ロスト・アイズ ~『愛の物語』
はじめに
タイトル読んだままの、視力を失った女性がヒロインの”人的ホラー”。サスペンス・ミステリー作品です。ポスターめっちゃ怖くないですか?
おばけが出てこない人間的な怖さのホラーをなんて呼ぶべきがずっと悩んでるんですが、いわゆる精神異常を指す言葉を用いた”サイコホラー”とはこの作品は呼びたくない。
なぜならこれは、『愛の物語』だからです。
☆簡単なストーリー☆
双子の姉の死を自殺とは思えなかったフリアの背後に謎の男が迫る。”透明人間”と呼ばれる彼は誰の記憶にも残らず次々と痕跡を消してゆく。失明して手術を受けたフリアの介護人となったその男は親身に目の見えないフリアの介護を続け、完全に騙しきっていたが、隣人の少女によってフリアは真実を知る。
すったもんだあって少女は殺され頑張って逃亡した先の盲目の老婦人が実は目は見えてるし介護人のママだしでフリアは「死ぬか俺と生きるか」と最悪の決断を迫られる。一度を死を選ぼうとするも出来ずにどうにか介護人から逃亡。ブレーカーを落とした闇の中で光るカメラのフラッシュ。舞う血しぶき。振り上げられたナイフ。生き残ったのは―――――?もちろんフリアです。
※ここからは独断と偏見による登場人物達の愛に溢れたロスト・アイズをお送りします。
フリアとサラの愛
まず初めにサラが殺されてそれに呼応するように息を詰まらせたフリアのシーンですが、ここは双子ならではの痛みを共有している設定で、この作品の中で唯一オカルトだったところだと思います。でもここで明確に二人は繋がってるってわかりますよね。
フリアは観測室で宇宙望遠鏡での観測を仕事にしていました。”見えない惑星”を探すお仕事。そして二人は半年以上会っていませんでした。
同じ視力が低下する病気を患っているのに片方は失明して一人暮らし、片方は見ることを生業にして夫もいる。ここでの対比はちょっと皮肉だなと思って初めは見ていたんですが、全然そんなことはありませんでした。
サラは手術をしたものの失敗したことをフリアに伝えていなくて、それを理由に自殺したんだと周囲はフリアに言い聞かせますが実際は違いました。リアによると、心配させるから言いたくないって。でもイサクには言ったのは、フリアも辿るかもしれない道だからですよね。
フリアは周囲の意見を信じることなくサラを信じて謎を追い続けます。一度、イサクの死によって混乱したフリアは二人が不倫していたのが信じられなくて、悲しいあまりに夜悪夢を見ます。二人がかりで包帯を取られそうになる夢。あんな残酷なシーンないなと思いますけどあれもフリアがサラを愛していたからこそ見る夢です。最後はリアに真実を告げられ誤解が解けて本当に良かったと思います。
アンヘルとママの愛
アンヘルとは介護人であり殺人鬼の彼のことでママはソレダドさんですが、ソレダドさんは結局いつから目が見えていたのでしょうか?ソレダドさんは、目が見えなくなって夫が去り、世話をしてくれていた息子も去った、と始めの方に言っていましたが、もしかして最初からそもそも失明なんてしていなかった?
