蒼穹のファフナー・卒業から始まる原点
蒼穹のファフナー・原点にして重要な中間点
蒼穹のファフナー本編終了後、続編の映画の前にTVスペシャルとして放映された本編。
本編中に言葉として出てきたが、実態の分からなかったもののいくつかを映像化したものである。
本編開始時にギリギリで整っていたアルヴィス戦力、その礎を築いたといって過言ではないL計画。
やはりその中核を担うのも、少年少女であらねばならぬという悲しい現実…蒼穹のファフナーの世界観の根幹はそのままに、もっと残酷な戦いが繰り広げられる。
竜宮島というものはそこまでして守らねばならないのかと、大人の視点から見るととてつもない葛藤がある。
作品全体としての敵対勢力「フェストゥム」に対して、人類同士がまず手を取り合えない状況を、今作も逃亡という形で表していることが悲しくて切ない。
そしてそれは主人公とヒロイン、またその周囲を取り巻く人物たちの島を守りたいという願いと、己の生存本能とのせめぎ合いという過酷な状況を生み出している。
だが、これがなければ後に続く物語は生まれなかった。
彼らが繋げてくれたものを、短めの放映時間ながら丁寧に描かれていることをまずは評価したい。
己が守るべきもの、それは世界か命か
L計画というものの根幹は竜宮島を守ること、それ一点である。
そのために自分たちがいる、というのを己の意思で学んだり、選んだりすることの出来ない少年少女達。
それでもそれぞれの目的のために、故郷から離れ、常に敵と戦い続ける状況に身を置かねばならない。
敵と戦う恐怖、同化現象が進んで行き、己が己でなくなっていく恐怖。
それに耐えながら……徐々に失われていく仲間の命に耐えられず、書き込まれていく島への帰還の願い。生きたいという願い。
ネットで度々、関連しない部分でも何故か見られる「どうせ みんな いなくなる」のフレーズも、これが原典である。
そんな思いを背負って戦い続ける僚と佑未、それぞれの心中が同じではないことは、違う人間なのだから当たり前ではあるのだが興味深い部分でもある。
僚は佑未のため、佑未は父とのわだかまりを残した状態。
だがそんな思いが最終局面で通じ合うも、両者命を落としてしまう悲しい結末を迎えてしまうが、ここに救いがあるのである。
彼らが選んだのは己でも相手でもなく、竜宮島とそこにいる住民たち、その未来。
勿論そこに至るまでの葛藤はある。生き残りたい。生きて帰りたい。
最後の最後まで彼らはあがき続け、ギリギリのところまで辿りつきかけた。
決して希望は失わなかった。
それは彼らが生きた間に培われた人間関係、それを育んだ竜宮島が、大人の都合の中でも彼らを兵器のためではなく人間として育ててきた、そんな部分が垣間見える。
この点は後のシリーズにも共通していくものであり、悲しいエピソードを挟みつつも必ず希望を掴み取る。
ハッピーエンドとは決して言えない。
彼らが選んだのは恐らくベターエンド。
自らの命よりも、竜宮島という世界の未来を選んだ。
現代に生きている自分と重ねると決して簡単に出来る選択ではない。
それほどに、竜宮島という世界が素晴らしいものである、という感覚は羨ましいとすら思えるのである。
本編中に度々「文化を残す」という言葉を耳にするが、見た目以上のもの、例えば人間関係や社会性、何を大切にし、何を守るという選択を自分で出来る…事前に知識として植え付けている部分があるのも否めないが、そういうものを大人は子ども達に与えているのではないか…個々の家庭差はあるものの、島全体としては共通しているのではないかと願いたい。
竜宮島がそういう場所であると、願いたい。
彼らが繋いだ未来との接点
さてこの物語には、これ以前に放送された「蒼穹のファフナー」本編や、以後の時間軸の作品にも大きな影響を与えている。
本編初期で犠牲となる蔵前は、この物語で大きな役割、僚達の遺したものを後に繋げるという役目を果たしている。
本編開始時点で島の秘密を知っていた総士についても同様で、僚達と交流のあった彼の心に何らかの影響を残したのは間違いないだろう。
(恐らく島を守るというのが一番強い部分と思われる)
L計画に直接参加している鏑木早苗は、後に同じくファフナーパイロットに選ばれる鏑木彗の実姉であり、彼女の死は鏑木家の家族関係に大きな影を落とす。
だがそれだけに終わらないことが、鏑木早苗にとっての救いと私は思っている。
そしてL計画自体も方法や形を変えてはいるが、後に行われるもっと大がかりな作戦の基盤となっている。
それら全ては僚を始めとしたL計画ありきのものと思うと、物語やキャラクターの動きだけでも充分に楽しめる当作品ではあるが、竜宮島の歴史という観点で見ていくと、本当に重要な役割だったのだと気づかされる。
卒業から始まる作品だが、実際のところは新たな世界への出発である。
当作品中に卒業したキャラクター達もそうなのであるが、シリーズ自体としてもそうなのではないか。
時系列順に放送したわけではないので多少後付け部分もあるのかもしれないが、シリーズ全体の未来をこの作品が作ったと言っても過言ではないと私は思う。
そしてその未来は、まだ続いていて、終わりはまだ迎えていない。
すなわち彼らの遺志は生きていて、繋がっていっているのだ。
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