへの愛も大衆への信頼も全てが水泡に帰し、説教の会場で聴衆の罵声や暴力にあうことになる。卵や野菜を投げ付けられ唖然とした表情で歩くガントリーの姿こそ、この作品の白眉だ。

彼はその後、ヒモに殴られるルルを助け、優しく抱きしめてやるのだった。そして、このペテン師のような男が、実は気のいい奴だということがわかってくる。ただのお調子者にすぎない彼が、金や名誉が絡む"宗教ゲーム"に、逆に踊らされる悲劇の男のように思われてくるのだ。

しかし、そのゲームは、何かを破壊するまで止むことはない。名誉を回復してシャロンの前に現われたガントリーは、同時にシャロンを失い、彼女の夢であった教会が炎に包まれるのを目のあたりにするのだった-------。

映画は"焦げた十字架"を象徴的に映し出して終わりますが、商業化される宗教と現代社会との関わり、大衆における信仰心の形骸化や曖昧さ、といったハリー・シンクレア・ルイスの原作のテーマ以上に色濃く感じられるのは、"ハリウッド・テン"を吊るし上げにした"マッカーシズムの恐怖"だ。

リチャード・ブルックス監督は、アーサー・ケネディ演じる記者のレファーツに、この作品の良心を託し、手のひらを返すように極端な対応を見せる「大衆」をクールな視点で見つめているように思う。

あくまでも、「明るい希望」という嘘をつき通して去っていくエルマー・ガントリーの空しさが、痛いほど印象に残る作品であったと思う。

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