彼女こそ最も悲しい女性です。愛に飢えてそれを手離したくないがゆえにそんな暴挙に出て息子は殺人鬼になっちゃったんですから。可哀想に。でもママの愛があってこそのアンヘル。アンヘルは所謂”透明人間”だと言われているほど、周囲に気付かれない存在だった。でもそれって意外です。
家では目の見えない(フリをしている)母のなくてはならない存在であったアンヘルが、一歩外に出たら誰からも気付かれない存在になんてなりますか?盲人の世話はやったことありませんけど、盲人ビギナーのフリアを介護するアンヘルはめちゃくちゃ気が効くし教え方も上手かったように思います。家の中の歩数を数えておいてあげたりね。
つまりアンヘルは人に尽くすことで存在感を出せる人間だったんですね。それは多分ママが大好きだったからです。ママに求められるまま存在し、ママの手助けをして、ママの愛を受けて育った。それなのに外の世界に出てみると、案外手助けを必要としている人って少なくて、誰を愛せばいいのかわからない。アンヘルがママの家を出たのはいつ頃かわかりませんが思春期頃でしょうか?でも結局ママから離れて見つけたのは、ママみたいな盲人だった。究極のマザコンですよ。だからママが目が見えていたってわかっても、怒ったけど殺さずに目を見えなくしてあげた。優しい息子じゃないですか。アンヘルって根はとってもいい子なんだと思うんです。
アンヘルの盲人への愛
これはママへの愛と重なるんですか、アンヘルは作中「盲人は俺に気付いている」とフリアに語ります。それが動機で介護人になったのだと。
えっ…優しい…!承認欲求を満たすための職業選択なんて誰でもやっていることですが、「命を救ってやった優越感に浸る為に医者になった」って言われるより随分いい子じゃないですか?「気付いてもらえたのが嬉しくて」って健気…!これは純愛ですよ!
たまたま今回サラもフリアも手術で治っちゃう患者だったからあれですけど、これは手術ではどうしようもないような患者さんとかとの出会いがあればアンヘルは全く違った人生を歩むことが出来ていたのでは?ご飯も作れる掃除も出来るエスコートだってお手の物でクラシックにも詳しいなんて優良物件なんじゃないですか?殺人鬼じゃなければ!とはいえ殺人鬼になってしまったのもサラを愛してその愛を失うのが怖かった故ですからやっぱり純愛ですよね。ここもママが夫や息子を失いたくなくて盲人のふりをしていたのに通じている気がします。
フリアとイサクの愛
これはもう言わずもがなという感じですが、この映画はイサクがいかにフリアを愛していたかが副題にあると思うんです。
ストレスが視力低下に繋がるからと、頼むから犯人探しはやめてくれと懇願するイサク。フリアはサラへの想いゆえにそれを聞きません。フリアに帰宅を勧めるもののフリアが近くに泊まって行こうと提案した時のイサクの安堵した顔!二人の小旅行が楽しめるね、と喜んだ矢先にそれはサラの軌跡を辿って来たのだと知り落胆するイサク。翌日謎の男が車を置いた駐車場に行きたいと言うフリアを怒鳴ったイサクの想いの強さを思うと胸が痛くなります。イサクは絶対に彼女に失明して欲しくなかったんです。
なぜって、ふたりの関係はサハラ砂漠で星を見上げたあの時に始まったのだから。イサクはフリアが星を見るのが大好きだとわかっているからこそ、絶対に視力を手離させるわけにはいかなかった。それにはストレスをかけるのも良くない。だからサラの手術が失敗した話もしなかった。
思えば駐車場での怒鳴り合いが二人の交わした最後の会話なんですね。最後にフリアが亡くなったイサクの瞳を見るシーン。イサクの瞳がフリアの命を救ったんです。イサクの瞳を通して真実を見た。そして鏡の中の、瞳を見て…。
「君の瞳の中に宇宙が見える」目が見えなくなったフリアの瞳の中には、イサクと共に見たサハラの夜空が輝いていることでしょう。
まとめ
どうでしたか、ロスト・アイズ。愛の物語に見えて来ましたか?というかどう考えても愛の物語です。驚くくらいにホラーじゃない。思えば逃げて来たフリアに変態した隣のブラスコ氏も愛に飢えてそうしたわけですし(そのせいで大きな誤解が生まれるんですが)、リアは父の誤解を解くのとフリアがサラの二の舞にならないようにわざわざ追いかけてきてくれたわけで、フリアはみんなから愛されてますね。リアとサラも本当はとても仲良しだったんだろうな。そういえば鈴のついた鍵がブラスコ氏の家の壁にかかっていたのは、リアが取ってきてかけたんでしょうか?ちょっとそこだけ謎でいます。
姉を失い、夫を失い、視力も失う。失ったものが多すぎるフリアでしたが、これからはサラやイサクの愛に包まれて、強く行きて欲しいです!
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