人間としての喜怒哀楽を通して、人間が生きる真摯な姿へのあたたかな賛美と寛容を描く傑作ミュージカル 「屋根の上のバイオリン弾き」 - 屋根の上のバイオリン弾きの感想

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人間としての喜怒哀楽を通して、人間が生きる真摯な姿へのあたたかな賛美と寛容を描く傑作ミュージカル 「屋根の上のバイオリン弾き」

4.04.0
映像
4.0
脚本
4.0
キャスト
4.0
音楽
4.5
演出
4.0

ブロードウェイ・ミュージカルの大ヒット作として有名なこの「屋根の上のバイオリン弾き」。原作は、ショロム・アレイカムの小説「テヴィエの娘たち」で、まずブロードウェイ・ミュージカルとして登場し、1964年の初演時に観客動員記録更新の大ヒットになっただけでなく、演劇界で最も権威のあるトニー賞の主要部門を独占するという快挙を果たし、1960年代のミュージカルを代表する作品になったのです。

そして、この傑作ミュージカルは全世界の舞台で上演され、日本の舞台でもテヴィエ役を森繁久彌、上條恒彦、西田敏行、市村正親などが演じ、ロングラン上演されていることでも有名です。そして、「夜の大捜査線」「ジーザス・クライスト・スーパースター」の名匠ノーマン・ジュイソン監督が映画化したこの作品は、主役のテヴィエ役にロンドンの舞台で同じ役を演じたイスラエルの俳優トポルが抜擢され、味わい深い名演を披露しています。

1905年前後のロシアのウクライナ地方にある寒村アナテフカ。そこに住むユダヤ人たちが、自分たちが生まれ育ったその村を、圧政のため追い出されるまでを描いたこのミュージカル映画は、単にユダヤ人たちの性格や系統を描いている以上に、ここで伝統を大切にしながら生きている人々の、彼らの人間としての喜怒哀楽をじっくりと描き出した作品になっていると思います。そして、それは主人公であり、5人の娘の父親でもあるテヴィエのおおらかな寛容として、描き出されているのです。

そして、その5人の娘たちの恋を通して、近代化の波を描き、この村の彼らユダヤ人たちに対する理不尽ともいえる圧政が描かれ、政情が厳しく悪化していく中、新しい生活の場を求めて、彼らは旅立って行くのです。

そして、この映画で音楽を担当するのは、「スター・ウォーズ」「ジョーズ」「未知との遭遇」などのスコアを代表作とする、今やハリウッド映画界を代表する大御所のジョン・ウィリアムズ。彼はそのキャリアを、ジュリアード音楽院を卒業後の1950年代半ばからはじめ、コロムビアや20世紀フォックスのスタジオ・オーケストラのピアニストから、TV番組の音楽担当を経て、1960年代になり映画音楽を担当するようになりました。

映画の冒頭、朝陽が昇り、夜明けの風景が映し出され、そこに、屋根の上でヴァイオリンを弾く男のシルエットがかぶさります。そして、ユダヤ人の風習を語る「トラディション(伝統)」が歌われます。作曲はジェリー・ボック、作詞はシェルドン・ハーニック、そしてヴァイオリンを演奏するのはアイザック・スターンなのです。

この映画に挿入されるボックとハーニックの歌はどれも素晴らしく、人間的なあたたかさを感じさせてくれます。これに対して、名手スターンの弾くヴァイオリンの音色は、明るくもなく暗くもなく、冷たさもあたたかさもなく、ある"速度"を感じさせてくれます。伝統の中に生きてきたユダヤ人たちの、ある時代の歴史が急速に変化する様を、それは暗示しているようにも思えます。舞台となっているアナテフカという小さな村も、近代化の波を受けているのです。

そんなアナテフカの村で牛乳屋を営み、バターやチーズなども作って販売しているテヴィエも、伝統を守ってきたひとりでした。生活は苦しく、いつも妻のゴールデ(ノーマ・クレイン)に文句をつけられています。そんなテヴィエには、5人の娘があり、娘の結婚は、縁談人の見つけてきた人を、親が了解して決めるというユダヤのしきたりに従って結婚させるのが習慣になっていたのです。

テヴィエの長女ツァイテルのために、縁談人のイエンテは、肉屋のラザールの後妻の話を持ってきます。貧乏なテヴィエとゴールデの夫婦は、ラザールが豊かなことからこの縁談を喜びます。そして、テヴィエは安息日のあと、すぐにラザールと会い、この縁談を決めてくるのでした。しかし、ツァイテルには好きな男性がいて、それは仕立屋のムーテルだったのです。

ツァイテルとモーテルは、テヴィエに話します。「二人は結婚を誓い合っている」と。「そんな方法はここでは通用しない」と、テヴィエは言いながらも、結局は二人の結婚を認めます。恋愛結婚など存在しなかった時代の、これは革新的なことでした。そして、このツァイテルとモーテルの結婚の祝宴の時、この作品で最も有名な「サンライズ、サンセット」が歌われます。「いつの間に、こんなに大きくなったのか」と、まずは親の側の感慨を情感たっぷりに歌いあげて、実に感動的です。

次女のホーデルは、村に立ち寄った左翼思想の学生と恋仲になり、彼を追ってシベリアに行ってしまいます。テヴィエは、この時も反対したのですが、結局のところは許してしまうのです。だが、三女のチャヴァの時は、どうしても許すことができなかったのです。なぜかと言うと、相手はロシア人だったからです。

やがて、このアナテフカの村に、ユダヤ人立ち退きの命令が下ります。3日以内に、この村から出て行けと。人々は、親戚などを頼って村を出て行き、テヴィエ一家は、アメリカをめざすことになります。荷車を押して、村を出て行くテヴィエ一家------。

このミュージカル映画には、「トラディション(伝統)」「サンライズ、サンセット」のほかにも、結婚の仲人について娘たちが歌う「マッチ・メーカー」、テヴィエたちが酒場で歌い踊る「人生に乾杯」、次女のソロ・ナンバー「愛する故郷を離れて」など名曲がいっぱいあり、観ている私の心を切なくも豊かな感動で満たしてくれるのです。

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