『グレート・ギャツビー』の細かい描写から分かること
作中で解明すべき細かな描写
私は村上春樹さんが翻訳された『グレート・ギャツビー』を読みました。私は『グレート・ギャツビー』の中心的なストーリー展開を楽しんだ後に何度も読みなおしてみました。作者が作中にちりばめた細かな描写についてよく考察してみて、分かったことがあるのでご紹介します。
2つの自動車事故の描写について
まず作中には2つ、自動車事故に関する描写が見られます。1つめは、初めてギャツビーのパーティーに行った帰りにニックが目撃した「フクロウ眼鏡の男」の自動車事故です。2つめは、作中で起きる悲劇である、マートルが死んでしまう自動車事故です。1つめの自動車事故は、特にこの作品の中心的なストーリー展開に関係するものではないように思われます。ですが、なぜそのようなよくわからない描写が挿入されているのかということは、作中の2つめの自動車事故と対比させてみると分かってくるのです。
この2つの自動車事故には対比している部分が見られます。1つめの事故では車輪がもぎ取られ、運転していた男の手足がぶらぶらしていると描写されます。2つめの事故ではマートルの左の乳房がもげてぶらぶらしていると描写されます。また、1つめの事故では運転していた男が「亡霊」と表現されます。それに対し2つめの事故では、マートルの夫であるジョージが「幽霊」のように「生気」や「覇気を欠い」ていると表現されます。さらに1つめの事故ではニックが「金切り声のごとき警笛」の音を耳にするのに対し、2つめの事故ではジョージの「甲高いおぞましい叫び」声が響き渡ります。また、1つめの事故ではフクロウ眼鏡の男も現場で目撃者となっています。一方2つめの事故ではT・J・エックルバーグ博士の眼の広告板がその悲劇的な事故の目撃者として出てきます。
ここまで見ると、作中に出てくる2つの自動車事故の描写がとても似ていることが分かると思います。1つめの自動車事故は、後に起こる悲劇的なマートルの自動車事故を暗示していたと言えるのではないでしょうか。つまり1つめの事故は、2つめの事故の予言めいた出来事としてあえて挿入されたと言えると思います。
ミカエリスの間違った証言について
もう一つ。作中で起きる悲劇の1つはマートルが死んでしまう自動車事故です。その自動車事故の目撃者としてミカエリスという男が警察に事故についての証言をするシーンがあります。自動車事故の真実は、ミカエリスの証言とは別のところでちゃんと読者に明らかにされます。そしてミカエリスが警察にした証言が間違っていたことを読者は知るのです。単にミカエリスが間違った証言をしたシーンだととらえても物語を読み進めるのになんら影響はないのですが、その間違った証言についてよく考察すると、ミカエリスの間違った証言にもきちんと意味が含まれていると分かるのです。
ミカエリスは、マートルをひいた車の色を「定かには覚えていな」かったとしながらも、「淡い緑色だった」と証言しています。マートルをひいたのは実際にはギャツビーの車で、黄色だったのです。ではなぜ作者はミカエリスにわざわざ「緑色」と証言させたのでしょうか。これは作中で緑色が「希望」を表す色として登場するからなのです。ギャツビーにとっての希望は、デイジーや、デイジー宅の桟橋の先端にともっていた「緑の灯火」です。ギャツビーの車の革のシートも緑色だと描かれています。
ではマートルが「緑色の車」にひかれたという間違った証言にはどんな意味が含まれているのでしょうか。私は、「マートルが希望を追いかけたことで死に至った」ことを示していると考えています。マートルはトムと不倫していたのですが、それは自分がより裕福な日々を送ることへの希望があったからであり、成り上がるということが目的でした。ですが結局マートルは、その希望を追いかけたために死に至りました。そしてこの作品の中心的なストーリー展開であるギャツビーの死にも、希望が関係しています。ギャツビーも、デイジーを、そして希望を追い求めたのですが、希望を手にできることができず希望に裏切られた形になっただけでなく、最終的に死に追いやられます。
この作品はよくアメリカンドリームを追いかけたギャツビーの物語として紹介されます。ですが詳しく言えば、マートルやギャツビーという登場人物が、希望を追いかけて死に至った経緯が描かれていると言えます。希望が緑色という色をモチーフに描かれていることと、ミカエリスの間違った証言とには、マートルとギャツビーが希望に裏切られて死にさえ至ったということを強調する効果があると言えるのです。
まとめ
まずギャツビーのパーティーから帰る際の事故の描写は、マートルがひかれる事故の描写の予言めいた出来事として描かれていると言えるのです。また「マートルが淡い緑色の車にひかれた」というミカエリスの間違った証言は、マートルやギャツビーが希望を手にできなかっただけでなく、死にさえも至ったということを強調して示していると言えます。以上、私が『グレート・ギャツビー』を読んで考察したことでした。
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